家族間の株式譲渡とは?相続・贈与・売買の方法と税金対策を解説

「そろそろ会社の株を子どもに渡したい」「親が亡くなって株式をどう引き継げばいいかわからない」——そう悩む方は、決して少なくありません。

家族間で非上場株式を譲渡する場面は、中小企業の事業承継においてとくに多く発生します。 しかし、株式の渡し方には「相続」「贈与」「売買」の3つの方法があり、それぞれで発生する税金の種類や金額が大きく異なります。 方法を誤ったり、準備が遅れたりすると、後継者に想定外の税負担がのしかかったり、経営権をめぐる親族間トラブルに発展するリスクもあります。

この記事では、家族間の株式譲渡における各方法の特徴と税金のしくみ、名義変更の手続き、そして非上場株式ならではの節税アプローチまでを網羅的に解説します。 「どの方法を選ぶべきか」「何から準備すればいいか」を具体的に理解できる内容を目指しましたので、ぜひ最後までお読みください。

目次

家族間で株式を譲渡する3つの方法

家族間で株式を承継する方法は、大きく分けて「相続」「生前贈与」「売買」の3つです。 それぞれ、株式を移転するタイミング・税金の種類・手続きの複雑さが異なります。 まずは3つの方法の全体像を把握し、自社の状況に合った選択肢を検討しましょう。

方法移転のタイミング発生する税金対価の有無
相続被相続人の死亡後相続税なし
生前贈与生前(任意のタイミング)贈与税なし
売買生前(任意のタイミング)所得税・住民税(譲渡益に対して)あり

相続による株式承継

相続とは、株式を保有する人(被相続人)が亡くなった後に、法定相続人が株式を受け継ぐ方法です。 非上場企業の株式は、オーナー経営者が会社の経営権維持のために大量に保有していることが多く、相続の場面では「誰が株式を引き継ぐか」が会社の存続に直結する重大な問題になります。

相続の特徴とメリット

相続による株式承継には、いくつかの実務的なメリットがあります。

まず、後継者が株式を取得するための購入資金を用意する必要がない点は大きな利点です。 非上場株式の評価額は数千万円から数億円に達するケースも多く、後継者が自力で資金調達するのは現実的でないことがほとんどです。 相続であれば、現金を持ち出さずに株式を取得できます。

次に、相続税には基礎控除があるため、財産の規模によっては税金がかからない場合もあります。 基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という計算式で求められます。 たとえば法定相続人が3人であれば、基礎控除は4,800万円となり、相続財産の合計がこれを下回れば相続税はゼロです。

また、相続は被相続人が亡くなった時点で自動的に発生するため、生前から複雑な手続きを行わなくても株式が移転するという側面もあります。 生前贈与や売買のように、毎年の手続きや資金準備を継続する必要がありません。

一方で、相続は「いつ発生するかわからない」という性質上、事前の準備が不十分だと経営の空白期間が生じたり、株式が分散したりするリスクがあります。 早期に後継者を定め、遺言書の作成や税対策を進めておくことが重要です。

遺言書の重要性と遺留分への配慮

相続において最も重要な準備が、遺言書の作成です。

遺言書がない場合、株式を含む遺産は法定相続人全員で遺産分割協議を行い、その合意に基づいて分配されます。 後継者以外の相続人が「自分も株をもらいたい」と主張すれば、株式が分散して経営権が不安定になる危険があります。 中小企業のオーナー経営者であれば、「後継者に株式の過半数(できれば3分の2以上)を集中させる」という意思を遺言書に明記しておくことが経営承継の基本です。

ただし、遺言書を作成する際には「遺留分」への配慮が欠かせません。 遺留分とは、一定の法定相続人(配偶者・子・直系尊属)に対して法律が保障する最低限の取り分のことです。 遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人の場合は法定相続分の3分の1、それ以外は2分の1です(民法1042条)。

たとえば配偶者と子2人が相続人である場合の例で言えば、配偶者の遺留分は相続財産の4分の1、子それぞれの遺留分は8分の1となります。 実際の遺留分額は相続財産の構成や生前贈与の有無によって異なるため、必ず専門家に確認することをおすすめします。

後継者に株式を集中させる遺言があっても、他の相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。 この場合、後継者は他の相続人に対して現金で遺留分相当額を支払わなければならないケースがあり、資金繰りに影響が出ることも少なくありません。

