非上場株式を個人間で譲渡する手順と税金の注意点

「非上場株式を個人間で譲渡したいけれど、どんな手続きが必要なのかわからない」 「親族間で株式を移すとき、税金はどうなるのだろう」

こうした疑問を持つ方は少なくありません。

非上場株式の個人間譲渡は、上場株式のように証券会社を通じて売買するわけではないため、手続き・価格の決め方・税務の処理がすべて当事者に委ねられます。 なにも知らずに進めると、思わぬ贈与税が課されたり、名義書換の手続き漏れで法的トラブルに発展したりするリスクがあります。

この記事では、非上場株式を個人間で譲渡する際の具体的な手順を6ステップで解説するとともに、価格の決め方・発生する税金・事業承継への活用法・よくあるトラブルの回避策までを網羅的にまとめました。 税理士や弁護士に相談する前の基礎知識として、ぜひ最後まで読んでみてください。


目次

非上場株式の個人間譲渡とは

非上場株式とは、証券取引所に上場していない会社の株式のことをいいます。 中小企業や同族会社の多くはこれにあたり、日本国内の企業の大半が非上場会社です。

非上場株式の個人間譲渡とは、個人の株主が別の個人へ株式を有償または無償で移転させる行為を指します。 会社と個人の間の取引(自社株買いや第三者割当など)とは区別され、あくまでも株主個人と株主個人(または新たな株主となる個人)の間で完結する取引です。

個人間譲渡が行われる主なケース

個人間での非上場株式の譲渡は、さまざまな場面で行われます。 代表的なケースは以下の3つです。

親族間での事業承継

中小企業オーナーが引退するにあたり、子や配偶者などの親族に株式を承継するケースは非常に多く見られます。 この場合、株式の移転方法として「売買(有償譲渡)」「贈与(無償譲渡)」「相続」のいずれかが選ばれます。 売買を選ぶ場合は、適正な価格で譲渡しなければ贈与税が課されるリスクがあるため、税務上の時価を正確に把握することが重要です。

少数株主からの株式集約

会社の経営安定化を目的として、分散した少数株主から株式を買い集めるケースです。 たとえば、創業時に出資した親族や古参の知人が少数株主として存在しており、後継者が経営権を強化するためにそれらの株式を取得するといった場面がこれにあたります。 少数株主の保有する株式は「配当還元方式」で評価されることが多く、原則的評価方式と比べて株価が低くなるため、買い集めやすい側面があります。

従業員持株会からの買い戻し

従業員持株会を導入している会社では、退職した従業員が持株会の規約に従って株式を会社や経営者個人へ売り戻す場面が生じます。 この場合も売り戻し価格が税務上の時価を大きく下回ると、みなし贈与として贈与税が課される可能性があります。 持株会の規約で額面での売り戻しを定めている場合は特に注意が必要です。

上場株式との取引方法の違い

上場株式は、証券取引所を通じてリアルタイムで売買されます。 証券会社に口座を開設すれば誰でも売買に参加でき、取引価格も市場で自動的に形成されます。

一方、非上場株式には公開された市場が存在しないため、取引の流れはまったく異なります。

項目上場株式非上場株式
取引場所証券取引所(市場)当事者間の相対取引
価格形成市場原理で自動決定当事者間で合意・決定
手続き証券会社経由で完結譲渡承認・契約書・名義書換が必要
譲渡制限原則なし定款で制限されていることが多い
時価の把握株価情報で即時確認専門家による株価算定が必要

このように、非上場株式の譲渡は手続き・価格・税務のすべてを当事者が主体的に対応しなければならない点が、上場株式と大きく異なります。

個人間譲渡で問題になりやすい論点

非上場株式の個人間譲渡では、いくつかの論点が問題になりやすい傾向があります。

まず最も頻繁に問題となるのが、「税務上の時価」の把握が難しいという点です。 上場株式であれば市場価格が時価となりますが、非上場株式には客観的な市場価格がないため、評価方法の選択によって算定額が大きく変わります。

