会社の未来を誰に託すか。 これは、経営者にとって避けて通れない大きなテーマです。
事業承継を考えたとき、多くの経営者が最初につまずくのが「株式をどう移転すればよいのか」という問題です。 生前贈与、相続、そして株式譲渡。 似ているようで、それぞれ手続きも税金も大きく異なります。
「後継者に会社を任せたいけれど、何から手をつければよいかわからない」 「株式譲渡を選んだら、税金はどれくらいかかるのだろう」 そうした不安を抱えている方は、決して少なくありません。
本記事では、事業承継における株式譲渡の基本的な位置づけから、具体的な手続きの流れ、発生する税金、そして活用できる特例制度まで、わかりやすく解説していきます。 非上場株式の評価や事業譲渡との違いにも触れながら、事業承継を検討し始めた経営者や後継者の方にとって、実務の全体像がつかめる内容を目指します。 最後まで読み進めることで、自社にとって最適な承継方法を検討するための材料が揃うはずです。
事業承継における株式譲渡の位置づけ

事業承継とひとくちに言っても、株式を移す方法はひとつではありません。 まずは、株式譲渡がどのような立ち位置にあるのかを整理しておきましょう。
会社の経営権は、株式の保有割合によって決まります。 そのため、誰に、どの方法で、どれだけの株式を渡すのかという設計そのものが、事業承継の成否を左右すると言っても過言ではありません。
株式譲渡は、その中でも「対価を伴う移転」という点で、生前贈与や相続とは性質が異なります。 この違いを理解することが、事業承継の全体像をつかむ第一歩になります。
株式譲渡・生前贈与・相続の違い
事業承継で株式を移転する方法は、大きく分けて次の3つがあります。
| 方法 | 移転のタイミング | 対価の有無 | 主な課税関係 |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡 | 現経営者が存命かつ任意のタイミング | あり(売買) | 譲渡益に譲渡所得税 |
| 生前贈与 | 現経営者が存命のうち | なし(無償) | 受贈者に贈与税 |
| 相続 | 現経営者の死亡後 | なし(無償) | 相続人に相続税 |
株式譲渡は、現経営者が保有する自社株式を、後継者が金銭で買い取る方法です。 対価が発生するため、現経営者にとっては資金を得られる手段になる一方、後継者側には買取資金の準備が必要になるという特徴があります。
これに対して生前贈与と相続は、いずれも無償での移転です。 このため後継者側に買取資金は不要ですが、代わりに贈与税や相続税という税負担が生じる点に注意が必要です。
どの方法が最適かは、会社の規模や後継者の資金力、経営者の年齢や健康状態など、個別の状況によって変わります。 一般的には、後継者に十分な資金力がある場合は株式譲渡、資金力に乏しい親族内承継では生前贈与や相続が選ばれやすいとされています。 ただし、これはあくまで傾向であり、実際にどの方法が適しているかは専門家に相談しながら検討することが望ましいでしょう。
譲渡する株式の割合と経営権への影響
事業承継において見落とされがちなのが、株式の保有割合が経営権に直結するという点です。
会社法上、株主総会の決議には普通決議と特別決議があり、それぞれ必要な議決権の割合が定められています。
- 普通決議:議決権の過半数(50%超)を有する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数の賛成で成立するのが一般的です
- 特別決議:議決権の3分の2以上の賛成が必要とされる、より重要な事項に用いられます
たとえば、後継者が保有する株式の割合が50%を超えると、単独で普通決議を成立させられる立場になります。 つまり、取締役の選任や解任といった基本的な意思決定を、後継者が単独で進められるようになるということです。
一方で、株式が複数の相続人や親族に分散してしまうと、後継者が会社の意思決定を単独で行えず、経営が不安定になるおそれがあります。 事業承継の設計では、後継者にどれだけの議決権を集約させるかを、早い段階から検討しておくことが重要とされています。
株式が分散した状態で相続が発生すると、遺産分割協議がまとまらず、後継者に株式が渡らないというケースも起こり得ます。 このようなリスクを避けるためにも、生前のうちから株式の集約方針を固めておくことが望ましいでしょう。
事業承継で株式を移転する3つの方法

ここからは、株式譲渡・生前贈与・相続という3つの方法について、それぞれのメリットとデメリットを詳しく見ていきます。 自社の状況に照らし合わせながら、どの方法が適しているかを考える材料にしてください。