遺留分トラブルを軽減する手段のひとつが、「遺留分に関する民法の特例(除外合意・固定合意)」です。 これは中小企業の事業承継を円滑にするために設けられた制度で、後継者が取得した自社株式を遺留分算定の基礎財産から除外したり、評価額を合意時点の価額に固定したりすることができます。 経済産業省の確認と家庭裁判所の許可が必要になりますが、要件を満たすことで遺留分をめぐるトラブルリスクを大幅に軽減できる可能性があります。 手続きや効果は個別の事情によって異なるため、弁護士や専門家への相談が不可欠です。

生前贈与による株式承継

生前贈与とは、株式の保有者が存命中に、無償で家族に株式を譲る方法です。 「いつ、誰に、どれだけ渡すか」を経営者自身がコントロールできる点が最大の特徴であり、計画的な事業承継を進める上で非常に有効な手段です。

贈与を受けた側(受贈者)には贈与税が発生しますが、制度を適切に活用することで税負担を大幅に抑えることが可能です。

暦年課税制度(年間110万円の非課税枠)

暦年課税とは、1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与の合計額が110万円以下であれば、贈与税がかからないという制度です。 この110万円は「基礎控除」と呼ばれ、受贈者1人につき毎年利用できます。

たとえば、非上場株式の評価額が1株10万円の会社で、毎年11株ずつ後継者に贈与すれば、年間110万円の非課税枠をちょうど使い切ることができます。 これを10年間継続すれば、合計1,100万円分の株式を税金ゼロで移転できます。

ただし、2024年(令和6年)の税制改正により、生前贈与の相続財産への加算期間が「3年以内」から「7年以内」に延長されました。 具体的には、贈与者が亡くなる前の7年間に行われた贈与は、相続財産に加算して相続税が計算されます(2024年1月1日以降の贈与から段階的に適用)。 なお、4〜7年前の贈与については合計額から100万円を控除した残額が加算対象となります。 以前は「3年以内の贈与は相続税の対象になる」というルールでしたが、この改正によって加算期間が延びたため、早期から計画的に贈与を開始することがより一層重要になっています。

また、「毎年同じ時期に同じ金額を贈与する」という行為は、税務署から「定期贈与」と見なされるリスクがあります。 定期贈与と認定されると、毎年の110万円ではなく、将来にわたる贈与の合計額に一括して贈与税が課される場合があります。 贈与のたびに贈与契約書を作成し、贈与時期や金額に変化をつけることで、定期贈与とみなされるリスクを回避することが大切です。

相続時精算課税制度の活用と注意点

相続時精算課税制度とは、贈与者が60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫への贈与に対して選択できる課税方式です。 この制度を選択すると、累計2,500万円までの贈与に対して贈与税が非課税となります(2,500万円を超える部分は一律20%の贈与税)。

さらに2024年(令和6年)の改正により、相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が新設されました。 これにより、毎年110万円以内の贈与であれば贈与税がかからないだけでなく、将来の相続税の計算対象にもなりません。 以前は「相続時精算課税を選択すると、すべての贈与が相続財産に加算される」というデメリットがありましたが、改正後は年間110万円の非課税枠が設けられたことで使い勝手が向上しました。

この制度は、株価が低い時期に一括で大量の株式を後継者に移転したい場合に特に有効です。 たとえば業績が一時的に落ちていて純資産が下がっているタイミングを活用し、2,500万円分の株式を一気に後継者に贈与することができます。 その後、会社の業績が回復して株価が上昇しても、贈与時の評価額をもとに相続税が計算されるため、節税効果が高まります。

一方で、注意点もあります。

  • 一度相続時精算課税を選択すると、同一の贈与者・受贈者の組み合わせでは暦年課税に戻れない
  • 贈与した財産は将来の相続税の計算に含まれるため、相続財産を減らす効果は年110万円の基礎控除分のみ
  • 手続きとして、初年度に税務署への「相続時精算課税選択届出書」の提出が必要

暦年課税と相続時精算課税のどちらが有利かは、株価の水準・後継者への移転ペース・経営者の年齢などによって異なります。 どちらの制度が自社の状況に合っているかは、税理士に相談した上で判断することを強くおすすめします。

