「非上場株式を売りたいけれど、どうすれば良いのかわからない」と感じている方は、決して少なくありません。 相続によって取得した株式、かつて勤めていた会社の株式、あるいは少数株主として保有し続けてきた株式——これらを手放したいと考えたとき、上場株式のように証券取引所で簡単に売却できないことに気づき、途方に暮れる方も多いはずです。 非上場株式の譲渡には、手続きの複雑さ・株価算定の難しさ・税金の特殊性という、3つの大きな壁が存在します。 しかし、正しい知識と手順を踏めば、非上場株式は確実に譲渡できます。 この記事では、非上場株式の譲渡に関する基礎知識から、手続きの流れ・株価の算定方法・かかる税金・確定申告の手続きまで、ひとつひとつ丁寧に解説していきます。 「自分の株式はいくらで売れるのか」「税金はどのくらいかかるのか」「確定申告は必要なのか」といった疑問をお持ちの方に向けて、実務的な情報をわかりやすくお届けします。 ぜひ最後まで読み進めて、非上場株式の譲渡に向けた具体的な一歩を踏み出してください。
非上場株式の譲渡に関する基礎知識

非上場株式の譲渡は可能か
結論からお伝えすると、非上場株式は基本的に譲渡が可能です。 「上場していない株式は売れないのではないか」と思われがちですが、これは誤解です。 非上場株式であっても、法律上は譲渡という行為そのものが禁じられているわけではありません。
ただし、多くの非上場株式には「譲渡制限」が設けられています。 譲渡制限株式とは、株式を譲渡する際に発行会社の承認を得なければならない株式のことです。 具体的には、株主総会または取締役会において承認の可否を決議し、承認が得られれば希望する相手に譲渡できます。
承認が得られなかった場合も、泣き寝入りする必要はありません。 発行会社自身または発行会社が指定した第三者(指定買取人)が株式を買い取るという仕組みが用意されています。 つまり、株式を保有し続けるか・誰かに譲渡するかという選択において、「売れずに終わる」という結末にはならない構造になっています。
また、株主が亡くなった際の相続による株式の移転は、譲渡制限の対象外となります。 相続人は会社の承認なしに株式を取得できますが、その後に相続人が第三者へ売却しようとする場合は、改めて譲渡承認の手続きが必要になります。
非上場株式には市場価格が存在しないため、譲渡にあたって株価の算定が別途必要になる点も上場株式との大きな違いです。 この点については後の章で詳しく解説します。
非上場株式の譲渡が増加している背景
近年、非上場株式の譲渡によるM&Aの件数が増加傾向にあります。 その最大の要因として挙げられるのが、日本の中小企業における後継者不足の深刻化です。
日本の企業の約99%は中小企業であり、そのほとんどが非上場企業です。 経営者の高齢化が進むなかで、親族内に後継者が見つからないケースが増えています。 事業を守りたいという思いはあるものの、廃業という選択肢しか残されていない——そのような経営者にとって、M&Aによる株式譲渡は事業存続の重要な手段となっています。
また、かつては「株式を外部に売ることへの抵抗感」が強かった経営者も、事業承継の選択肢としてM&Aを前向きに捉える意識の変化が見られるようになっています。 政府による中小企業M&A支援策の充実も、この流れを後押ししています。
少数株主の立場でも、状況は変わってきています。 以前は買い手を見つけること自体が難しかった非上場株式も、M&A仲介業者や専門の法律事務所が増えたことで、適切な買い手に出会える環境が整いつつあります。 「保有しているだけで配当も得られず、売却もできない」という状況を打開できる機会が増えていると言えるでしょう。
非上場株式と上場株式の税務上の違い
非上場株式と上場株式は、税務上の取り扱いにおいていくつかの重要な違いがあります。 この違いを理解しておかないと、確定申告の際に誤った処理をしてしまうリスクがあります。
以下の表に主な違いをまとめました。
| 項目 | 上場株式 | 非上場株式 |
|---|---|---|
| 税率(個人) | 20.315%(申告分離課税) | 20.315%(申告分離課税) |