生前贈与による事業承継
生前贈与は、現経営者が生存しているうちに、後継者へ無償で自社株式を譲り渡す方法です。 親族に後継者を立てるケースで広く用いられている手法とされています。
現経営者が元気なうちに計画的に進められるため、後継者への引き継ぎを段階的に行いやすいという特徴があります。
メリット
生前贈与を選択する主なメリットは、次のとおりです。
- 資金が不要:株式の売買ではないため、後継者が株式を取得するための資金を用意する必要がありません
- 計画的な承継がしやすい:現経営者が存命のうちに承継の計画を立てられるため、時間をかけて税金対策や後継者教育を進められます
- 経営者の意思を反映しやすい:誰に、いつ、どれだけの株式を渡すかを、現経営者自身の判断で決められます
ただし、後継者側には贈与税の負担が生じる点には注意が必要です。 資金負担がゼロというわけではなく、税負担というかたちで実質的なコストが発生することは押さえておきましょう。
デメリット
一方で、生前贈与には次のようなデメリットも指摘されています。
贈与財産が特別受益と判断されるケースがある点は、代表的な注意点のひとつです。 特別受益とは、特定の相続人が被相続人から生前に受けた特別な利益のことで、これに該当すると判断された場合、相続財産に贈与分を持ち戻したうえで遺産分割を行うことになります。
その結果、後継者以外の相続人との間で、遺産分割をめぐるトラブルに発展する可能性があります。 事業承継においては、後継者以外の相続人への配慮も含めた設計が求められるとされており、遺言書の作成や生前の話し合いによって、こうしたリスクを軽減する工夫が重要になります。
相続による事業承継
相続による事業承継は、現経営者の死亡にともなって、株式が相続人に引き継がれる方法です。 特別な手続きを行わなくても、法定相続や遺言に基づいて自動的に株式が移転する点が特徴です。
メリット
相続による承継の主なメリットは、次のとおりです。
- 資金が不要:贈与と同様に株式の売買ではないため、後継者に金銭的な負担がかかりません
- 基礎控除による税負担の軽減:相続税には基礎控除額が設けられており、他の相続財産の金額にもよりますが、贈与に比べて納税額を抑えられる可能性が高いとされています
- 自然な形での承継:特段の手続きをしなくても、法律に基づいて株式が引き継がれます
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。 このため、相続財産全体の規模によっては、贈与よりも税負担を抑えられるケースがあると考えられています。
デメリット
相続による承継には、次のようなデメリットもあります。
まず、遺言書がなければ、法定相続人のあいだで遺産分割協議が行われることになります。 話し合いの結果、後継者として想定していた人物に株式が渡らない可能性もあるため、後継者を明確に指定した遺言書の準備が重要とされています。
また、業績が好調なタイミングで相続が発生すると、相続税評価額が高くなり、結果的に高額な相続税を納税しなくてはならないリスクがある点にも注意が必要です。 非上場株式の評価額は、会社の業績や純資産の状況によって変動するため、想定していたよりも税負担が重くなるケースも考えられます。
相続はいつ発生するかを事前に完全にコントロールすることができません。 そのため、相続のタイミングを見据えた対策を、生前のうちから講じておくことが望ましいとされています。
株式譲渡(売買)による事業承継
株式譲渡は、現経営者が保有する自社株式を、後継者が金銭で買い取る方法です。 親族内承継だけでなく、役員や従業員への承継(いわゆるMBO)、あるいは第三者への承継(M&A)でも用いられる手法です。
メリット
株式譲渡による承継の主なメリットは、次のとおりです。
- 現経営者が資金を得られる:保有している株式を現金化できるため、引退後の生活資金や事業資金として活用できます
- 後継者の地位が安定しやすい:適正な価格で取引を行う場合、相続人同士のトラブルに発展しにくく、後継者の地位が安定しやすいとされています
- 手続きが比較的シンプル:贈与や相続に比べて、当事者間の合意に基づいて進められる部分が多く、承継のタイミングをコントロールしやすい側面があります
現経営者にとっては、引退後の生活設計を具体的に描きやすいという点も、株式譲渡ならではの利点といえるでしょう。
デメリット
一方で、株式譲渡には次のようなデメリットも存在します。
まず、現経営者には譲渡所得税が課税される点です。 株式の売買によって得た利益は譲渡所得の対象となり、一定の税率で課税されるとされています。
