「非上場株式を法人に譲渡したいが、どんな税金がかかるのかよく分からない」 「時価より安く譲渡したら、思わぬ課税が発生すると聞いたが、具体的にどういうことなのか知りたい」
このような疑問を持つ経営者や個人株主の方は多いのではないでしょうか。
非上場株式を個人から法人へ譲渡する取引は、事業承継や株式承継の場面で頻繁に発生しますが、税務上のルールを正確に理解していないと、売主・買主ともに予期せぬ課税リスクを負う可能性があります。
特に注意が必要なのが「時価」の問題です。 非上場株式には上場株式のような市場価格が存在しないため、税務上の時価をどのように算定するかが、課税結果を大きく左右します。 また、個人から法人への譲渡では、売主側(所得税)と買主側(法人税)でそれぞれ異なる通達が適用されるため、双方の視点から税務を把握しておくことが不可欠です。
この記事では、非上場株式を個人から法人へ譲渡する際の税金の種類・時価算定方法・ケース別シミュレーション・実務上の注意点を、基礎知識から丁寧に解説します。 税理士への相談前の予備知識として、あるいは実務担当者の確認資料として、ぜひ最後までお読みください。
非上場株式の基礎知識と個人から法人への譲渡の概要

非上場株式とは何か(上場株式との違い)
非上場株式とは、証券取引所に上場していない会社の株式のことです。 別名「取引相場のない株式」や「非公開株式」とも呼ばれ、中小企業や同族会社のオーナー、その親族などが保有するケースが大半を占めます。
上場株式と非上場株式の主な違いを整理すると、以下のとおりです。
| 比較項目 | 上場株式 | 非上場株式 |
|---|---|---|
| 取引場所 | 証券取引所 | 当事者間(相対取引) |
| 価格の確認 | リアルタイムで可能 | 算定が必要 |
| 流動性 | 高い | 低い |
| 株主の属性 | 不特定多数 | 経営者・親族・役員等が中心 |
| 譲渡制限 | 原則なし | 定款で制限されることが多い |
| 評価方法 | 市場価格 | 通達に基づく算定方式 |
上場株式であれば、株価は市場がリアルタイムで決定するため「時価」は明確です。 しかし非上場株式には市場価格が存在しないため、税務上の「時価」は国税庁が定める通達の方式に基づいて算定する必要があります。 この「時価算定」こそが、個人から法人への非上場株式譲渡において最も重要なテーマとなります。
また、中小企業の多くは定款に「株式の譲渡には取締役会(または株主総会)の承認が必要」と定めています。 これを譲渡制限株式といい、譲渡を行う際には事前に会社側の承認手続きを経ることが必要です。 この点も上場株式とは大きく異なるため、手続き面での注意が求められます。
個人から法人への譲渡が行われる主なシーン
非上場株式が個人から法人へ譲渡される場面は、大きく2つのシーンに分けられます。
株式承継・事業承継における活用
事業承継の場面では、後継者が新たに設立した持株会社(ホールディングス)に対して、現オーナーが保有する自社株式を譲渡するスキームが広く活用されています。
このスキームのメリットは以下のとおりです。
- 後継者個人が高額な株式を買い取る資金負担を軽減できる
- 持株会社を通じた財務設計が可能になる
- 将来的な相続時に株式の分散を防ぎやすくなる
具体的には、後継者(子息など)が100%出資する持株会社を設立し、その法人がオーナーから株式を買い取るという流れになります。 持株会社が金融機関から融資を受けて買取資金を調達し、対象会社からの配当収入で返済していくことが一般的です。
この取引においては、譲渡価格が「税務上の時価」と乖離していると、売主(個人)にみなし譲渡所得課税が適用されたり、買主(法人)に受贈益課税が発生したりするリスクがあります。 そのため、事前に適正な株価算定を行うことが極めて重要です。
親族間・同族会社間での株式集約
もうひとつの代表的なシーンが、同族会社の株式を1つの法人に集約するケースです。 たとえば、会社の設立時に兄弟で出資したものの、現在は経営に関与しない兄弟から、経営を担う弟が設立した法人へ株式を集約するような場合が該当します。
親族間・同族会社間の取引では、「身内同士だから」という感覚で経済合理性を無視した価格で取引が行われるケースがあり、これが税務リスクの温床になりやすいです。
税務当局は、このような特殊関係者間の取引を特に注視しています。 たとえ当事者間で合意した価格であっても、税務上の時価から大きく乖離した価格での取引は、課税問題につながる可能性があります。
譲渡前に確認すべき手続きの流れ
非上場株式を個人から法人へ譲渡するにあたり、税務的な対応だけでなく、会社法に基づく手続きも確実に踏む必要があります。