次に、売り手と買い手で「税務上の時価」が異なる場合があるという点です。 これを「一物二価」といいます。 同じ株式であっても、取得後に支配株主となるか少数株主となるかによって評価方式が変わるため、売り手の時価と買い手の時価が一致しないケースがあります。

さらに、「著しく低い価額」の判断基準が明確でない点も問題を複雑にします。 時価よりも低い価格で譲渡した場合に買い手にみなし贈与課税が生じますが、どの程度低ければ「著しく低い」のかは法令に明記されておらず、事案ごとに個別判断となります。

これらの論点は、後の章で詳しく解説します。


個人間で非上場株式を譲渡する手順

非上場株式の個人間譲渡は、以下の6ステップで進めます。 それぞれのステップで必要な手続きや注意点を確認しておきましょう。

手順1:定款で譲渡制限の有無を確認

まず最初に、対象となる株式に譲渡制限が設けられているかどうかを確認します。 多くの中小企業では、望まない者が株主になることを防ぐため、定款に「株式の譲渡には取締役会(または株主総会)の承認を要する」という旨の規定を設けています。 これを「譲渡制限株式」といいます。

会社の定款は、法人登記簿謄本(履歴事項全部証明書)を取得することで確認できます。 譲渡制限の定めがない会社であれば、手順2・3の承認手続きを省略できますが、そのような会社は少数派であることを認識しておく必要があります

手順2:会社への譲渡承認請求

譲渡制限株式を譲渡する場合、株式を譲渡しようとする株主(譲渡人)が会社に対して「譲渡承認請求」を行います。 この請求は書面で行うのが一般的です。

請求書には以下の内容を記載します。

  • 譲渡する株式の数・種類
  • 譲渡の相手方(取得者)の氏名・住所
  • 取得者が株主名簿の名義書換を請求するかどうかの確認

会社は原則として、請求を受けた日から2週間以内に承認または不承認の決定を通知しなければなりません。この期間内に通知がなかった場合は、承認があったものとみなされます(会社法第145条)。

手順3:取締役会または株主総会による承認決議

会社が譲渡承認請求を受けると、内部で承認するかどうかを決議します。 定款の定めによって、承認機関が「取締役会」または「株主総会」に分かれます

取締役会設置会社では取締役会が承認機関となるのが原則です。 取締役会を設置していない会社では、株主総会で承認決議を行います。

承認された場合は承認通知を行い、不承認の場合は「会社自身または会社が指定する者(指定買取人)が買い取る」旨を通知することが必要です。 不承認となった際の対応は煩雑なため、事前に会社側と根回しをしておくことが実務上のポイントです。

手順4:株式譲渡契約書の締結

会社の承認が得られたら、売り手と買い手の間で株式譲渡契約書を締結します。 契約書は法的な取引の証拠となるため、口頭での合意だけで済ませることは避けてください。

株式譲渡契約書に記載すべき主な内容は以下の通りです。

記載項目内容の例
譲渡人・譲受人氏名・住所・印鑑
譲渡株式の内容会社名・株式の種類・株数
譲渡価額1株あたりの価格・総額
決済方法・日時振込先・支払期限
表明保証株式に担保・質権等がないこと
名義書換の協力義務名義書換に必要な手続きへの協力

税務調査の際に**「この価格で取引した根拠は何か」と問われることがあるため、価格の算定根拠となる資料も合わせて保存**しておくことが重要です。

手順5:株主名簿の名義書換請求

株式譲渡契約が締結されたら、会社に対して株主名簿の名義書換を請求します。 これを行わないと、会社に対して株主であることを主張できません。

名義書換は、譲渡人と譲受人が共同で会社に請求するのが原則です(会社法第133条)。 ただし、実務では会社が名義書換に協力的な場合、一方からの請求でも対応してもらえるケースがあります。

名義書換が完了すると、株主名簿に新しい株主の氏名・住所・保有株数が記載されます。 株主としての権利(議決権・配当受領権など)は、名義書換が完了して初めて会社に対して行使できるようになります。