次に、後継者には買取資金が必要になります。 自己資金や預貯金で対応できない場合は、金融機関からの融資など、資金調達の検討が必要になるケースもあります。
さらに見落とされがちなのが、時価を大きく下回る不当に安い価格で取引を行った場合、後継者に贈与税が課せられるおそれがあるという点です。 これは、実質的に贈与とみなされる部分が生じるためで、適正な株価算定に基づいた取引価格の設定が重要とされています。
譲渡制限株式を譲渡する際の手続きの流れ

多くの中小企業では、定款によって株式の譲渡に会社の承認を必要とする譲渡制限株式が採用されています。 これは、望ましくない第三者が株主として経営に関与することを防ぐための仕組みです。
譲渡制限株式を譲渡する場合、通常の売買とは異なり、会社の承認手続きを経る必要があります。 ここでは、一般的な手続きの流れを4つのステップに分けて解説します。
株式譲渡承認請求
譲渡制限株式を譲渡する際には、まず株主総会や取締役会などで承認を得る必要があります。 そのため、株式を譲渡しようとする株主は、会社に対して株式譲渡承認請求を行うことが、手続きの第一歩になります。
請求にあたっては、譲渡する株式の種類・数、譲受人の氏名や名称などを明らかにした請求書を会社に提出するのが一般的です。 会社法上、会社は請求を受けた日から2週間以内に承認の可否を通知しなければ、承認したものとみなされるとされている点も、実務上押さえておきたいポイントです。
株式譲渡承認機関(取締役会・株主総会)の承認
請求を受けた会社は、定款の定めに従って、取締役会設置会社であれば取締役会、それ以外であれば株主総会において、譲渡の承認可否を決議します。
承認機関がどちらになるかは、各社の定款によって異なるため、自社の定款を確認したうえで、正しい手続きを踏むことが重要です。 承認が得られなかった場合には、会社または会社が指定する買取人が、当該株式を買い取る手続きに進むことになります。
このプロセスは、会社法に基づく手続き上の要件が絡むため、判断に迷う場合は専門家への確認を検討するとよいでしょう。
株式譲渡契約書の締結
承認が得られたら、譲渡人と譲受人のあいだで株式譲渡契約書を締結します。
契約書には、一般的に次のような内容を記載します。
- 譲渡する株式の種類および数
- 譲渡価格とその支払方法・支払時期
- 表明保証に関する条項
- 契約解除に関する条項
株式譲渡契約書は、後々のトラブルを防ぐためにも内容を明確に記載しておくことが望ましいとされています。 特に事業承継の場面では、当事者が親族であることも多く、口頭での合意のみで進めてしまうケースも見受けられますが、書面化しておくことでトラブルの予防につながると考えられます。
株主名簿記載事項の書き換え
契約締結と対価の支払いが完了したら、最後に株主名簿の記載事項を書き換える手続きを行います。
株主名簿は、会社が株主の情報を管理するための帳簿であり、株式譲渡の効力を会社および第三者に対抗するために重要な役割を果たします。 名義書換の請求は、原則として譲渡人と譲受人が共同で行う必要があるとされています。
この名義書換が完了することで、後継者は会社に対して正式な株主であることを主張できる立場になるとされています。 手続きが漏れてしまうと、実質的に株式を取得していても株主として扱われない可能性があるため、忘れずに対応することが大切です。
事業承継における株式譲渡でかかる税金

事業承継で株式を移転する際には、選択する方法によって発生する税金の種類が異なります。 ここでは、それぞれの方法にかかる税金について整理します。
個別の税額は、会社の規模や財産状況によって大きく異なるため、正確な金額は税理士へ確認することをおすすめします。
株式譲渡(売買)にかかる譲渡所得税
株式譲渡によって利益を得た場合、その利益は譲渡所得として、給与所得や事業所得とは切り離した分離課税方式で税金が計算されます。
非上場株式の譲渡益にかかる税率は、次のとおりです。
| 区分 | 税率 |
|---|---|
| 所得税 | 15% |
| 復興特別所得税 | 0.315% |
| 住民税 | 5% |
| 合計 | 20.315% |
譲渡所得の金額は、譲渡による収入金額から、取得費や譲渡にかかった費用を差し引いて計算されます。 取得費が不明な場合や低い場合には、譲渡益が大きくなり、税負担も重くなる傾向があるとされているため、株式を取得した経緯や取得費に関する資料は、日頃から整理しておくことが望ましいでしょう。
生前贈与にかかる贈与税
生前贈与によって株式を取得した後継者には、贈与税が課せられるとされています。