一般的な手続きの流れは以下のとおりです。
| ステップ | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 定款の確認 | 譲渡制限の有無を確認する |
| 2 | 株式譲渡承認請求 | 取締役会(または株主総会)に対して承認を請求する |
| 3 | 取締役会・株主総会の開催 | 承認決議を行う |
| 4 | 承認通知の受領 | 会社から承認(または不承認)の通知を受ける |
| 5 | 株価算定・交渉 | 税務上の時価を踏まえた譲渡価格を決定する |
| 6 | 株式譲渡契約の締結 | 契約書を作成し、双方が署名・押印する |
| 7 | 対価の支払い | 合意した譲渡代金を支払う |
| 8 | 株主名義の書き換え | 株主名簿の記載を変更する |
特に税務上重要なのが「ステップ5:株価算定」です。 この段階で誤った価格設定をすると、後述するみなし譲渡所得課税や受贈益課税といった想定外の税負担が発生します。 株価算定は税理士や公認会計士に依頼することが推奨されます。
また、株式譲渡に関する書類として、以下が必要になる場合があります。
- 株式譲渡承認請求書
- 株主総会(または取締役会)議事録
- 株式譲渡契約書(SPA)
- 株主名義書換請求書
- 株主名簿(更新後)
- 株主名簿記載事項証明書
個人から法人への非上場株式譲渡にかかる税金の種類

売主(個人)に課税される税金
譲渡所得税(所得税・住民税・復興特別所得税)
個人が非上場株式を法人に売却して利益を得た場合、その譲渡益には「譲渡所得税」が課税されます。
譲渡所得の計算式は以下のとおりです。
譲渡所得 = 譲渡価額 − 取得費 − 譲渡費用
取得費には株式の購入代金のほか、購入手数料なども含まれます。 譲渡費用は譲渡にあたってかかった費用(仲介手数料など)です。
非上場株式の譲渡所得は「申告分離課税」の対象となり、他の所得とは合算せず、一律20.315%の税率が適用されます。
内訳は以下のとおりです。
| 税目 | 税率 |
|---|---|
| 所得税 | 15% |
| 住民税 | 5% |
| 復興特別所得税(所得税額×2.1%) | 0.315% |
| 合計 | 20.315% |
復興特別所得税は、東日本大震災からの復興財源として2013年から2037年まで課される税金です。
なお、非上場株式(一般株式等)の譲渡損失は、同じ一般株式等の範囲内でしか損益通算できず、上場株式等の譲渡益との通算はできません。 また、原則として翌年以降への損失の繰越控除も認められていないため、注意が必要です。
みなし譲渡所得課税とは
通常の譲渡所得税は「実際の譲渡価額」をもとに計算しますが、個人が法人へ時価の2分の1未満で非上場株式を売却した場合には、実際の売却価格ではなく「時価」で譲渡があったとみなして課税される特例があります。 これが「みなし譲渡所得課税」です(所得税法59条第1項2号、同法施行令169条)。
たとえば、時価1,000万円の非上場株式を400万円(時価の1/2未満)で法人に売却した場合、売主個人は実際には400万円しか受け取っていないにもかかわらず、1,000万円で売却したものとみなして譲渡所得が計算されます。
これは、低廉譲渡による課税逃れを防ぐために設けられたルールです。 「身内の法人だから安く売ってあげよう」という行為が、思わぬ課税負担につながる典型的な例といえます。
買主(法人)に課税される税金
受贈益と法人税の関係
買主である法人が、非上場株式を時価よりも低い価格で取得した場合には、その差額(時価 ー 取得価格)が「受贈益」として法人の益金に算入され、法人税の課税対象となります(法人税法22条第2項)。
たとえば、時価1,000万円の非上場株式を700万円で購入した場合、差額の300万円が受贈益として法人の所得に加算されます。 これは、時価の2分の1以上かどうかに関係なく、少しでも時価を下回る価格での取得であれば受贈益課税が発生します。
売主側(個人)のみなし譲渡所得課税は「時価の1/2未満」という閾値がありますが、買主側(法人)の受贈益には閾値が設定されていない点に注意が必要です。
| 比較項目 | 売主(個人)のみなし譲渡 | 買主(法人)の受贈益 |
|---|---|---|
| 発動条件 | 時価の1/2未満の価格での譲渡 | 時価より1円でも低ければ発生 |
| 根拠条文 | 所得税法59条1項2号 | 法人税法22条2項 |
| 課税の内容 | 時価で譲渡したとみなして譲渡所得計算 | 時価との差額を益金算入 |