家族間での株式売買

「相続」や「贈与」以外に、家族間であっても株式を「売買」によって移転する方法があります。 通常、売買は第三者間で行われるイメージがありますが、親族間でも適正な価格で売買契約を結ぶことは法的に問題ありません。

売買が選ばれるケースとメリット

家族間の株式売買が選ばれる主なケースと、そのメリットを整理します。

【遺留分問題を回避したい場合】 売買によって移転した株式は、相続財産には含まれません。 そのため、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けるリスクを回避しやすくなります。 後継者に株式を集中させたいが、他の相続人への影響を避けたい場合に有効な選択肢のひとつです。

【後継者の覚悟と資金力を確認したい場合】 売買では後継者が購入資金を用意する必要があります。 逆に言えば、「一定の資金力と経営への意欲がある後継者」を選別するフィルターとして機能させることができます。 役員報酬を積み上げさせて資金を準備させることで、後継者としての意識醸成にもつながります。

【贈与税の負担が大きくなる場合】 贈与税の最高税率は55%ですが、株式の売買による譲渡益への税率は一律20.315%(所得税15.315%+住民税5%)です。 株価が高く、贈与税の負担が大きくなる局面では、売買の方が税負担が軽くなるケースもあります。

時価より低い価格での売買・みなし贈与のリスク

家族間の株式売買で特に注意が必要なのが、「みなし贈与」のリスクです。

税法上、株式の売買価格が著しく低い場合、その差額が贈与として扱われることがあります。 つまり、1株の時価が100万円の株式を著しく低い価格で売った場合、差額部分が贈与とみなされ、受贈者に贈与税が課されるリスクがあります。

非上場株式の「時価」は、税務上「財産評価基本通達」に基づいて計算した評価額(取引相場のない株式の評価額)を用います。 具体的には、会社の規模に応じて「類似業種比準方式」「純資産価額方式」またはその折衷によって算出されます。 家族間での売買価格がこの評価額を大幅に下回っていると、税務調査で「みなし贈与あり」と指摘されるリスクがあります。

また、売り手(現オーナー)側にも注意が必要です。 時価を大きく下回る価格での売却は、売り手に「低廉譲渡」として取り扱われる場合があり、時価との差額について所得税の問題が生じることもあります。

こうしたリスクを避けるためには、事前に税理士や公認会計士に依頼して適正な株式評価を行い、その評価額を基準に売買価格を設定することが重要です。 株式売買を選択する場合は、必ず専門家の関与のもとで手続きを進めましょう。

方法ごとに異なる税金の種類と計算のしくみ

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株式を家族間で譲渡する場合、相続・贈与・売買のどの方法を選ぶかによって、発生する税金の種類と計算方法が全く異なります。 税金の負担を把握せずに手続きを進めると、予期せぬ高額な納税義務が生じることがあります。 ここでは、各方法で発生する税金の基礎知識を整理します。

相続税の基礎控除と計算式

相続税は、被相続人(亡くなった方)から受け継いだ財産の合計が基礎控除額を超えた場合にのみ発生します。

基礎控除額の計算式:

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

たとえば、法定相続人が配偶者と子2人の計3人であれば、基礎控除額は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」です。 相続財産の合計がこの4,800万円を超えた分に対して、相続税が課されます。

相続税の税率は累進課税で、課税遺産総額に応じて10%〜55%の税率が適用されます。

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

非上場株式の評価額が高い中小企業では、株式だけで相続財産の大部分を占めることがあります。 株式評価額が高ければ高いほど相続税の負担も増えるため、生前から評価額を下げる対策を講じておくことが重要です。

贈与税の課税方式と税率

贈与税には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つの課税方式があります。 どちらを適用するかによって税率や非課税枠が異なります。

暦年課税の税率(特例税率:直系尊属から18歳以上の子・孫への贈与)

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%
400万円以下15%10万円
600万円以下20%30万円
1,000万円以下30%90万円
1,500万円以下40%190万円
3,000万円以下45%265万円
4,500万円以下50%415万円
4,500万円超55%640万円

※基礎控除110万円を差し引いた後の金額に適用

一般税率(兄弟間や叔父・叔母から姪・甥への贈与など)は、上記の特例税率より高くなります。 親から子・孫への贈与であれば特例税率が適用されるため、一般税率よりも有利です。

相続時精算課税の概要:

