「相続をきっかけに、非上場会社の株式を受け継ぐことになった」。 そんな方から、こんな声をよく耳にします。 「証券会社に問い合わせても、値段がついていないと言われてしまった」。 「いったいこの株には、いくらの価値があるのだろうか」。
取引相場のない株式は、その名の通り市場で売買される値段がありません。 だからこそ、相続税や贈与税の計算をするときには、特別なルールに沿って評価額を算出する必要があるとされています。 このルールは、国税庁が定める「財産評価基本通達」という指針にまとめられています。
しかも、2026年には、このルール自体を見直そうという動きが本格的に始まっています。 会計検査院からの指摘を受けて、国税庁が有識者会議を立ち上げ、評価方法のあり方そのものが議論されているのです。 今後の相続や事業承継の計画に、影響を与える可能性がある話題といえるでしょう。
この記事では、取引相場のない株式の評価について、次の3つのポイントに沿って解説していきます。
・そもそも取引相場のない株式とは何か、どんな場面で評価が必要になるのか ・株主の立場によって評価方式がどう変わるのか、そのしくみ ・3つの評価方式の考え方と、2026年の最新の見直し動向
専門用語が多く、難しく感じられがちな分野ですが、できる限りかみ砕いてお伝えしていきます。 自社株や相続財産としての非上場株式について、理解を深めるための一助となれば幸いです。
なお、本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税額計算や法的な結論を断定するものではありません。 実際の申告や手続きにあたっては、税理士や弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。
取引相場のない株式(非上場株式)とは

取引相場のない株式の定義
取引相場のない株式とは、証券取引所に上場していない会社が発行する株式のことを指すとされています。 一般的には「非上場株式」と呼ばれることも多く、両者はほぼ同じ意味で使われています。 中小企業のオーナー経営者が保有する自社株は、その代表的な例といえるでしょう。
上場株式であれば、日々の市場での取引を通じて、客観的な価格がつきます。 しかし、取引相場のない株式には、そうした市場価格というものが存在しません。 そのため、相続や贈与が発生した際には、財産評価基本通達に定められた計算方法によって、評価額を算出する必要があるとされています。
この財産評価基本通達は、昭和39年に制定されて以来、部分的な改正を重ねながら、現在まで運用が続いています。 60年以上にわたって、日本の相続税・贈与税の実務を支えてきた、いわば「土台」のようなルールです。 後述する通り、この土台そのものを見直そうという議論が、2026年に入って本格化しています。
株式評価が必要になる主な場面(相続・贈与・譲渡)
取引相場のない株式の評価が必要になる場面は、決して珍しいものではありません。 むしろ、中小企業の経営者やその家族にとっては、人生の節目で直面することが多いテーマだといえるでしょう。 主な場面を整理すると、次のようになります。
| 場面 | 主な内容 |
|---|---|
| 相続 | オーナー経営者が亡くなり、相続人が自社株を引き継ぐ場合 |
| 贈与 | 後継者へ生前に株式を贈与し、事業承継を進める場合 |
| 譲渡 | 親族間や第三者との間で、株式の売買を行う場合 |
| 自己株式の取得 | 会社が株主から自社株を買い取る場合 |
相続の場面では、相続税の申告のために、取引相場のない株式を評価する必要があるとされています。 評価額が高くなれば、それだけ相続税の負担も重くなる可能性があるため、多くのオーナー経営者にとって切実な問題です。
贈与の場面でも、考え方は基本的に同じです。 後継者へ株式を移転するために、あらかじめ評価額を把握しておきたいというニーズも多くあります。
譲渡の場面では、取引価格が著しく低いと、贈与とみなされて課税される場合があるとされています。 そのため、適正な評価額を把握しておくことは、税務上のトラブルを避けるうえでも重要な意味を持ちます。
なお、個々のケースでどのような課税関係になるかは、財産の状況や取引の経緯によって異なる場合があります。 判断に迷う場合には、税理士へ確認することをおすすめします。
上場株式との評価方法の違い
上場株式の評価は、比較的シンプルだとされています。 課税時期の終値や、その月・前月・前々月の平均値のうち、もっとも低い金額を採用するという方法が定められています。 市場という「ものさし」が存在するからこそ、こうした客観的な評価が可能になっていると考えられます。
一方、取引相場のない株式には、そうした市場のものさしがありません。 そこで用いられるのが、類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式という、3つの評価方式です。 これらの方式は、会社の規模や、株式を取得する株主の立場によって、使い分けられる仕組みになっているとされています。