贈与税の税率は、特例贈与財産用または一般贈与財産用のいずれかが適用され、累進課税方式によって10%から55%までの税率が設定されているとされています。 どちらの税率区分が適用されるかは、贈与者と受贈者の関係性などによって異なるため、個別のケースについては税理士に確認することが望ましいでしょう。
贈与税には**基礎控除(年間110万円)**が設けられていますが、自社株式のような高額な財産を一度に贈与する場合には、基礎控除だけで税負担を大きく抑えることは難しいのが実情です。 そのため、後述する事業承継税制のような特例制度の活用が検討されるケースが多くなっています。
相続にかかる相続税
現経営者の死亡によって株式を遺産として引き継いだ場合には、相続税が課せられるとされています。
相続税も贈与税と同様に累進課税方式が採用されており、相続した遺産の金額によって税率が変化するとされています。 相続財産の総額から基礎控除額を差し引いた金額に対して、法定相続分に応じた税率が適用される仕組みです。
非上場株式の相続税評価額は、会社の業績や純資産の状況によって変動するため、業績が好調な時期に相続が発生すると、想定以上に評価額が高くなる可能性がある点には注意が必要です。 このため、後述する非上場株式の評価方法をあらかじめ理解しておくことが、相続対策を考えるうえでも重要になります。
非上場株式の譲渡価格・評価の考え方

株式譲渡や事業承継を検討する際、多くの経営者や後継者が直面するのが「自社の株式は、いったいいくらの価値があるのか」という疑問です。 上場株式であれば市場価格を確認すればよいのですが、非上場株式には市場価格が存在しないため、一定のルールに基づいて評価額を算定する必要があります。
株価算定が必要になる理由
非上場株式の評価が必要になる場面は、主に次のようなケースです。
- 株式譲渡を行う際の適正な取引価格を決めるため
- 生前贈与や相続における贈与税・相続税の計算のため
- 少数株主が保有株式を買い取ってもらう際の交渉材料とするため
特に株式譲渡においては、時価を大きく下回る価格で取引を行うと、差額分が贈与とみなされ、後継者側に贈与税が課せられるおそれがあると指摘されています。 一方で、あまりに高い価格で取引を行うと、今度は後継者側の資金負担が過大になったり、譲渡側の税負担が想定以上に膨らんだりする可能性もあります。
つまり、適正な株価を把握しておくことは、税務上のリスクを避けるだけでなく、当事者双方にとって納得感のある取引を実現するためにも重要だといえます。
主な評価方式の概要
非上場株式の評価方法には、いくつかのアプローチがあります。 代表的なものを整理すると、次のとおりです。
| 評価方式 | 概要 |
|---|---|
| 類似業種比準方式 | 事業内容が類似する上場企業の株価をもとに、配当・利益・純資産の状況を加味して評価する方式 |
| 純資産価額方式 | 会社の総資産から負債を差し引いた純資産をもとに評価する方式 |
| 配当還元方式 | 少数株主など、経営支配権を持たない株主向けに用いられる評価方式で、年間の配当額をもとに評価額を算定する方式 |
| DCF法・時価純資産法など | M&Aや第三者への譲渡など、税務評価とは異なる観点から企業価値を算定する際に用いられる方式 |
どの評価方式が適用されるかは、会社の規模や株主の立場(経営支配株主か少数株主か)によって異なるとされており、財産評価基本通達などのルールに基づいて判定されます。 たとえば、経営に対する影響力を持たない少数株主が保有する株式については、配当還元方式のような、より簡便な方法が用いられるケースがあります。
非上場株式の評価は専門的な判断を要する領域であるため、実際の評価にあたっては、税理士や株式評価の専門家に相談しながら進めることが望ましいとされています。 特に、相続や贈与だけでなく、少数株主として保有する株式の売却を検討している場合には、自社の状況に応じた適正な評価額を把握しておくことが、その後の交渉を有利に進めるうえでも役立つでしょう。
事業承継で活用できる税金の特例制度
株式譲渡や贈与、相続には、それぞれ相応の税負担がともないます。 そこで多くの経営者が検討するのが、税負担を軽減できる特例制度の活用です。
ここでは、代表的な2つの特例制度について解説します。
事業承継税制(法人版)の概要
事業承継税制は、中小企業の後継者が、先代経営者から非上場株式を贈与または相続によって取得した際に、贈与税・相続税の納税が猶予され、一定の要件を満たすと最終的に免除される制度です。