  • 累計2,500万円まで贈与税ゼロ(2,500万円超の部分は一律20%)
  • 2024年改正により年間110万円の基礎控除が新設(この110万円分は相続税の計算にも含まれない)
  • 一度選択すると同一の組み合わせでは暦年課税に戻れない

贈与税は相続税よりも税率が高く設定されているため、計画性のない贈与は大きな税負担につながります。 制度の選択と贈与のタイミングは、必ず専門家と相談の上で決定しましょう。

株式売買にかかる所得税・住民税(20.315%)

株式を売買した場合、売却益(譲渡益)に対して所得税・復興特別所得税・住民税が課されます。 税率は上場・非上場を問わず、一律20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)です。

譲渡益の計算式:

譲渡益 = 売却金額 - (取得費 + 売却にかかった費用)

非上場株式の取得費は、株式を取得した際に実際に支払った金額です。 創業者であれば会社設立時の出資金額が取得費となります。 取得費が低い(または不明な)場合、売却金額のほぼ全額が譲渡益となり、税負担が大きくなる点に注意が必要です。

なお、取得費が不明な場合は「売却金額の5%」を概算取得費として使用できますが、この場合は実際の取得費よりはるかに低くなるため、税負担が増えます。

売却代金を受け取る売り手側に税金が発生するため、経営者が後継者に株式を売却した場合、経営者自身に譲渡所得税がかかる点も忘れてはなりません。 後継者の資金調達の観点だけでなく、現オーナーの手取り額も含めて資金計画を立てることが大切です。

株式の名義変更の流れと必要書類

株式の譲渡が決まったら、実際に名義変更の手続きを進める必要があります。 名義変更の方法は、「上場株式」か「非上場株式」かによって、手続きの流れも必要書類も大きく異なります。 また、相続か贈与かによっても必要書類が変わります。

上場株式の名義変更手続き

上場株式の名義変更は、株式を管理している証券会社を通じて行います。 以下の流れで手続きを進めます。

【生前贈与の場合】

  1. 贈与者・受贈者双方が同一の証券会社に口座を開設(受贈者が口座を持っていない場合は新規開設)
  2. 証券会社所定の「株式移管依頼書」を記入して提出
  3. 証券会社が手続きを実施し、受贈者の口座に株式が移管される
  4. 贈与税の申告が必要な場合は、翌年の確定申告期間(2月1日〜3月15日)に申告

【相続の場合】

  1. 被相続人の取引証券会社に連絡(口座の凍結を確認)
  2. 相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が株式を取得するかを決定
  3. 証券会社所定の相続手続き書類(名義書換請求書等)と必要書類を提出
  4. 証券会社の審査後、相続人の口座に株式が移管される
  5. 相続税の申告が必要な場合は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に申告

非上場株式の名義変更手続き

非上場株式の名義変更は、株式を発行した会社との間で直接手続きを行います。 上場株式と異なり、統一された手続き方法はなく、各会社の規定に従って進めます。

また、非上場株式の多くには「譲渡制限」が付されています。これは、株主が株式を譲渡する際には取締役会(取締役会非設置会社では株主総会)の承認が必要というルールで、定款に記載されています。 承認なしに株式を譲渡しても会社に対しては効力が生じません。

【非上場株式の名義変更の流れ(生前贈与・売買の場合)】

  1. 譲渡人(または譲受人)が会社に対して「株式譲渡承認申請書」を提出
  2. 取締役会(または株主総会)で譲渡の承認を決議
  3. 承認通知を受領後、株式譲渡契約書(または贈与契約書)を作成・締結
  4. 会社に「株主名簿書換請求書」を提出
  5. 会社が株主名簿を書き換えて手続き完了

【非上場株式の名義変更の流れ(相続の場合)】

相続の場合は、株式の移転は相続開始時に自動的に発生します(承認不要)。 ただし、株主名簿の書き換えは別途行う必要があります。

  1. 相続人が会社に相続発生の事実と株主名簿書換請求を通知
  2. 必要書類を提出(詳細は次項参照)
  3. 会社が株主名簿を書き換えて手続き完了

相続の場合は取締役会の承認は不要ですが、遺産分割が未了の場合は相続人全員での共有状態となるため、早期に遺産分割協議を終わらせることが望ましいです。

贈与・相続それぞれで必要な書類一覧

名義変更に必要な書類は、上場・非上場の別、および贈与・相続の別によって異なります。

【生前贈与の場合】

書類名上場株式非上場株式
贈与契約書(写し)
贈与者の印鑑登録証明書
受贈者の本人確認書類
証券会社所定の移管依頼書
株式譲渡承認申請書
株主名簿書換請求書
取締役会議事録(承認決議)