手順6:譲渡代金の決済

最後に、契約書に記載した条件に従って譲渡代金の支払い(決済)を行います。 通常は銀行振込で行われます。

決済が完了したら、振込明細書や領収書を保管しておきましょう。 これらの書類は、確定申告の際に譲渡価額の証明として必要になります。

なお、代金の決済と名義書換の順序は、契約書で明記しておくことが安全です。 決済先行か名義書換先行かによってリスクの所在が変わるため、双方が安心できるタイミングを契約書に明記することをおすすめします


個人間譲渡における譲渡価額の決め方

非上場株式の個人間譲渡で最も悩む点のひとつが、「いくらで売買すればよいのか」という価格の問題です。 価格の決め方を誤ると、意図せず贈与税が課されることがあります。 この章では、税務上の時価の考え方と株価算定方法について解説します。

個人間取引で参考にされる「税務上の時価」

非上場株式には公開された市場価格がないため、取引価格を当事者間で自由に決めることができます。 しかし、税務の観点では**「税務上の時価」と実際の取引価格が乖離していると、その差額に課税が生じる**場合があります。

個人間で非上場株式を譲渡する場合、税務上の時価は**「財産評価基本通達」(以下、評価通達)に基づく評価額**が実務上の基準とされています。 これは相続税・贈与税の算定のために定められた通達ですが、非上場株式の個人間譲渡においても、みなし贈与の判定時価として用いられます。

売り手(個人)については、実際の譲渡価額をもとに譲渡所得を計算します。 一方、買い手(個人)については、取引価額が評価通達による時価を著しく下回る場合、その差額に贈与税が課される可能性があります。

株価算定方法の種類

評価通達に基づく非上場株式の株価算定方法は、会社の規模や株主の属性によって異なります。 主な方式は以下の3つです。

類似業種比準方式

上場している類似業種の株価を基準に、評価対象会社の株価を算定する方法です。 評価対象会社の「1株あたりの配当金額」「1株あたりの利益金額」「1株あたりの純資産価額」を、類似業種の上場会社のそれと比較することで株価を求めます。

収益力が高い会社は株価が高くなりやすく、逆に収益が低迷している会社は相対的に低い株価となる傾向があります。 大会社・中会社の規模に該当する会社に適用されることが多い方式です。

純資産価額方式

評価時点での会社の純資産(資産の時価総額から負債を差し引いた額)をもとに1株あたりの価額を算定する方法です。 財産の含み益があれば株価は高くなり、含み損があれば低くなります。

小会社や土地などの含み益を多く抱える会社に適用されることが多く、収益性よりも資産の実態を反映しやすい点が特徴です。 「中心的な同族株主」が株式を保有している場合は、常に小会社として純資産価額方式を適用するという規定もあります(所基通59-6)。

配当還元方式

株式から期待できる配当金額をもとに株価を算定する、特例的な評価方式です。 計算式は「1株あたりの年間配当金額 ÷ 10%」で求められます。

この方式は、会社の経営に実質的な影響力を持たない少数株主が取得する場合に適用されます。 原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式)と比べて株価が大幅に低くなることが多く、少数株主からの株式集約を進める場合に活用されることがあります。

財産評価基本通達による評価額の位置づけ

財産評価基本通達は、相続税・贈与税の算定を目的として国税庁が定めた通達です。 法律ではなく行政内部のルールですが、判例においても「評価通達による評価には合理性がある」と認められており、実務上は非上場株式の税務上の時価を把握するための標準的な手法として広く使われています。

ただし、通達の内容を形式的に当てはめた場合でも、「特別な事情がある」と認められる場合は評価通達によらない評価が求められることがある点に注意が必要です。 たとえば、評価通達通りに計算した価格が客観的な取引実態と大きくかけ離れている場合などが、これにあたる可能性があります。

純然たる第三者間取引かどうかによる違い

非上場株式の税務上の時価を考えるうえで、取引が「純然たる第三者間取引」に該当するかどうかは重要なポイントです。

純然たる第三者間取引とは、対等な立場にある独立した当事者間で、特別な動機を排除した自由な交渉を経て決定された取引を指します。 このような取引で合意された価格は、客観的な交換価値を反映しているとして、税務上の時価として認められる可能性があります。