| 損失の繰越控除 | 可能(最長3年間) | 不可 |
| 上場株式との損益通算 | 可能 | 不可 |
| 配当所得との損益通算 | 可能 | 不可 |
| 特定口座の利用 | 可能 | 不可 |
税率そのものは同じ20.315%ですが、損失が出た場合の救済措置に大きな差があります。 上場株式であれば、譲渡損失を翌年以降3年間にわたって繰り越し、将来の譲渡益や配当所得と相殺することができます。 一方、非上場株式の譲渡損失はこの繰越控除の対象外です。
また、非上場株式の譲渡損失は、上場株式の譲渡益と通算することもできません。 逆に、上場株式の譲渡損失を非上場株式の譲渡益と通算することも認められていません。 非上場株式の損益は、同じ非上場株式の範囲内でのみ相殺が可能という点を、しっかりと覚えておきましょう。
非上場株式を譲渡するメリット・デメリット

非上場株式の譲渡を行うメリット
非上場株式を譲渡することには、さまざまなメリットがあります。 特に少数株主の立場からは、保有し続けることのデメリットを解消できる点が大きな魅力です。
① 現金化による資金の確保
非上場株式は、上場株式と異なり市場での売却ができないため、「資産としての価値はあるのに現金化できない」という状況に陥りやすいものです。 譲渡が成立すれば、滞留していた資産を現金に換えることができます。 特に、配当がほとんど期待できない会社の株式を保有している場合、保有し続けることに経済的なメリットはほぼありません。 譲渡代金を受け取ることで、その資金を別の投資や生活費に充てることができます。
② 相続トラブルの回避
非上場株式を保有したまま相続が発生すると、相続人にとって大きな負担になることがあります。 配当が得られない株式、売却できない株式を相続しても、相続人にとってはデメリットになりかねません。 さらに、非上場株式の評価額が高い場合、相続税を現金で納付するための資金が不足するという深刻な問題も起こりえます。 非上場株式は譲渡制限があるため物納にも適さず、「税金だけ発生して、売れない」という事態に陥るリスクがあります。 生前に株式を譲渡しておくことで、こうした相続リスクを未然に防ぐことができます。
③ 節税効果が期待できる
相続税の最高税率は55%ですが、株式譲渡にかかる税率は個人の場合20.315%と大きく異なります。 相続による株式の移転より、生前の株式譲渡のほうが税負担を抑えられるケースも多く存在します。 ただし、個々の財産状況や譲渡価格によって結果は異なるため、税理士への相談が推奨されます。
④ 事業承継の実現
経営者自身が株式を譲渡することで、後継者への経営権の移転が実現します。 全株式数の過半数を取得した譲受人は経営権を握ることができるため、後継者不足の解決策として有効です。 事業の継続・雇用の維持という観点からも、株式譲渡によるM&Aは大きな意義を持ちます。
非上場株式の譲渡を行うデメリット
メリットが多い非上場株式の譲渡ですが、デメリットもしっかりと理解しておく必要があります。
① 全資産・全負債が承継対象となる
株式譲渡によるM&Aでは、会社の資産だけでなく負債も含めたすべてが譲受人に承継されます。 「この資産だけを残したい」「この事業だけを切り離したい」という選択はできません。 特定の資産のみを譲渡したい場合は、事業譲渡など別のスキームを検討する必要があります。
② 簿外債務など見えないリスクの存在
デューデリジェンス(企業の調査)を行っても、帳簿に記載されていない債務や潜在的なリスクを見落とす可能性があります。 売り手側が不都合な情報を開示しないケースもゼロではなく、譲渡後にトラブルが発生するリスクがあります。 透明性のある情報開示が、円滑な譲渡のために欠かせません。
③ 譲渡後は株主としての権利を失う
株式を譲渡すると、株主としての地位が消滅します。 以後は配当を受け取る権利も、議決権を行使する権利も失います。 もっとも、非上場株式の多くは配当が出ていないため、実質的なデメリットは限定的です。
④ 課税対象となる場合がある