【相続の場合】

書類名上場株式非上場株式
相続人全員の戸籍謄本
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
遺産分割協議書(または遺言書)
相続人全員の印鑑登録証明書
証券会社所定の名義書換請求書
株主名簿書換請求書
取引口座引き継ぎ念書○(証券会社による)

相続の場合は戸籍収集だけでも手間がかかります。 被相続人が転籍を繰り返している場合、出生から死亡までの戸籍謄本を複数の市区町村から取り寄せる必要があります。 司法書士や税理士に依頼することで、手続きの負担を大幅に軽減できます。

家族間の株式譲渡における税金対策

非上場株式の評価額が高い会社では、何の対策もせずに相続や贈与を行うと、莫大な税金が発生することがあります。 税金対策は「どうせ将来のことだから」と先送りせず、できるだけ早い段階から計画的に取り組むことが重要です。 ここでは、実務でよく使われる節税手法を解説します。

事業承継税制(相続税・贈与税の猶予制度)の活用

事業承継税制とは、非上場株式を後継者に承継させる際の相続税または贈与税を、一定の要件を満たし続ける限り猶予し続ける(最終的には免除される)制度です。

事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」があります。 特例措置は、特例承継計画の提出期限が2027年(令和9年)9月30日、贈与・相続の実行期限が同年12月31日となっています(制度の最新情報は中小企業庁または税理士にご確認ください)。

特例措置の主な要件と特徴:

項目内容
対象会社中小企業者であること
対象株式数発行済株式総数の全部(議決権株式)
納税猶予割合相続税・贈与税の100%が猶予対象
後継者の要件代表権を有する者であること 等
事前手続き「特例承継計画」を都道府県知事に提出
維持要件承継後5年間、後継者が代表者であり続けること、株式を継続保有すること 等

特例措置の最大のメリットは、通常であれば数千万円から数億円にのぼる相続税・贈与税が、要件を満たす限り猶予され続ける点です。 後継者が引き続き経営を続け、適切な報告義務を履行することで、実質的な税負担を大幅に軽減することが期待できます。

一方で、事業承継税制には複数の注意点があります。

  • 猶予期間中に後継者が代表を退いたり株式を売却したりした場合、原則として猶予されていた税金に利子税を加えて納付が必要になります(適用される事由によって扱いが異なるケースもあるため、詳細は税理士に確認してください)
  • 毎年の継続届出書の提出など、維持手続きが煩雑
  • 将来的に事業を廃業・売却する可能性がある場合、猶予税額が確定してしまうリスクがある

事業承継税制は強力な節税手段である一方、長期にわたる維持管理が求められる制度です。 自社の将来の経営計画を踏まえて、税理士や事業承継の専門家と十分に検討した上で活用を判断してください。

生前贈与で計画的に株式を承継するポイント

事業承継税制を利用しない場合でも、生前贈与を計画的に行うことで税負担を大幅に軽減できます。

生前贈与のメリット

生前贈与で株式を承継する主なメリットは以下の通りです。

【タイミングを選べる】 株価が低い時期(業績が一時的に落ちている時期、役員退職金を支給して純資産が下がった直後など)に集中して贈与することで、評価額が低い状態で株式を移転できます。 相続のように「いつ発生するかわからない」という不確実性がなく、経営者が主体的にタイミングを選べます。

【分割して贈与することで税率を抑えられる】 一度に大量の株式を贈与すると高い税率が適用されますが、毎年少しずつ贈与することで、適用される税率を低く抑えることができます。 暦年課税の110万円非課税枠を毎年フル活用することで、長期にわたってコストを抑えながら株式を移転し続けることが可能です。

【生命保険との組み合わせでさらに効果的に】 生前贈与と並行して、生命保険(非上場株式の相続税納税資金用)を活用することで、万が一の際の納税資金を確保しながら、計画的な承継を進めることができます。

生前贈与の注意点・デメリット

生前贈与には節税効果がある一方、以下のような注意点もあります。

【7年以内の贈与は相続税の計算に含まれる(2024年改正)】 前述のとおり、2024年以降の暦年課税による贈与は、贈与者が亡くなる前7年以内のものが相続財産に加算されます。 早期から贈与を開始し、「7年の壁」を越えた贈与を積み重ねることが節税効果を高める鍵です。