しかし現実には、非上場株式の譲渡は親子・親族・役員・取引先など、何らかの関係がある者との間で行われることがほとんどです。 過去の判例でも、独立した第三者との取引であっても価格形成のプロセスに問題がある場合は「客観的交換価値とはいえない」として評価通達による評価が求められた事例があります。

親族間や同族間での取引は、純然たる第三者間取引とは認められにくい傾向があるため、評価通達に基づいた価格を基準として取引を行うことが安全策といえます。


個人間譲渡で発生する税金

非上場株式の個人間譲渡では、売り手・買い手それぞれに異なる税金が発生します。 また、譲渡価格が適正価格より低い場合や高い場合によっても課税関係が変わります。 この章では、税金の種類と計算の考え方をパターン別に解説します。

売り手にかかる譲渡所得税(20.315%)

個人が非上場株式を譲渡して利益(譲渡益)が生じた場合、その利益は**「譲渡所得」として申告分離課税の対象**になります。

税率は以下の通りです。

税目税率
所得税15%
復興特別所得税0.315%
住民税5%
合計20.315%

譲渡所得は、「譲渡価額 – 取得費 – 譲渡費用」で計算します。

【計算例】

  • 取得費(購入時の価格):1株あたり200円 × 1,000株 = 20万円
  • 譲渡価額(売却価格):1株あたり1,200円 × 1,000株 = 120万円
  • 譲渡所得:120万円 – 20万円 = 100万円
  • 所得税等(20.315%):100万円 × 20.315% = 約20万3,150円

売り手が受け取る実際の譲渡価額をそのまま収入金額として計算する点が、個人間譲渡の特徴です。 後述する「低額譲渡」の場合も、売り手は実際に受け取った金額をもとに譲渡所得を計算するため、みなし譲渡課税は適用されません(個人から個人への譲渡の場合)。

低額譲渡時のみなし贈与課税

時価よりも低い価格で株式を譲り受けた場合、買い手には「みなし贈与課税」が発生することがあります。 これは、相続税法第7条の規定に基づき、「著しく低い価額の対価で財産を取得した場合、その差額を贈与により取得したものとみなす」というルールです。

【計算例】

  • 時価(評価通達による評価額):1株あたり1,200円 × 1,000株 = 120万円
  • 実際の譲渡価額:1株あたり800円 × 1,000株 = 80万円
  • みなし贈与額:120万円 – 80万円 = 40万円

この40万円が買い手の贈与税の課税対象となります。 なお、贈与税には年間110万円の基礎控除があるため、みなし贈与額が110万円以下であれば贈与税は課されません。

「著しく低い価額」の判断基準

みなし贈与が発生する「著しく低い価額」の基準は、法令に明確な定めがありません。 国税庁のタックスアンサー(No.4423)においても、**「著しく低い価額の対価であるかどうかは、個々の具体的事案に基づき判定する」**とされており、一律の基準はありません。

参考までに、昭和53年の大阪地方裁判所の判決では「時価の4分の3未満の額を指すと解するのが相当」という判示もありますが、これが常に適用されるわけではありません。

個人から法人への譲渡の場合に適用される「時価の2分の1未満」という基準(所得税法施行令第169条)とも異なるものとして整理されているため、個人間の低額譲渡については、実務上は時価に近い価格での取引を心がけることが最も安全な対応です。

買い手側に発生する贈与税

みなし贈与として課税される金額に対しては、贈与税が課されます。 贈与税の税率は、一般贈与(親族以外や18歳未満の者への贈与)と特例贈与(直系尊属から18歳以上の子・孫への贈与)で異なります。

基礎控除後の課税価格一般税率控除額特例税率控除額
200万円以下10%10%
300万円以下15%10万円15%10万円
400万円以下20%25万円15%10万円
600万円以下30%65万円20%30万円
1,000万円以下40%125万円30%90万円
1,500万円以下45%175万円40%190万円
3,000万円以下50%250万円45%295万円
4,500万円以下55%400万円50%415万円
4,500万円超55%400万円55%640万円