売却によって利益が生じた場合には、所得税や住民税が課せられます。 また、発行会社に譲渡する場合は「みなし配当」として課税されるケースもあり、想定より税負担が大きくなる可能性があります。 税金の詳細については後の章で詳しく解説します。
非上場株式を譲渡する際の手続きと流れ

少数株主が持つ株式の集約
M&Aによる株式譲渡では、買い手は通常株式の100%取得を目指します。 そのため、売り手企業に少数株主が存在する場合、M&Aをスムーズに進めるために事前に少数株主の株式を集約しておくことが重要です。
少数株主の株式が散在したままでは、交渉が長期化したり、最悪の場合は成約に至らないリスクもあります。 また、株券を紛失している株主が存在する場合、スキームの変更を余儀なくされることもあります。 株主名簿を精査し、早い段階から少数株主との協議を始めておくことが、円滑な譲渡への第一歩です。
譲渡制限の有無の確認
株式の集約が完了したら、次に定款に記載された譲渡制限の有無を確認します。 定款に「株式を譲渡するには株主総会(または取締役会)の承認を必要とする」という規定がある場合、譲渡制限株式に該当します。
確認方法としては、会社の定款を直接確認するほか、法務局で取得できる**全部事項証明書(登記簿謄本)**に「株式の譲渡制限に関する規定」の記載があるかどうかを確認する方法があります。 譲渡制限がある場合は、次のステップである承認手続きへと進みます。
株式譲渡承認の請求と決議
譲渡制限株式を譲渡する場合、売り手と買い手が共同で株式譲渡承認請求書を作成し、発行会社に提出します。 この書類には、以下の内容を記載します。
- 譲渡する株式の種類と数量
- 売り手(譲渡人)の氏名・住所
- 買い手(取得者)の氏名・住所
請求書を受け取った会社は、株主総会または取締役会において承認の決議を行います。 取締役会が設置されている会社では、取締役会が承認の可否を決定するのが一般的です。 取締役会も株主総会も設置していない場合は、代表取締役または代表執行役の承認が必要となります。
ここで重要なのが、回答期限です。 譲渡承認請求があった日から2週間以内に承認・不承認の通知を行わなかった場合、自動的に承認したものとみなされます。 したがって、売り手側は期限管理に注意が必要です。
承認された場合は、希望する第三者への譲渡が可能となり、株式譲渡契約書を締結して買い手が対価を支払います。 不承認となった場合は、会社自身または指定買取人が株式を買い取ることになります。 価格について合意できない場合は、裁判所に対して売買価格の決定の申立てを行うこともできます。
株主名簿の名義書換
株式の譲渡が完了したら、最後に株主名簿の名義書換を行います。 多くの非上場企業では株券を発行しておらず、株主名簿によって株主を管理しています。 名義書換が完了することで、譲受人は第三者に対して「自分が株主である」ことを主張できるようになります(これを「対抗要件の具備」と言います)。
株券発行会社の場合は、株券を提示することで譲受人が単独で名義書換請求を行えます。 株券不発行会社の場合は、譲受人が会社に対して株主名簿記載事項を記載した書面の交付を請求することが可能です。 この手続きが完了して初めて、株式譲渡のすべての手続きが終了となります。
非上場株式の株価算定方法

類似業種比準方式
類似業種比準方式とは、評価対象となる非上場会社と同じ業種の上場会社の株価を基準にして、非上場株式の価値を算定する方法です。 主として、大企業や規模の大きな非上場企業の株価評価に用いられます。
具体的には、類似する上場企業の1株あたりの配当金額・年利益金額・純資産価額と、評価対象会社のそれらの数値を比較して株価を算出します。 市場での実際の取引価格をベースにしているため、客観性と信頼性が高いという特長があります。
一方で、「類似する上場企業」の選定が難しいという面もあります。 評価対象会社の業種・事業規模・成長性・収益性・地域性などの観点から適切な類似企業を選ぶ必要があり、選定基準が恣意的になると評価の信頼性が損なわれるリスクがあります。 また、非常に規模の小さな会社には適用しにくい方式でもあります。