法人税の実効税率は会社規模や所得水準によって異なりますが、中小企業であれば概ね15〜34%程度が目安です。 受贈益が発生すると、その金額に応じた法人税負担が生じるため、取引価格の設定には細心の注意が必要です。
寄付金扱いになるケースとは
個人から法人への譲渡では寄付金の問題は直接生じませんが、逆方向(法人から個人へ)の低廉譲渡や、同族会社が関係者へ利益供与と判断されるような取引では、税務上「寄付金」として扱われるケースがあります。
法人が第三者(役員・株主等)に時価より低い価格で資産を譲渡する場合、時価との差額が寄付金として認定されます。 寄付金は損金算入に上限がある(損金不算入になりやすい)ため、結果として法人の税負担が増加します。
個人から法人への譲渡であっても、その法人の株主構成や関係性によっては、間接的に寄付金課税の問題が関係してくることがあります。 実務では税理士に個別の状況を確認することが重要です。
時価との乖離で生じる課税問題
時価の2分の1未満で譲渡した場合のリスク
前述したとおり、個人が法人に非上場株式を時価の2分の1未満の価格で譲渡した場合には、売主(個人)は時価で譲渡したものとみなして所得税が計算されます。
この場合、実際に受け取った金額よりも高い金額に課税されるという「実質的な税損失」が発生します。
具体例で確認してみましょう。
- 取得費:200万円
- 税務上の時価:1,000万円
- 実際の譲渡価額:400万円(時価の2/5=1/2未満)
通常の譲渡所得課税: (400万円 ー 200万円)× 20.315% = 約40.6万円
みなし譲渡所得課税(実際に適用): (1,000万円 ー 200万円)× 20.315% = 約162.5万円
売主は400万円しか受け取っていないにもかかわらず、162.5万円もの税負担が生じます。 これは「得た現金の約40%以上が税金として消える」という状況です。 安く売れば売るほど手元に残る資金が目減りするため、極めて不合理な結果をもたらします。
同族会社等の行為計算否認規定への注意
時価の1/2以上の価格で譲渡しても、課税問題が生じないとは限りません。 所得税基本通達59-3は、同族会社等の行為または計算の否認規定(所得税法157条)に該当する場合、時価で譲渡したものとして取り扱う旨を定めています。
「行為計算の否認」とは、税負担を不当に減少させる目的で行われた取引を、税務署長が否認できる規定です。 具体的には、以下のような状況が該当する可能性があります。
- 同族会社(オーナー一族が支配する会社)との取引で、正常な経済取引では到底ありえない価格での売買
- 実態として経済合理性がなく、税負担を減らすことのみを目的とした取引
- 時価の1/2以上ではあるものの、通常の第三者取引では考えられないほど低廉な価格
時価の1/2以上であれば安全、という単純な理解は危険です。 実質的に「経済合理性のない取引」と認定された場合には、時価での課税が適用されるリスクがあります。
非上場株式の税務上の時価算定方法

売主(個人)側における時価の考え方(所得税基本通達59-6)
個人が法人に非上場株式を譲渡する際の税務上の時価については、所得税基本通達59-6および23〜35共-9(4)に定められた方法で算定します。
具体的には、以下の優先順位に従って時価を決定します。
売買実例がある場合
対象の非上場株式について、過去に売買実例がある場合は、その取引価格が税務上の時価の基礎となります。
ただし、適用できる売買実例は「最近において行われたもののうち適正と認められるもの」に限られます。 つまり、過去に一度だけ行われた特殊な価格での取引や、当事者間の合意のみで形成された恣意的な価格は、税務上の時価として認められない可能性があります。
実務上、中小企業の非上場株式でこのケースに該当することは稀です。
類似法人の株価がある場合
売買実例がない場合でも、対象会社と「事業の種類・規模・収益の状況等が類似する他の法人の株式」の価額がある場合は、その価額に比準して時価を推定します。
類似する上場会社の株価情報などを参考に、業種・規模・収益状況が近い会社の株価を基礎として推定する手法です。 ただし、中小企業の場合は完全に類似する会社を見つけることが困難なケースが多く、実務では限定的な適用にとどまります。
いずれにも該当しない場合の純資産価額等参酌方式
売買実例も類似法人株価も存在しない場合(実務では大多数がこれに該当します)には、「譲渡日またはそれに最も近い日における発行法人の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」が時価となります。