みなし贈与額が大きくなるほど、高い税率が適用されます。 親族間でのみなし贈与は一般税率が適用される場合もあるため、取引の相手関係と税率の組み合わせを事前に確認することが大切です。

高額譲渡となった場合の取扱い

時価よりも高い価格で株式を売却した場合は、売り手にも特別な課税が生じます。

時価を上回る部分については、売り手が買い手から経済的利益を受け取ったとみなされ、その差額が「みなし贈与」として売り手に贈与税が課される可能性があります。

【計算例】

  • 時価:120万円
  • 実際の譲渡価額:360万円
  • みなし贈与額(売り手に課税):360万円 – 120万円 = 240万円
  • 譲渡所得(売り手に課税):時価120万円 – 取得費20万円 = 100万円

売り手は、贈与税と譲渡所得税の両方が課される点に注意が必要です。 一方、買い手については課税関係は生じません。 時価を大幅に超える価格での取引は、売り手に多大な税負担を生じさせるため、価格設定には慎重さが求められます。

無償譲渡(贈与)と相続のケース

株式を無償で移転する「贈与」の場合、受け取った側に贈与税が課されます。 贈与税は時価に対して課税されるため、非上場株式の評価額が高いほど、贈与税の負担も大きくなります

一方、株主が亡くなって株式が相続される場合は相続税の課税対象となります。 相続税の評価方法は評価通達に従い、贈与税と同様に財産評価基本通達に基づいて算定します。

贈与と相続のどちらが有利かは、株式の評価額・相続財産の総額・相続人の人数などによって異なります。事業承継の文脈では、贈与・売買・相続を組み合わせた総合的な設計が有効なケースが多く、税理士への相談が不可欠です。


親族間における個人間譲渡と事業承継

中小企業の事業承継においては、非上場株式の移転が最も重要な課題のひとつです。 この章では、親族間での株式集約の方法と、贈与税負担を軽減するための手法について解説します。

後継者への株式集約の方法

事業承継を進めるにあたって、後継者への株式集約は経営の安定化に直結する重要な作業です。 株式を後継者に集約する主な方法は以下の3つです。

  • 売買(有償譲渡):時価で売買することで、贈与税のリスクを避けやすい
  • 贈与(無償譲渡):株式を無償で渡すが、贈与税が課される
  • 相続:オーナーの死亡により自動的に移転するが、相続税が課される

親族間の売買では、価格が時価に沿っていれば売り手に譲渡所得税が課されるだけで済み、買い手への贈与税課税を避けられます。 ただし、後継者が売買代金を用意できるかどうかが課題となることが多く、贈与や相続との組み合わせを検討することが一般的です。

贈与税の負担を抑える工夫

贈与税の負担を抑えるためには、いくつかの制度や方法を活用することができます。

1. 暦年課税の基礎控除(年110万円) 毎年110万円までの贈与は非課税のため、数年かけて少しずつ株式を贈与することで、贈与税負担を分散できます。

2. 相続時精算課税制度 2024年1月1日以降の贈与から、制度の使い勝手が大きく向上しました。 60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、累計2,500万円まで贈与税が非課税となります(超過分は20%課税)。 さらに2024年の改正により、2,500万円の特別控除とは別枠で年間110万円の基礎控除が新設されました。 この年110万円以内の贈与は贈与税が非課税となるうえ、相続発生時の財産への加算も不要です。 ただし、一度選択すると暦年課税に戻すことができないため、慎重な検討が必要です。

3. 株式評価額の引き下げ 役員退職金の支給や含み損資産の処分など、会社の純資産や収益性を調整することで株式評価額を引き下げ、贈与税の計算のベースとなる時価を下げる方法もあります。ただし、税務上の否認リスクを伴う場合もあるため、税理士との事前相談が前提となります。