相続税評価においても採用される方式ですが、この場合の評価は「徴税のための評価」であり、市場での実勢価格とは乖離することがある点に注意が必要です。
純資産価額方式
純資産価額方式とは、会社の貸借対照表に記載された資産と負債をもとに、1株あたりの純資産額を算出する方法です。 中小・小規模の非上場企業の株価評価に広く用いられており、実務での採用頻度が高い方式です。
計算の流れは以下の通りです。
- 資産の時価評価額を算出する
- 負債の時価評価額を算出する
- 「資産の時価-負債の時価」で純資産額を計算する
- 純資産額を発行済株式数で割り、1株あたりの価格を算出する
たとえば、資産の時価が4,000万円、負債が1,000万円、発行済株式数が1,000株の会社であれば、1株あたりの価格は3万円(3,000万円÷1,000株)となります。
客観的な財務データをベースにするため、恣意性が入りにくく信頼性が高いという点が最大のメリットです。 含み損益も考慮して評価するため、帳簿上の数値よりも実態に近い評価が得られます。
ただし、将来の収益獲得力(のれん・ブランド価値・人的資本など)が反映されないため、成長性の高い企業においては株価が低く算定されがちという弱点があります。
配当還元方式
配当還元方式とは、株式を保有することで受け取れる1年間の配当金額を、一定の利率で還元することで株式の価値を算定する方法です。 主として、同族株主以外の少数株主が取得した非上場株式の評価に用いられます。
計算式のイメージとしては、「年間配当額÷還元利率=株式の評価額」となります。 たとえば、年間配当が1株あたり500円で還元利率が10%であれば、株式の評価額は1株5,000円と算出されます。
この方式の特長は、計算がシンプルで理解しやすい点にあります。 しかし、非上場企業や同族会社では配当が実施されないケースが多く、配当額がゼロまたは極めて少額の場合は適正な株価評価が困難になるという大きな欠点があります。
実務においては、1つの方式だけで株価を算定するのではなく、これらの方式を組み合わせて評価するのが一般的です。 どの方式をどの割合で採用するかは、判例や税務上の基準を参考に決定されます。
非上場株式の譲渡にかかる税金

個人が譲渡する場合の税率と計算方法
所得税・住民税の税率
個人が非上場株式を譲渡して利益を得た場合、その譲渡所得に対して申告分離課税が適用されます。 申告分離課税とは、他の所得(給与所得・事業所得など)と分けて税額を計算する方式です。
適用される税率は以下の通りです。
| 税目 | 税率 |
|---|---|
| 所得税 | 15% |
| 復興特別所得税(所得税×2.1%) | 0.315% |
| 住民税 | 5% |
| 合計 | 20.315% |
所得がいくら多くても、非上場株式の譲渡所得に対する税率は一律20.315%です。 これは累進課税ではなく定率課税であるため、高所得者にとっては特に有利な課税方式といえます。
なお、個人が取得費を証明できない場合は、売却価格の5%を概算取得費として計上することができます。 これは個人のみに認められた特例であり、法人には適用されません。
譲渡所得の計算例
譲渡所得の計算式は以下の通りです。
譲渡所得=総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+譲渡費用)
ここで、取得費とは株式の購入代金のことです。 譲渡費用とは、譲渡のために直接要した費用(例:M&A仲介手数料など)が該当します。
【計算例】
- 取得費:50万円
- 譲渡価額:100万円
- 譲渡費用:0円
| 計算項目 | 金額 |
|---|---|
| 譲渡所得 | 100万円-50万円=50万円 |
| 所得税等(15.315%) | 50万円×15.315%=76,500円 |
| 住民税(5%) | 50万円×5%=25,000円 |
| 納税額合計 | 101,500円 |