この「純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」の計算には、財産評価基本通達の「取引相場のない株式等の評価」の規定を準用することが実務上認められています。 具体的な算定方法については後述の「財産評価基本通達の準用と注意点」で詳しく解説します。
売主側における同族株主・中心的な同族株主の判定方法
財産評価基本通達を準用して株価を算定する際には、譲渡する個人が「同族株主」または「中心的な同族株主」に該当するかどうかによって、適用される評価方式が異なります。
重要なのは、この判定を行うタイミングは「譲渡直前の保有株式数」で行うという点です。 通常の相続税・贈与税の評価では「取得後の保有株式数」で判定しますが、売主(個人)が譲渡する場合の判定は「譲渡前の状態」で行います。
判定の基準をまとめると以下のとおりです。
| 区分 | 定義 | 評価方式への影響 |
|---|---|---|
| 同族株主 | 株主1人およびその同族関係者の議決権合計が30%以上となるグループに属する株主(50%超のグループが存在する場合はそのグループのみが同族株主) | 原則的評価方式(類似業種比準・純資産価額など)を適用 |
| 中心的な同族株主 | 同族株主のうち、株主本人とその配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等姻族(およびこれらの者が25%以上の議決権を持つ同族関係法人)の議決権合計が25%以上となる株主個人 | 発行会社を常に「小会社」として計算 |
| 同族株主以外の株主 | 上記に該当しない少数株主 | 配当還元方式を適用 |
「中心的な同族株主」に該当する場合、会社規模(大会社・中会社・小会社)に関係なく、常に「小会社」として評価しなければならない点が重要です。 これにより、通常よりも高い評価額(純資産価額)が適用されやすくなります。
買主(法人)側における時価の考え方(法人税基本通達)
買主である法人が非上場株式を取得する場合の税務上の時価については、直接的に定めた法令の規定は存在しません。 そのため実務では、法人税基本通達2-3-4が準用する**法人税基本通達9-1-13(原則的評価)または9-1-14(簡便法)**によって評価します。 なお、これらの通達の規定内容は、法人税基本通達4-1-5・4-1-6とほぼ同等の内容です。
法人税基本通達4-1-5による原則的評価
法人税基本通達9-1-13(4-1-5も同内容)は、以下の優先順位で非上場株式の時価を算定します。
| 優先順位 | 条件 | 時価の算定方法 |
|---|---|---|
| 1 | 売買実例がある場合 | 譲渡日前6ヶ月間の売買実例のうち適正と認められる価額 |
| 2 | 公開途上の株式の場合 | 公募等の価格を参酌して通常取引されると認められる価額 |
| 3 | 類似法人の株価がある場合 | 類似法人の株価に比準して推定した価額 |
| 4 | 上記いずれにも該当しない場合 | 事業年度終了時の1株当たり純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額 |
売主側(所得税通達)と買主側(法人税通達)では、売買実例の参照期間に違いがあります。 売主側では「最近において売買の行われたもの」とされているのに対し、買主側では「譲渡日前6ヶ月間」と明示されている点に注意が必要です。
法人税基本通達4-1-6による簡便法
法人税基本通達9-1-14(4-1-6も同内容)は、原則的評価の③または④に該当する非上場株式について、「課税上弊害がない場合に限り」、財産評価基本通達の取引相場のない株式の評価の規定により算定することを認めています。
この「課税上弊害がない場合に限り」という条件が、売主側の所得税通達の「原則として」という表現と実質的に同じ意味であると考えられています。 つまり、財産評価基本通達を準用することで不当に低い評価額となり、課税を回避するような弊害が生じると判断される場合には、この簡便法は使えません。
買主側における中心的な同族株主の判定方法
買主(法人)側における「中心的な同族株主」の判定は、買主法人が評価対象会社にとって中心的な同族株主に該当するかどうかで行います。
法人は「1人の株主」として取り扱われ、その法人とその法人の同族関係者(法人を実質的に支配する個人・会社)の議決権合計で判定します。
たとえば、A社(後継者が100%出資)がB社(評価対象会社)の株式を50%保有し、A社を支配する後継者個人がB社の株式をさらに10%保有していれば、A社グループ全体での議決権割合は60%となり、「同族株主」に該当します。
財産評価基本通達の準用と注意点
小会社として評価する場合の算式と選択肢