事業承継税制(納税猶予・免除制度)の活用

事業承継の場面では、**「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除制度(事業承継税制)」**を活用することが有効です。

この制度には「一般措置」と「特例措置」があります。 特例措置では、後継者が先代経営者から贈与・相続により取得した株式に対して、一定の要件を満たすことで贈与税・相続税の全額(発行済株式総数の3分の2まで)が猶予されます。 さらに後継者がその株式を次の世代に引き継ぐなどの条件を満たした場合、猶予された税額が免除されます。

ただし、この制度の活用には事前の計画策定や認定手続きが必要です。 特例措置の適用を受けるには、都道府県に「特例承継計画」を提出する必要があります。 この提出期限は、2026年度税制改正により2026年3月31日から2027年9月30日まで1年6か月延長されています(実際の株式承継の期限は2027年12月31日のまま変更なし)。 ただし提出から承継実行まで準備に時間がかかるため、早めに認定経営革新等支援機関(税理士・公認会計士など)へ相談することが重要です。 最新の期限や要件については、中小企業庁または税理士に必ず確認してください。

暦年贈与(年110万円以内)の活用

贈与税の基礎控除は年間110万円です。 この範囲内であれば、毎年無税で財産を移転できます。 株式評価額が低いうちに少しずつ贈与を積み重ねることで、将来の相続税・贈与税負担を大幅に軽減できます。

ただし、2024年1月以降、相続開始前7年以内の贈与(従来は3年以内)が相続財産に加算されるルールへと改正されました。 加算期間の延長には経過措置があり、延長分にあたる相続開始前3年超〜7年以内の贈与については、その期間の合計額から100万円を控除した金額のみが加算されます。 また7年への完全移行は段階的に進むため、2031年以降の相続からフルで7年ルールが適用されます。

計画的な贈与を行うためには、早期に開始して長期間にわたって実施することが重要です。

また、毎年同額・同時期の贈与を繰り返すと「定期贈与」とみなされ、全体が一括の贈与として贈与税が課される場合があります。 金額や時期に変化をつけながら実施することも検討しましょう。


個人間譲渡における注意点とトラブル回避

非上場株式の個人間譲渡は、適切に対応しなければ税務トラブルや法的トラブルに発展するリスクがあります。 この章では、実務上特に注意すべき点とその対策をまとめます。

適正価格を裏付ける資料の準備

非上場株式の取引価格が適正であることを証明するためには、価格の算定根拠となる資料を事前に準備し、保存しておくことが不可欠です。

具体的には、以下のような資料が有効です。

  • 株価算定書(税理士・公認会計士が作成したもの)
  • 財産評価基本通達に基づく計算の根拠資料
  • 会社の直近3期分の決算書・法人税申告書
  • 類似業種比準方式を使用する場合の比準要素の計算表

税務調査で取引価格の妥当性を問われた際に根拠資料がなければ、課税庁の評価額をそのまま受け入れるしかなくなります。 「適正価格で取引した」という主張は、書面による裏付けがあって初めて説得力を持ちます

株主名簿の名義書換漏れに注意

株式譲渡契約を締結しても、株主名簿の名義書換を行わないと、会社に対して株主としての権利を主張できません(会社法第130条)。

たとえば、議決権の行使・配当の受領・株主総会の招集通知の受け取りなど、株主としての権利はすべて名義書換後に行使できるようになります。 名義書換を怠ったまま放置すると、後になって名義書換を求めても会社側が応じない場合や、相続が発生して権利関係が複雑になる場合があります。

契約締結後は速やかに名義書換の手続きを進めることが、トラブルを未然に防ぐ基本です。

取得費がわからない場合の対応(概算取得費の活用)

相続や贈与で取得した株式など、取得費(購入時の価格)が不明な場合は「概算取得費」を用いることができます

概算取得費は、「譲渡価額の5%」を取得費とみなす方法です。

【計算例】

  • 譲渡価額:100万円
  • 概算取得費:100万円 × 5% = 5万円
  • 譲渡所得:100万円 – 5万円 = 95万円

取得費が少なくなるほど譲渡所得が大きくなり、税負担が重くなります。 実際の取得費が5%を超える場合は、実際の取得費を使った方が有利になるため、購入時の契約書・領収書・株主名簿の記録などを探すことが先決です。