言い換えれば、取引相場のない株式の評価は、上場株式に比べて判断すべき要素が多いということです。 株主区分の判定、会社規模の判定、特定の評価会社に該当するかどうかの判定など、いくつものステップを経て、評価額にたどり着く流れになっています。 次の章からは、そのステップを1つずつ、順を追って見ていきましょう。
評価方式を決める最初のステップ|株主区分の判定

原則的評価方式と特例的評価方式(配当還元方式)の2つ
取引相場のない株式の評価にあたって、最初に押さえておきたいのが、評価方式には大きく2つの系統があるという点です。 1つは「原則的評価方式」、もう1つは「特例的評価方式」と呼ばれる配当還元方式です。
原則的評価方式は、会社の実態に即して、事業価値や資産価値を反映させる評価方法だとされています。 この中に、類似業種比準方式・純資産価額方式・両者の併用方式が含まれています。 経営に深く関与する株主や、支配力を持つ株主が取得した株式は、原則としてこちらの方式で評価される場合が多いとされています。
一方、配当還元方式は、その株式から得られる配当金額を基準にした、簡便的な評価方法です。 経営への関与が薄く、少数株主として配当を受け取る立場にとどまる株主が取得した株式について、適用される場合があるとされています。 一般的に、配当還元方式による評価額は、原則的評価方式に比べて低くなる傾向があるとされています。
このように、どちらの方式が適用されるかによって、評価額は大きく変わってくる可能性があります。 だからこそ、次に説明する「株主区分の判定」が、評価方式を決めるうえでの最初の、重要なステップになってくるのです。
同族株主・少数株主の見極めが出発点となる理由
取引相場のない株式の評価方式を決めるためには、まずその株式を取得した株主が、会社に対してどれだけの支配力を持っているかを見極める必要があるとされています。 この支配力の度合いは、議決権の割合によって判定されます。
なぜ、こうした判定が出発点になるのでしょうか。 それは、経営に強く関与できる株主と、そうでない株主とでは、株式の持つ経済的な意味合いが異なると考えられているためです。 経営権を伴う株式は、会社の資産や収益力そのものを反映した評価がふさわしいと考えられる一方、配当を受け取るだけの立場であれば、配当実績を基準にした簡便な評価でも妥当だと考えられているとされています。
この判定では、「同族株主」「中心的な同族株主」「中心的な株主」という、3つのキーワードが登場します。 それぞれの定義を、順番に確認していきましょう。
「同族株主」とは(議決権30%以上の判定)
「同族株主」とは、株主の1人およびその同族関係者が持つ議決権の合計数が、評価会社の議決権総数の30%以上を占める場合の、その株主とその同族関係者をいうとされています。
ただし、ここには例外があるとされています。 評価会社の株主の中に、株主の1人とその同族関係者の議決権の合計数が、議決権総数の50%超を占めるグループが存在する場合には、判定の考え方が変わってきます。 その場合には、50%超を占めるグループの株主だけが「同族株主」に該当し、他の株主は、たとえ30%以上のグループに属していたとしても、同族株主にはあたらないとされています。
なお、「同族関係者」とは、法人税法施行令に定められた範囲の人や法人を指すとされています。 具体的には、配偶者や6親等内の血族、3親等内の姻族といった親族に加えて、その株主の議決権割合が50%以上を占める関係法人なども、同族関係者に含まれるとされています。
「中心的な同族株主」とは(議決権25%以上の判定)
「中心的な同族株主」とは、同族株主の1人と、その配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族が持つ議決権の合計数が、評価会社の議決権総数の25%以上を占める場合における、その株主のことを指すとされています。
同族株主よりも、さらに範囲を絞り込んだ、いわば「経営の中核に近い立場」の株主を指し示す概念だと考えられます。 この判定は、後述する「開業後3年未満の会社」や「比準要素数1の会社」といった、特定の評価会社の判定とも関わってくる、重要な考え方です。
「中心的な株主」とは(議決権15%・10%の判定)
「中心的な株主」は、少し複雑な条件で判定されるとされています。 株主の1人およびその同族関係者が持つ議決権の合計数が、評価会社の議決権総数の15%以上である株主グループのうち、そのグループの中に、単独で議決権総数の10%以上を持つ株主がいる場合における、その株主を指すとされています。
同族株主が存在しない会社であっても、こうした中心的な株主が存在するケースはあるとされています。 その場合には、中心的な株主の有無によって、少数株主が取得した株式の評価方式が変わってくる可能性があるため、注意が必要です。
議決権割合と評価方式の対応関係
ここまで見てきた株主区分の考え方を踏まえると、議決権割合と評価方式のおおまかな対応関係は、次のように整理できます。
| 株主の立場 | 適用される評価方式の傾向 |
|---|---|
| 同族株主グループに属し、議決権割合が高い株主 | 原則的評価方式(会社規模に応じた方式)となる場合が多いとされる |