売主(個人)が「中心的な同族株主」に該当する場合、発行会社の実際の会社規模に関係なく、常に「小会社」として評価を行います。
小会社の評価における算式と選択肢は以下のとおりです。
| 選択肢 | 算式 | 特徴 |
|---|---|---|
| 原則(純資産価額) | 1株当たり純資産価額 | 会社の解散清算価値に近い評価。高くなりやすい |
| 選択(小会社方式) | 類似業種比準価額×0.5 + 純資産価額×0.5 | 業種の上場株価を混入させ、評価を下げやすい |
実務上は「類似業種比準価額×0.5 + 純資産価額×0.5」の算式(いわゆる小会社方式)を選択するケースが多く見られます。 なぜなら、類似業種比準価額は純資産価額より低くなることが多く、結果として評価額を抑えられるからです。
ただし、どちらの算式を選択しても問題ありませんが、納税者が税負担を最小化するために選択できる権利であることを理解しておくことが大切です。
純資産価額計算における法人税額等相当額の非控除
財産評価基本通達を準用して純資産価額を計算する際には、相続税・贈与税の通常の評価とは異なるルールが適用されます。
通常の相続税評価での純資産価額計算では、会社が清算した場合に課される法人税等に相当する金額(評価差額の37%)を控除することが認められています。 しかし、個人から法人への非上場株式譲渡の場面では、この「法人税額等相当額の控除」は認められません。
この違いは評価額に大きく影響します。 たとえば、評価差額(含み益)が1,000万円ある会社の純資産価額を計算する場合を比べると、以下のようになります。
| 計算パターン | 純資産価額への影響 |
|---|---|
| 通常の相続税評価(控除あり) | 1,000万円 × 37% = 370万円を純資産価額から差し引ける |
| 個人から法人への譲渡(控除なし) | 控除できないため純資産価額が370万円高くなる |
法人税額等相当額を控除できないことで、譲渡時の時価(=純資産価額)は相続税評価額より高くなります。 これは売主(個人)にとっては、より高い時価をベースに譲渡所得が計算されることを意味し、課税上不利になりうる重要なポイントです。
土地・上場有価証券は譲渡時の時価で評価
純資産価額を計算する際に、発行会社が土地等または上場有価証券を保有している場合には、これらの資産は「譲渡時の時価」で評価します。
通常、会社の帳簿価額(取得原価)は現在の市場価値と大きく乖離していることがあります。 とくに土地については、バブル期以前に取得した土地が帳簿上の取得原価で記載されている一方、現在の路線価や公示価格は大幅に変動している場合があります。
土地や上場有価証券を多く保有する会社の純資産価額は、帳簿価額ベースよりも大幅に高くなる可能性があるため、事前の確認が必要です。
株価算定の具体的な手法

配当還元方式の特徴とメリット・デメリット
配当還元方式は、株主が受け取る配当金の額をもとに、株式の評価額を算定する方式です。
計算式は以下のとおりです。
1株当たりの評価額 =(1株当たりの年間配当金額 ÷ 10%)×(1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円)
この方式の特徴と適用場面をまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 適用対象 | 同族株主以外の少数株主(配当しか享受できない立場の株主) |
| 評価額の傾向 | 他の方式と比較して低くなりやすい |
| 算定根拠 | 受け取れる配当の経済的価値のみに着目 |
メリット
- 計算が比較的シンプルで、算定額も低くなりやすいため、贈与・相続時に納税負担を抑えやすい
- 会社の収益や資産状況に直接左右されないため、会社業績が良い場合でも評価額が抑制される
デメリット
- 配当を支払っていない会社(無配会社)の場合、最低限の評価額(2円50銭/年の配当があったと仮定)が適用されるため、必ずしも実態を反映しない
- 中心的な同族株主に該当する場合は適用できない
- 会社支配権を有する株主が、あえて配当還元方式を主張しても税務上認められない
配当還元方式は、あくまで「会社の経営に影響力を持たない少数株主」のための評価方式であることを理解しておきましょう。
類似業種比準方式の特徴とメリット・デメリット
類似業種比準方式は、評価対象会社と同一業種の上場会社の株価を基礎とし、配当・利益・純資産の3要素(b・c・d)を比較することで評価額を算定する方式です。
計算式の概要は以下のとおりです。
1株当たりの価額 = 類似業種の株価 × (b/B + c/C + d/D)÷ 3 × しんしゃく割合