相続で取得した株式の場合は、「被相続人の取得費を引き継ぐ」というルールが適用されるため、相続発生前の購入時の資料が必要になります。 なお、相続で株式を取得した際に相続税を支払っている場合、一定の要件のもとで支払済み相続税の一部を取得費に加算できる特例(租税特別措置法39条)もあります。適用要件や計算方法は複雑なため、税理士への確認を推奨します。

確定申告の必要性

非上場株式を譲渡して利益が生じた場合、翌年の2月16日から3月15日までに確定申告(申告分離課税)を行う義務があります

上場株式のように特定口座での自動計算は行われないため、非上場株式の譲渡損益はすべて自分で計算して申告する必要があります

申告に必要な主な書類は以下の通りです。

  • 株式譲渡契約書
  • 取得費の根拠書類(購入時の契約書・相続税申告書など)
  • 振込明細書(譲渡代金の受取証明)
  • 株価算定書(評価根拠として保存)

なお、非上場株式(一般株式等)の譲渡損失は、上場株式等の譲渡益とは損益通算できません(租税特別措置法37条の10)。 同じ年に複数の非上場株式の譲渡がある場合は、それらの間でのみ損益を通算できます。 確定申告を適切に行うことが、税負担の最小化につながります

税理士・弁護士に相談すべきタイミング

非上場株式の個人間譲渡は、税務・法務の両面にわたる専門的な判断が求められます。 以下のタイミングでは、専門家への相談を強くおすすめします。

【税理士に相談すべきタイミング】

  • 株式の評価額を算定するとき
  • 売買価格が適正かどうかを確認したいとき
  • 贈与税・相続税の負担シミュレーションをしたいとき
  • 事業承継税制の適用を検討しているとき
  • 確定申告の内容に不安があるとき

【弁護士に相談すべきタイミング】

  • 株式譲渡契約書を作成するとき
  • 譲渡制限の承認手続きで会社側と交渉が必要なとき
  • 少数株主が譲渡を拒否されたとき
  • 相続で株式の帰属が争われているとき

特に親族間での取引は、後から「この価格はおかしい」「約束と違う」といったトラブルに発展しやすい側面があります。 契約書の作成段階から専門家に関与してもらうことが、長期的なリスク管理の観点から非常に重要です。


非上場株式の譲渡・売却でお悩みの方は株式会社繁栄にご相談ください

非上場株式の個人間譲渡は、株価算定・税務対応・契約書の作成まで、専門的な知識が求められる場面が数多くあります。
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まとめ

この記事では、非上場株式を個人間で譲渡する際の手順・価格の決め方・税金・事業承継への活用・注意点について解説しました。

最後に、重要なポイントを整理します。

  • 非上場株式の個人間譲渡には、定款確認・譲渡承認・契約締結・名義書換・代金決済という6つの手順がある
  • 税務上の時価は「財産評価基本通達」に基づき算定され、時価を下回る価格での取引は買い手にみなし贈与課税が発生する可能性がある
  • 売り手の税率は20.315%(譲渡所得税)、買い手にはみなし贈与額に応じた贈与税が課される
  • 親族間の事業承継では、事業承継税制・暦年贈与・相続時精算課税制度を組み合わせた設計が有効
  • 適正価格の根拠資料を準備し、名義書換・確定申告を確実に行うことがトラブル回避の基本

非上場株式の個人間譲渡は、手続きも税務も専門性の高い分野です。 「とりあえず当事者間で決めてしまえばいい」という姿勢で進めると、後から多額の税金を追徴されるリスクがあります。 価格の決定前に税理士に相談し、契約書の作成段階から弁護士を関与させることが、安全で確実な取引の第一歩です。

事業承継や株式整理を検討されている方は、ぜひ早めに専門家へのご相談をご検討ください。

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