【株式が分散して経営権が不安定になるリスク】 複数の相続人に対して株式を贈与する場合、株式の保有比率が分散し、特定の後継者が経営をコントロールしにくくなる恐れがあります。 贈与の対象は原則として後継者1人に絞り、他の相続人には別の財産(現金・不動産など)でバランスを取ることを検討しましょう。

【長期間の継続が必要】 暦年課税で110万円ずつ贈与する場合、数千万円の株式を全て移転するには数十年かかることもあります。 経営者が高齢になってから生前贈与を始めても、十分な節税効果を得られない場合があります。 できるだけ早い段階(50代までが理想)から計画的に始めることが重要です。

株式評価額を下げる節税アプローチ

非上場株式の評価額が高い場合、贈与や相続の前に評価額を引き下げる対策を行うことで、税負担を軽減できる可能性があります。 これは事業承継における「株価対策」と呼ばれ、税理士や公認会計士と連携して計画的に実施するものです。 具体的な効果は会社の規模・評価方法・業種によって異なるため、必ず専門家との事前シミュレーションが必要です。

【役員退職金の支給】 オーナー経営者が引退する際に役員退職金を受け取ると、会社の純資産が減少し、株式の評価額(純資産価額方式での評価)が下がる可能性があります。 役員退職金は会社の損金(経費)に算入されるため、法人税の節税にもなります。 退職金支給後のタイミングで株式を贈与または相続させることで、ケースによっては評価額を低く抑えた状態での移転が期待できます。

【不採算事業・資産の整理】 会社が保有する遊休不動産や不採算事業を整理・売却することで、純資産を圧縮し、株式評価額を下げられる場合があります。

【持株会社(ホールディングス)の活用】 持株会社を設立し、オーナーの株式を持株会社に移転することで、評価方法が変わり評価額が下がるケースがあります。 複雑な手法であるため、専門家の設計が不可欠です。

【類似業種比準価額の活用】 非上場株式の評価には「類似業種比準方式」が使えるケースがあり、この方式は上場している同業他社の株価をベースに計算します。 業績が一時的に落ちている時期(利益が少ない期)は類似業種比準価額が下がる傾向があるため、そのタイミングを活用した贈与・移転の実施を検討することも節税上の選択肢のひとつです。

家族間の株式譲渡で注意すべきポイント

家族間の株式譲渡は、税法や会社法が複雑に絡み合う場面です。 適切な対応を怠ると、多額の追徴税が発生したり、親族間で深刻なトラブルが起きたりするリスクがあります。 特に注意が必要なポイントを3点に絞って解説します。

株の評価額次第では多額の税金が発生する

非上場株式の評価額は、会社の業績・純資産・規模によって大きく変動します。 業績好調な会社の株式は、帳簿上の純資産をはるかに超える評価額になることがあります。

たとえば、純資産が5億円の中小企業で、オーナーが発行済株式の100%(1,000株)を保有していれば、1株あたりの純資産価額は50万円です。 この株式を子に相続させた場合、5億円に対して相続税がかかります(他の財産との合計次第では、税額が1億円を超えるケースも考えられます)。

「会社は順調に成長しているが、相続が発生したとたんに後継者が巨額の相続税を払えない」という事態は、決して珍しくありません。 相続税を現金で納付できなければ、株式の一部を売却したり、会社から資金を借り入れたりすることになり、経営の安定が損なわれます。

こうした事態を防ぐためには、自社株の評価額を定期的に把握し、評価額に見合った納税資金を早期に確保しておくことが重要です。 生命保険の活用や、計画的な生前贈与による株式分散が有効な対策となります。

複数の相続人がいる場合の遺産分割トラブル

中小企業のオーナーに複数の相続人がいる場合、株式の承継をめぐって遺産分割トラブルが発生することがあります。

最も典型的なケースは、「後継者である長男に株式を集中させたいが、次男・長女も相続人であり、遺留分を主張してくる」という状況です。 株式が主要な財産であり、他の財産(現金・不動産)が少ない場合、後継者は遺留分相当額を現金で支払わなければならなくなる可能性があります。