※ B・C・Dは類似業種の1株当たりの配当・利益・純資産 ※ b・c・dは評価会社の1株当たりの配当・利益・純資産 ※ しんしゃく割合は会社規模に応じて大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5
メリット
- 上場株式の市場価格を参考にするため、客観的な評価として認識されやすい
- 評価対象会社の利益や純資産が業種平均と比べて低い場合、評価額を抑えやすい
- 大会社・中会社においては、純資産価額より低くなるケースが多い
デメリット
- 国税庁が公表する類似業種の株価データは四半期ごとの更新であり、最新の市場動向を完全に反映しない
- 業種が特殊すぎる場合や、規模が極端に小さい場合は類似業種を特定しにくい
- 計算過程が複雑であり、専門知識がないと誤算しやすい
類似業種比準方式は、利益や配当が少ない会社においては評価額を抑制する効果がある一方、利益が大きい会社では評価額が高くなりやすいという特性があります。
純資産価額方式の特徴とメリット・デメリット
純資産価額方式は、会社が保有するすべての資産・負債を相続税評価額(時価)で評価し直し、その差額(純資産)をもとに1株当たりの価額を算定する方式です。
計算式は以下のとおりです。
1株当たりの純資産価額 =(相続税評価額による総資産額 ー 負債額 ー 法人税額等相当額)÷ 発行済株式数
※ただし、個人から法人への譲渡場面では「法人税額等相当額の控除」は不可
メリット
- 会社の実質的な資産価値を反映するため、資産が豊富な会社(資産保有型会社など)には合理的な評価となる
- 計算根拠が明確で、税務署にも理解されやすい
デメリット
- 会社が土地や上場有価証券に含み益を多く抱えている場合、評価額が非常に高くなりやすい
- 個人から法人への譲渡場面では法人税額等相当額の控除ができないため、通常の相続税評価より高くなる
- 利益が少ない会社や成長段階の会社では、将来の収益力が反映されない
純資産価額方式は、「会社の現時点の解散清算価値」に最も近い評価といえます。 そのため、業績が良く利益が蓄積された会社や、含み益のある不動産を多く保有する会社では評価額が高くなる傾向があります。
個人から法人へ譲渡する際のケース別税金シミュレーション

ここでは、以下の前提条件でケース別の課税シミュレーションを行います。
【前提条件】
- 売主(個人)の株式取得費:200万円
- 株式の税務上の時価(適正価格):1,000万円
- 法人税の実効税率(買主法人):30%(中小企業の概算値)
- 個人の譲渡所得税率:20.315%
適正価格(時価)で譲渡した場合
売主(個人)側の課税
適正価格(1,000万円)で譲渡した場合、売主個人には通常の譲渡所得税が課税されます。
譲渡所得の計算: 1,000万円(譲渡価額)ー 200万円(取得費)= 800万円(譲渡所得)
譲渡所得税額: 800万円 × 20.315% = 約162.5万円
手取り額: 1,000万円 ー 162.5万円 = 約837.5万円
時価で売却した場合、売主は受け取った金額に対してのみ課税されるため、最もシンプルかつ合理的な課税関係となります。
買主(法人)側の課税
時価どおりの価格で取得した場合、買主法人には受贈益は発生しません。 法人が1,000万円を支払い、1,000万円相当の資産(株式)を取得したため、取引上の利益は0円です。
したがって、取得時点での法人税の追加負担は発生しません。 将来この株式を売却した際には、売却益に対して法人税が課税されます。
時価より低い価格で譲渡した場合
売主(個人)側の課税
時価(1,000万円)の1/2未満にあたる400万円で譲渡した場合(みなし譲渡所得課税が発動)
みなし譲渡所得の計算: 1,000万円(みなし譲渡価額)ー 200万円(取得費)= 800万円(みなし譲渡所得)
譲渡所得税額: 800万円 × 20.315% = 約162.5万円
手取り額: 400万円(受取額)ー 162.5万円(税金)= 約237.5万円
実際に受け取った400万円に対して162.5万円もの税金が課されます。 売却金額のうち約41%が税金となり、大幅な手取りの目減りが生じます。
さらに、時価の1/2以上(500万円〜999万円)で譲渡した場合でも、みなし譲渡所得課税は発動しませんが、受け取った金額に基づく課税は発生します。
たとえば700万円で譲渡した場合: (700万円 ー 200万円)× 20.315% = 約101.6万円
また、同族会社等の行為計算否認規定に該当する可能性も考慮が必要です。
買主(法人)側の課税
時価1,000万円の株式を400万円で取得した場合、差額600万円が受贈益として発生します。