このように、譲渡益50万円に対して約10万円の税金が発生します。 取得費が高いほど譲渡所得が減り、税負担を抑えられるため、株式の取得に要した費用の記録を残しておくことが重要です。
法人が譲渡する場合の税務処理
法人税の取り扱い
法人が非上場株式を譲渡した場合、譲渡益は法人の所得として法人税等の課税対象となります。 個人の場合のような申告分離課税ではなく、株式譲渡以外の事業所得などと合算した総合課税方式が適用されます。
法人税の基本税率は23.2%ですが、企業規模や所得金額によって軽減税率が適用される場合があります。 法人税に加えて事業税・住民税も加算されるため、実効税率はおおむね29%〜42%程度の幅で変動します。
また、法人の場合は個人のような概算取得費(売却価格の5%)の適用が認められていません。 取得費が不明の場合でも、実際の取得価額を把握・証明する必要があるため、株式取得時の書類を適切に保管しておくことが不可欠です。
売却にかかる費用と税金の計算例
先ほどと同じ条件(取得費50万円・譲渡価額100万円)で、法人が譲渡した場合の税額を計算してみましょう。
【前提条件】
- 株式売却のみの取引(他の売上・経費は発生しない)
- 実効税率:約29.74%
| 計算項目 | 金額 |
|---|---|
| 譲渡益 | 100万円-50万円=50万円 |
| 法人税等(実効税率29.74%) | 50万円×29.74%=約148,700円 |
| 納税額合計 | 約148,700円 |
同じ条件でも、個人(約101,500円)と法人(約148,700円)では約4万7,000円の税額差が生じます。 このように、譲渡主体が個人か法人かによって税負担が大きく異なるため、事前に専門家と相談のうえで最適な譲渡スキームを検討することが重要です。
みなし配当とは何か

非上場株式を発行会社に対して譲渡する場合、通常の株式譲渡とは異なる課税が発生することがあります。 それが「みなし配当」です。
みなし配当とは、発行会社に株式を売却した際に、実際には配当金を受け取っていないにもかかわらず、配当金を受け取ったとみなされて課税される利益のことです。
計算式は以下の通りです。
みなし配当額=譲渡金額-(1株あたりの資本金等の額×譲渡株式数)
たとえば、1株あたりの資本金等の額が1万円の会社の株を1,000株、合計500万円で発行会社に売却した場合を考えます。
| 計算項目 | 金額 |
|---|---|
| 譲渡金額 | 500万円 |
| 資本金等の額(1万円×1,000株) | 100万円 |
| みなし配当額 | 500万円-100万円=400万円 |
売主が個人の場合、みなし配当は配当所得として総合課税の対象となります。 他の所得と合算して税額が計算されるため、所得が多い人ほど税率が高くなる累進課税が適用されます。 住民税も合わせると最大約55%程度の税負担になる可能性があります。
一方、第三者に譲渡する場合は分離課税の20.315%が適用されるため、発行会社への譲渡と第三者への譲渡では税負担が大きく異なることを理解しておく必要があります。
なお、売主が法人の場合は受取配当金として扱われ、「受取配当等の益金不算入」制度の適用によって税負担を軽減できる場合があります。 また、発行会社は一般的にみなし配当から源泉徴収を行った上で代金を支払うため、受取金額が想定より少なくなる場合があります。 確定申告は別途必要となりますので、注意が必要です。
低額・無償譲渡における税務上のリスク
個人間・法人間取引で注意すべき点
非上場株式を時価よりも低い価格で譲渡したり、無償で譲渡したりする場合には、通常の株式譲渡とは異なる税務上の取り扱いが発生します。 売り手・買い手それぞれが個人か法人かによって課税の仕組みが異なるため、パターンごとに整理しておきましょう。
【パターン①:売り手・買い手ともに個人の場合】
売り手は、実際の譲渡金額をもとに譲渡所得を計算します。 ただし、時価の2分の1未満での譲渡の場合、売り手は損失が出ても損失はなかったとみなされます(損失の切り捨て)。 買い手に対しては、個別の事情を踏まえたうえで贈与税が課される可能性があります。