この制度は2009年に創設され、2018年度の税制改正では、要件を大幅に緩和した時限的な特例措置が新たに設けられました。 現在は、従来からの一般措置と、より有利な特例措置の2つの制度が併存している状態です。
一般措置と特例措置の違い
一般措置と特例措置の主な違いを整理すると、次のとおりです。
| 項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 対象株式数 | 発行済議決権株式総数の3分の2まで | すべての株式が対象 |
| 納税猶予割合(相続時) | 対象株式の評価額の80% | 対象株式の評価額の100% |
| 承継パターン | 後継者は原則1人(筆頭株主である代表者) | 後継者は最大3人まで |
| 雇用確保要件 | 5年平均で相続・贈与時の80%を維持する必要 | 要件を満たせなくても、理由書の提出により認定が取り消されない運用(実質的な緩和) |
| 事前の計画提出 | 不要 | 特例承継計画の提出が必要 |
特例措置では、対象株式数の上限が撤廃され、納税猶予割合も100%となったことで、事業承継時の贈与税・相続税の負担が実質的にゼロになるとされています。 中小企業経営者にとっては大きなメリットのある制度ですが、その分、適用要件や手続きも細かく定められているため、利用を検討する際には早い段階から専門家に相談することが重要です。
特例承継計画の提出期限と適用期限の最新動向
事業承継税制の特例措置を利用するには、あらかじめ特例承継計画を都道府県に提出し、確認を受けておく必要があります。
この提出期限については、これまで複数回にわたって延長が行われてきました。 最新の動向を整理すると、次のとおりです。
- 制度創設当初、特例承継計画の提出期限は2024年3月31日とされていました
- 2024年度税制改正により、提出期限は2年間延長され、2026年3月31日となりました
- さらに令和8年度税制改正により、法人版事業承継税制における特例承継計画の提出期限は、1年6カ月延長されて「2027年9月30日」まで延長されています(個人版は2028年9月30日まで延長)
一方で、注意しておきたいのが、特例措置の対象となる贈与・相続そのものを実行できる期限は延長されていないという点です。 法人版の実行期限は2027年12月31日まで、個人版は2028年12月31日までとされており、この点は変更されていません。
つまり、計画を提出するための猶予は延びたものの、実際に株式を承継できる期限そのものは据え置かれているということです。 提出期限ぎりぎりまで計画提出を先延ばしにしてしまうと、実行までの準備期間が非常に短くなってしまう可能性があるため、早めに特例承継計画の提出を済ませておくことが望ましいとされています。
なお、上記の期限に関する情報は税制改正の内容にもとづくものであり、今後の法改正によって変更される可能性があります。 特例措置の適用を具体的に検討する際には、必ず国税庁や中小企業庁の最新情報を確認したうえで、税理士に相談することをおすすめします。
相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例
もうひとつ、事業承継の場面で活用できる可能性がある特例が、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例です。
この特例は、相続によって取得した株式などの財産を、一定期間内に売却した場合に、納付した相続税額の一部を取得費に加算できるというものです。 取得費が増えることで譲渡所得の金額が圧縮され、結果として譲渡所得税の負担を軽減できる可能性があるとされています。
主な適用要件は、次のとおりです。
- 相続、遺贈により財産を取得したこと
- 相続開始日の翌日から3年10カ月以内に、その財産を譲渡したこと
- 財産の取得者が、相続税を納めていること
事業承継の場面では、相続によって取得した株式を、後継者以外の相続人がすぐに換金したいと考えるケースもあります。 このような場合、この特例の適用可否を確認しておくことで、税負担を軽減できる可能性があるため、該当しそうな場合は早めに税理士へ相談するとよいでしょう。
株式譲渡と事業譲渡の違い

事業承継やM&Aの文脈では、「株式譲渡」と似た言葉として「事業譲渡」が使われることもあります。 両者は似て非なるものであり、選択する手法によって、引き継ぐ範囲や税金、契約関係の扱いが大きく異なります。
主な違いを整理すると、次のとおりです。
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 対象 | 会社そのもの(株式)を丸ごと譲渡 | 特定の事業や資産のみを選んで譲渡 |