受贈益課税の計算: (1,000万円 ー 400万円)× 30% = 約180万円
買主法人は400万円を支払った上で、さらに180万円の法人税負担が生じます。 実質的な取得コストは、400万円 + 180万円 = 580万円となります。
時価の1/2以上(500万円以上)で取得した場合でも、差額に対して受贈益が発生する点には注意が必要です。
時価より高い価格で譲渡した場合
売主(個人)側の課税
時価(1,000万円)を超える1,500万円で譲渡した場合を考えます。
この場合、譲渡所得は実際の譲渡価額に基づいて計算されます。
譲渡所得の計算: 1,500万円(譲渡価額)ー 200万円(取得費)= 1,300万円(譲渡所得)
譲渡所得税額: 1,300万円 × 20.315% = 約264.1万円
時価超過部分(1,500万円 ー 1,000万円 = 500万円)については、実務上は売主側に別途課税が問題になることはありませんが、取引の経済合理性について説明できるようにしておくことが重要です。
買主(法人)側の課税
時価より高い価格で株式を取得した場合、買主(法人)には受贈益は発生しません。
ただし、時価1,000万円の株式を1,500万円で取得しているため、時価超過額の500万円は税務上「過大支出」として問題になる可能性があります。
買主法人が取得した株式の帳簿価額は1,500万円として計上されますが、税務上の認識価額(時価)は1,000万円であるため、差額500万円は損金に算入できない可能性があります。 具体的な取り扱いは税理士に相談することを強くお勧めします。
個人から法人へ譲渡する際の実務上の注意点

経済合理性のない譲渡価額がもたらすリスク
非上場株式の個人から法人への譲渡において、最も避けなければならないのが「経済合理性のない価格設定」です。
身内や同族会社間での取引では、「どうせ同じグループ内の話だから」「相手が困らないように」という理由で、時価と乖離した価格での取引が行われることがあります。 しかし、税務上のリスクは以下のように多岐にわたります。
| リスクの種類 | 発生する課税 | 根拠 |
|---|---|---|
| 時価の1/2未満での譲渡 | 売主個人:みなし譲渡所得課税 | 所得税法59条1項2号 |
| 時価を下回る価格での譲渡 | 買主法人:受贈益(法人税) | 法人税法22条2項 |
| 経済合理性のない取引 | 売主個人:行為計算否認(時価課税) | 所得税法157条 |
| 役員・株主への利益供与に該当 | 法人:寄付金の損金不算入 | 法人税法37条 |
これらのリスクを回避するためには、必ず事前に税務上の適正な時価を算定し、その価格を基礎に取引を行うことが不可欠です。 株価算定は税理士または公認会計士に依頼し、算定根拠を文書として残しておくことが重要です。
財産評価基本通達の準用に課税上の弊害がある場合
財産評価基本通達による評価(簡便法)は「課税上弊害がない場合」にのみ適用が認められています。 では、「課税上弊害がある場合」とは、具体的にどのような状況でしょうか。
課税上弊害があると判断されやすいケースとしては、以下が挙げられます。
- 財産評価基本通達による評価額が、実際の資産価値(時価純資産額)と大幅に乖離する場合
- 土地や非上場株式に多大な含み益があり、通達評価額が著しく低くなる場合
- 評価手法の選択によって税負担が不自然に低減されるような操作が行われる場合
このような場合には、財産評価基本通達の準用が否定され、法人税基本通達9-1-13の「原則」に戻り、1株当たりの純資産価額等を参酌した「時価純資産価額」での評価が求められることになります。
「課税上弊害があるかどうか」は個別具体的な事情によって判断されるため、不安がある場合は事前に税理士に確認することが望ましいです。
令和2年改正による通達の明確化ポイント
令和2年(2020年)3月24日、最高裁判所の判決を受けて、所得税基本通達59-6が一部改正されました。 この改正によって、それまで実務上不明確だったいくつかの点が明確化されています。
しんしゃく割合の取り扱い
改正前は、「中心的な同族株主」として常に「小会社」として計算する場合、しんしゃく割合(類似業種比準価額の算定で使用)も常に小会社の0.5を使うのかという疑問がありました。
改正後の趣旨説明(令和2年9月30日 資産課税課情報第22号)では、この点について明確にされています。 「小会社として計算することは、あくまで評価算式上の会社規模区分の問題であり、しんしゃく割合については本来の会社規模(大会社・中会社・小会社)に応じた割合を適用する」という考え方が示されました。
具体的には、以下のとおりです。