【パターン②:売り手が個人・買い手が法人の場合】
売り手個人には、みなし譲渡所得税が課されます。 時価と取得金額の差額に対して所得税等が計算されます。 買い手法人には、時価と実際の譲渡金額との差額が受贈益として法人税の課税対象になります。
【パターン③:売り手が法人・買い手が個人の場合】
売り手法人は時価で譲渡したとみなされ、時価と取得金額との差額が譲渡所得として課税されます。 買い手個人には、時価と譲渡価格との差額に対して所得税が課されます。 なお、買い手が売り手法人の従業員である場合は給与所得として、雇用関係がない場合は一時所得として扱われます。
【パターン④:売り手・買い手ともに法人の場合】
売り手法人は時価との差額に対して譲渡所得が課税されますが、その差額は寄付金として損金不算入の扱いとなります。 買い手法人には、差額が受贈益として課税対象になります。
著しく低い価格で譲渡した場合の課税リスク
「少し安く売るだけなら問題ないだろう」という考えは非常に危険です。 税務上では、時価の2分の1未満での譲渡については特に厳しい取り扱いが定められています。
個人間の低額譲渡では、買い手に対して贈与税が課せられる可能性があります。 これは、時価と実際の売買価格との差額が、実質的に贈与を受けたものと税務当局に判断されるためです。
また、法人が絡む場合は受贈益課税が発生し、買い手法人は差額分を益金として認識して法人税を納める必要があります。
さらに、時価より高い価格での譲渡も問題になります。 個人が個人に対して時価を超える価格で譲渡した場合、超過額部分に対して贈与税が課せられることがあります。 法人に対して高値で譲渡する場合は、超過額が給与所得や課税所得として扱われます。
このように、低額・高額いずれの方向に傾いても税務上のリスクが発生するため、非上場株式の譲渡価格は専門家が算定した適正な時価をベースに設定することが不可欠です。 税務調査が入った際に価格の根拠を説明できるよう、算定プロセスを文書化しておくことも重要です。
非上場株式の譲渡と確定申告

確定申告が必要なケースと不要なケース
非上場株式を譲渡したすべての人が確定申告を要するわけではありません。 自分がどのケースに当てはまるかを正確に把握することが、まず必要です。
【確定申告が必要なケース】
- 非上場株式の譲渡によって利益(譲渡益)が生じた場合
- 複数の非上場株式間で損益通算を行う場合
- 源泉徴収口座以外で譲渡益を得た場合
- 発行会社へ譲渡してみなし配当が発生した場合
【確定申告が不要なケース】
- 年間を通じて譲渡損失が生じており、損益通算後も損失が残る場合(ただし繰越控除を利用しない場合に限る)
- 一般口座や源泉徴収なし特定口座の譲渡益を含めた所得が、所得控除の額より少ない場合
- 給与所得者で、給与・退職所得以外の所得が(非上場株の譲渡益含め)20万円以下の場合
ただし、住民税については申告不要な場合でも別途申告が必要なケースがある点に注意が必要です。 「所得税の申告が不要=住民税の申告も不要」とはならないため、確認を怠らないようにしましょう。
確定申告の種類・期日・必要書類
申告書の種類(申告書A・B)
確定申告には、申告書AとBの2種類があります。
申告書Aは、給与所得・配当所得・一時所得・雑所得のみに対応した申告書です。 予定納税のない方のみが使用できます。
申告書Bは、すべての方が使用できる申告書です。 非上場株式の譲渡所得がある場合は、申告書Bに加えて「第三表(分離課税用)」の添付が必要となります。 申告書Aに当てはまる方が申告書Bで提出しても問題はありませんが、譲渡所得がある場合は申告書Bと第三表の使用が基本となります。
申告期日と準備するもの
確定申告の対象期間は、毎年1月1日〜12月31日の1年間です。 この期間内に生じた譲渡損益について、原則として翌年の2月16日〜3月15日に住民票のある所轄の税務署へ申告します。
準備が必要な主な書類は以下の通りです。