| 契約関係の承継 | 原則として包括的に承継される | 契約ごとに相手方の同意が必要になる場合がある |
| 許認可 | 会社自体は変わらないため、原則として引き継がれる | 法人格が変わるため、原則として再取得が必要になる |
| 課税関係 | 譲渡人(株主)に譲渡所得税 | 譲渡会社に法人税等が課税される |
**株式譲渡は「会社全体を丸ごと譲り渡す手法」であり、事業譲渡は「特定の事業や資産のみを選んで譲渡する手法」**と整理できます。 株式譲渡では会社という器そのものは変わらないため、従業員との雇用契約や取引先との契約関係、行政からの許認可なども、原則としてそのまま引き継がれるとされています。
一方、事業譲渡では対象となる事業や資産を選んで移転させるため、柔軟な設計ができる反面、契約や許認可を個別に引き継ぎ直す手間が発生しやすいという特徴があります。 どちらの手法が適しているかは、承継の目的や対象会社の状況によって異なるため、専門家とともに比較検討することが望ましいでしょう。
事業承継における株式譲渡を進める際の注意点

最後に、事業承継で株式譲渡を進める際に押さえておきたい注意点を整理します。
第一に、適正な株価をもとに取引価格を設定することです。 先述のとおり、時価から大きく乖離した価格で取引を行うと、贈与とみなされて予期せぬ税負担が生じるリスクがあります。
第二に、株式の分散を防ぐ設計を心がけることです。 後継者以外の相続人にも配慮しつつ、経営権が安定するだけの議決権を後継者に集約できるよう、生前のうちから計画を立てておくことが重要とされています。
第三に、資金計画を早めに立てることです。 株式譲渡では後継者側に買取資金が必要になるため、自己資金だけで対応できない場合は、金融機関からの融資なども含めた資金調達の検討が欠かせません。
そして最後に、事業承継は税務・法務・経営の各側面が複雑に絡み合うテーマであるため、税理士や弁護士など、専門家の力を借りながら進めることが望ましいという点です。 特に非上場株式の評価や特例制度の適用可否については、個別の状況によって結論が大きく異なるため、自己判断で進めるのではなく、早い段階から専門家に相談することをおすすめします。
非上場株式の相続・売却は株式会社繁栄 少数株Laboへご相談ください

ここまで解説してきたとおり、事業承継における株式譲渡では、適正な株価の把握が税務・実務の両面で重要なポイントになります。 しかし、非上場株式や少数株式の評価・売却は、上場株式とは異なり、専門的な知識と豊富な経験が求められる分野とされています。
株式会社繁栄が運営する少数株Laboでは、非上場株式の譲渡・売却に関するご相談を承っています。 事業承継の過程で、次のようなお悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください。
- 事業承継にあたり、自社株式の評価額がわからず、後継者への譲渡価格を決められない
- 相続で非上場株式を取得したが、発行会社に買取りを断られてしまった
- 少数株主として株式を保有しているが、後継者ではないため売却したい
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まとめ|事業承継の株式譲渡は早めの専門家相談がカギ

ここまで、事業承継における株式譲渡について、生前贈与や相続との違いから、具体的な手続き、税金、特例制度、そして非上場株式の評価の考え方まで解説してきました。
事業承継の方法には、それぞれにメリットとデメリットがあり、どの方法が最適かは会社の状況や後継者の資金力、家族構成などによって異なります。 また、事業承継税制のような特例制度は、近年も提出期限の延長など制度改正が続いており、最新の情報を踏まえて検討することが欠かせません。
特に非上場株式は市場価格が存在しないため、適正な評価額を把握しないまま手続きを進めてしまうと、想定外の税負担やトラブルにつながるおそれがある点には注意が必要です。 少数株主として株式を保有している方にとっても、自社株式の適正な価値を知ることは、今後の選択肢を広げる第一歩になるはずです。
事業承継は、一朝一夕で完結するものではなく、時間をかけて計画的に進めるべきテーマです。 「まだ先の話」と先送りにせず、早めに専門家へ相談し、自社にとって最適な承継の形を一緒に考えていくことをおすすめします。

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