| 実際の会社規模 | しんしゃく割合 | 注意点 |
|---|---|---|
| 大会社 | 0.7 | 算式上は「小会社」扱いでもしんしゃく割合は0.7 |
| 中会社 | 0.6 | 算式上は「小会社」扱いでもしんしゃく割合は0.6 |
| 小会社 | 0.5 | 実際の会社規模が小会社の場合のみ0.5 |
「算式上の小会社」と「しんしゃく割合のための会社規模」は別の判断であるという点が明確化されたことで、実務上の計算誤りを防げるようになりました。
子会社株式の評価方法
改正前は、評価対象会社が非上場の子会社株式を保有している場合、その子会社株式の評価に際しても「小会社」として計算すべきかどうかが不明確でした。
改正後の趣旨説明では、以下の考え方が示されています。
評価対象会社がその子会社の「中心的な同族株主」に該当する場合には、その子会社株式についても「小会社」として評価するのが相当であるという考え方が明確化されました。
これにより、グループ会社内での株式評価においても、一貫したルールで計算できるようになっています。
たとえば、A社(評価対象会社)がB社(子会社)の株式を60%保有している場合、A社はB社の「中心的な同族株主」に該当するため、B社株式を評価する際もB社を小会社として扱う必要があります。
非上場株式の個人から法人への譲渡でお困りの方は、株式会社繁栄 少数株Laboへご相談ください

個人から法人への非上場株式譲渡は、税務上の時価算定や課税関係が複雑で、少しの価格設定のズレが思わぬ追徴課税につながるリスクがあります。 「適正な譲渡価格をどう決めればいいかわからない」「持株会社スキームを使った事業承継を検討しているが、税務面が不安」「同族会社間での株式集約を進めたいが、課税問題が心配」
このようなお悩みは、早めに専門家へご相談されることをおすすめします。 放置すれば放置するほど、みなし譲渡や受贈益課税といったリスクが複雑に絡み合い、解決が難しくなるケースは少なくありません。
株式会社繁栄が運営する少数株Laboでは、非上場株式・少数株式に関するご相談を承っています。 個人から法人への株式譲渡における株価算定・税務対応・手続きサポートはもちろん、事業承継や持株会社スキームの設計に関する豊富な対応実績をもとに、お客様一人ひとりの状況に合わせた最適な対応策をご提案しています。 譲渡価格の適正性の確認から、売主・買主双方の税務リスクの整理、専門家との連携によるトータルサポートまで、一貫してお手伝いします。
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まとめ|個人から法人への非上場株式譲渡は税務上の時価管理が鍵
この記事では、非上場株式を個人から法人へ譲渡する際の税務と手続きについて、基礎知識から実務上の注意点まで幅広く解説しました。
最後に、重要なポイントを整理します。
【本記事の重要ポイント一覧】
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 時価の重要性 | 非上場株式には市場価格がなく、税務上の時価は通達に基づいて算定する |
| 売主(個人)の課税 | みなし譲渡所得課税は時価の1/2未満で発動するが、それ以上でも行為計算否認のリスクあり |
| 買主(法人)の課税 | 時価を1円でも下回る価格での取得で受贈益が発生する |
| 通達の使い分け | 売主側は所得税基本通達59-6、買主側は法人税基本通達2-3-4が準用する9-1-13・9-1-14が基礎 |
| 同族株主の判定 | 「中心的な同族株主」に該当すると常に「小会社」として評価される |
| 法人税額等相当額 | 個人から法人への譲渡場面では控除不可(相続税評価より高くなる) |
| 令和2年改正 | しんしゃく割合は本来の会社規模で判断、子会社株式も小会社評価の対象になりうる |
個人から法人への非上場株式譲渡において、税務上のリスクを回避するための最善策は「適正な時価を事前に算定し、その価格で取引を行うこと」です。
「身内だから少し安くしても大丈夫」「細かい計算は後で考えよう」という感覚での取引が、思わぬ追徴課税につながるケースは少なくありません。 特に事業承継や持株会社スキームを活用する場面では、取引規模が大きくなりやすいため、課税リスクの影響も大きくなります。
株価算定や取引価格の設定については、必ず事業承継に詳しい税理士や公認会計士に相談することをお勧めします。 適切な専門家のサポートのもとで、スムーズかつ税務リスクのない株式譲渡を実現してください。


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