| 書類の種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 本人確認書類 | マイナンバーカード、または通知カード+身分証明書(運転免許証など) |
| 印鑑 | 認印(シャチハタ不可)、振替納税の場合は銀行印も必要 |
| 金融機関の口座情報 | 還付金の振込先として必要 |
| 所得証明書類 | 株式譲渡の場合は年間取引計算書や譲渡契約書など |
| 取得費の証明書類 | 株式購入時の売買契約書・領収書など |
| 申告書類 | 確定申告書B+第三表(分離課税用) |
なお、取得費の証明書類は特に重要です。 取得費を証明できない場合、売却価格の5%しか取得費として計上できず、税負担が大きくなります。 株式の購入時の書類は大切に保管しておくことを強くお勧めします。
申告方法としては、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用してオンラインまたは書面で提出する方法が最も一般的です。 e-Taxを利用したオンライン申請は、還付金の処理が早いというメリットがあります。
損失の繰越控除と上場株式との損益通算
非上場株式の譲渡損失の取り扱いは、上場株式と比較して制限が多い点を改めて確認しておきましょう。
非上場株式の譲渡損失については、損失の繰越控除制度が適用されません。 上場株式であれば、譲渡損失を翌年以降最長3年間繰り越して将来の利益と相殺できますが、非上場株式にはこの制度がありません。
また、非上場株式の譲渡損失を上場株式の譲渡益と相殺することもできませんし、給与所得や事業所得など他の所得と損益通算することも認められていません。 非上場株式の損益は、同じ非上場株式の範囲内でのみ相殺が可能です。
たとえば、A社(非上場)の株で60万円の損失が出て、B社(非上場)の株で100万円の利益が出た場合、差し引き40万円が課税対象の譲渡所得となります。 しかし、A社(非上場)の損失をC社(上場)の利益と相殺することはできません。
この非上場株式特有の制約を把握した上で、保有する株式の全体的な状況を俯瞰しながら譲渡のタイミングを検討することが、賢明な対応と言えます。
繰越控除の活用を考えている方は、上場株式と非上場株式を混同しないよう、税理士や専門家に相談の上で確定申告を進めることをお勧めします。
まとめ

この記事では、非上場株式の譲渡に関する基礎知識から手続きの流れ・株価算定・税金・確定申告まで、幅広くご紹介してきました。 ここで改めて、重要なポイントを振り返っておきましょう。
| テーマ | 要点 |
|---|---|
| 基礎知識 | 非上場株式は基本的に譲渡可能。ただし多くが譲渡制限株式で会社の承認が必要 |
| メリット | 現金化・相続対策・節税・事業承継の実現 |
| デメリット | 全資産・全負債の承継、簿外リスク、株主権の喪失 |
| 手続き | 株式集約→譲渡制限確認→承認請求→名義書換 |
| 株価算定 | 類似業種比準・純資産価額・配当還元の3方式を組み合わせる |
| 税率(個人) | 20.315%(申告分離課税) |
| 税率(法人) | 実効税率約29〜42%(総合課税) |
| みなし配当 | 発行会社への譲渡時に発生。総合課税で税負担が重くなる可能性あり |
| 低額譲渡 | 時価の2分の1未満は贈与税・受贈益課税のリスクあり |
| 確定申告 | 譲渡益が生じた場合は原則必要。申告書B+第三表を使用 |
| 損失の繰越 | 非上場株式には繰越控除なし。上場株式との損益通算も不可 |
非上場株式の譲渡は、正しい手順と知識があれば確実に実現できます。 しかし、株価算定・税務処理・手続きのいずれも専門的な知識を要するため、税理士・弁護士・M&A専門家といったプロフェッショナルへの相談を強くお勧めします。 目先の損益だけにとらわれず、自分の資産全体の状況を見渡しながら、長期的な視点で判断することが成功への鍵です。 この記事が、非上場株式の譲渡を検討するすべての方にとって、有益な一歩となれば幸いです。


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