さらに厄介なのは、株式を遺留分の対象から除外できない場合、相続人全員で株式を共有する状態が生じることです。 株式が複数の相続人の共有になると、株主総会での議決権行使が煩雑になり、経営上の意思決定が遅れる恐れがあります。

この問題への対処策として、以下のアプローチが有効です。

  • 遺言書で後継者への株式集中を明記し、他の相続人には代償財産(現金)を準備しておく
  • 事業承継税制の遺留分特例(除外合意・固定合意)の活用を弁護士に相談する
  • 生前贈与で株式を徐々に後継者に移転し、相続時に残る株式の量を減らす
  • 生命保険金(受取人を他の相続人にする)を活用して、遺留分相当額を現金で準備する

相続後に株式を売却する場合の譲渡所得税

相続で株式を受け取った後継者や相続人が、その株式を第三者(M&Aなど)に売却する場合、売却益に対して譲渡所得税(20.315%)がかかります。

この場合の「取得費」は、原則として被相続人が株式を取得したときの価額を引き継ぎます。 創業者の場合は出資金額が取得費となるため、会社設立時から株価が大幅に上昇していると、売却時に多額の譲渡益が生じます。

ただし、相続税を支払っている場合には、「相続税の取得費加算の特例」を利用することで、支払った相続税の一部を株式の取得費に加算できます。 この特例を利用できるのは、相続開始から3年10か月以内(正確には、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日まで)に株式を売却した場合に限られます。

「相続した会社をいずれM&Aで売却したい」と考えている場合には、この期限を念頭に置いておくことが大切です。 3年10か月の期限を過ぎると取得費加算の特例が使えなくなり、税負担が増えます。

また、相続後に株式を売却する際には、非上場株式を取引してくれる買い手を探す必要があります。 市場がないため売却先の選定が難しく、適正価格での売却には専門的なサポートが必要となる場合があります。

家族間の株式譲渡でお困りの方は、株式会社繁栄 少数株Laboへご相談ください

家族間の株式譲渡は、「どの方法を選ぶか」「いつ動き出すか」によって、税負担や経営への影響が大きく変わります。 準備が遅れれば遅れるほど、選択肢が狭まり、後継者への負担が増える——そのようなケースは決して珍しくありません。

「そろそろ自社株を後継者に渡したいが、何から始めればいいかわからない」 「相続が発生する前に、株式の評価額や承継方法を整理しておきたい」 「贈与・相続・売買のどれが自社にとって有利か、専門家に判断してほしい」 「遺留分トラブルを避けながら、後継者に株式を集中させたい」 「みなし贈与のリスクを避けて、適正価格で家族間売買を進めたい」

こうしたお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。

株式会社繁栄が運営する少数株Laboでは、非上場株式・少数株式に関するご相談を専門に承っています。 株式評価の確認から、相続・贈与・売買それぞれの方法の比較検討、名義変更の手続きサポートまで、お客様一人ひとりの状況に合わせた最適な対応策をご提案しています。

家族間の株式譲渡は、税務・法務・経営の3つが絡み合う複雑な領域です。 早めにご相談いただくほど、対応策の幅が広がります。 まずはお気軽にお問い合わせください。 初回のご相談は無料で承っています。 専門家が丁寧にお話をお伺いし、最善の対応策をご提示します。

まとめ|家族への株式譲渡は方法の選択と早期準備が重要

家族間の株式譲渡には「相続」「生前贈与」「売買」の3つの方法があり、それぞれ税金の種類・手続き・メリット・リスクが大きく異なります。

この記事のポイントを整理します。

  • 相続は資金不要で株式を移転できるが、遺言書がないと株式が分散するリスクがある
  • 生前贈与は計画的に実施することで税負担を抑えられるが、早期着手が不可欠
  • 売買は遺留分問題を回避しやすいが、みなし贈与リスクに注意が必要
  • 非上場株式の評価額は会社の業績次第で高額になり、評価額を下げる株価対策が重要
  • 事業承継税制を活用すれば相続税・贈与税の全額猶予も期待できる

いずれの方法を選ぶにしても、「気づいたときには手遅れ」では困ります。 非上場株式の評価額が高くなるほど、また経営者の年齢が上がるほど、選択肢は狭まります。 事業承継の準備は早すぎることはないと心得て、まずは自社株の評価額の把握と専門家への相談から始めることをおすすめします。

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