| 同族株主グループに属するが、少数の議決権しか持たない株主 | 原則的評価方式となる場合が多いとされる |
| 同族株主以外の株主で、経営への関与が薄い株主 | 配当還元方式となる場合があるとされる |
もっとも、実際の判定は、会社に同族株主がいるかどうか、また株式取得後の議決権割合がどう変化するかによって、細かく枝分かれしていくとされています。 そのため、具体的な判定にあたっては、フローチャートに沿って1つずつ確認していく必要があるとされています。 自己判断が難しいと感じる場合には、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
会社規模の判定|大会社・中会社・小会社

会社規模を判定する3つの指標(従業員数・総資産・取引金額)
株主区分の判定が終わったら、次に必要になるのが「会社規模の判定」です。 取引相場のない株式を原則的評価方式で評価する場合、会社の規模によって、適用される評価方式が変わってくるとされています。
会社規模は、主に次の3つの指標をもとに判定されるとされています。
・従業員数 ・総資産価額(帳簿価額によって計算した金額) ・取引金額(直前期末以前1年間の売上高)
このうち、従業員数が100人以上の会社は、業種を問わず「大会社」と判定されるとされています。 一方、従業員数が100人未満の会社については、業種ごとに設けられた基準に沿って、総資産価額や取引金額との組み合わせで、規模が判定されるとされています。
業種による判定基準の違い(卸売業・小売サービス業・その他)
会社規模の判定基準は、業種によって異なる点にも注意が必要です。 財産評価基本通達では、業種を大きく「卸売業」「小売・サービス業」「それ以外の業種」の3つに区分し、それぞれ異なる金額基準を設けているとされています。
たとえば、同じ総資産価額であっても、卸売業とそれ以外の業種とでは、判定される会社規模が異なる場合があるとされています。 これは、業種によって、事業に必要な運転資金や在庫の規模が異なることを考慮した仕組みだと考えられます。
なお、複数の判定基準に該当する場合には、もっとも上位の区分が採用されるという考え方がとられているとされています。 たとえば、従業員数では中会社に該当しても、取引金額では大会社に該当する場合には、大会社として扱われる可能性があるということです。
会社規模ごとに適用される評価方式
会社規模の判定結果に応じて、適用される評価方式は次のように変わってくるとされています。
| 会社規模 | 主に適用される評価方式 |
|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準方式(原則) |
| 中会社 | 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式 |
| 小会社 | 純資産価額方式(原則) |
大会社については、上場会社に準じた事業規模を持つと考えられることから、類似業種比準方式が原則として用いられるとされています。 一方、小会社は、上場会社との類似性が乏しいと考えられるため、会社の純資産をベースにした純資産価額方式が原則になるとされています。
中会社は、その中間的な位置づけとして、2つの方式を組み合わせた「併用方式」が採用される仕組みです。 この併用の割合は、「L」と呼ばれる数値によって決まり、会社規模の判定結果に応じて設定されているとされています。
また、会社規模ごとに定められた原則的な計算方法に加えて、納税者の選択により、純資産価額方式など他の方式による評価額と比較して、いずれか低い方を採用できる仕組みが設けられているとされています。 どちらの方式を選択できるか、また実際にどちらが低くなるかは、会社ごとの財産状況によって異なるため、個別の計算にあたっては専門家へ確認することをおすすめします。
取引相場のない株式の3つの評価方式

類似業種比準方式
類似業種比準方式の計算の考え方
類似業種比準方式とは、評価する会社と事業内容が似ている、複数の上場会社の平均株価をベースにして、評価額を算出する方法だとされています。 上場会社という「ものさし」を借りて、非上場会社の株価を推し量る、いわば橋渡しのような評価方法だといえるでしょう。
この方式では、上場している類似業種の平均株価に対して、評価会社の配当金額・利益金額・純資産価額という3つの要素を、それぞれ比較しながら比準させていく考え方がとられています。 似た業種の会社と比べて、配当や利益、純資産がどの程度の水準にあるかを見ることで、相場観のない非上場株式にも、一定の合理的な評価額を与えようとする考え方です。
比準要素(配当・利益・純資産)と計算式
類似業種比準方式の計算式は、次のような考え方で構成されているとされています。
類似業種の平均株価 ×(比準割合)× しんしゃく率
比準割合は、次の3つの要素の平均をとって計算されるとされています。
・評価会社の1株当たり配当金額 ÷ 類似業種の1株当たり配当金額 ・評価会社の1株当たり利益金額 ÷ 類似業種の1株当たり利益金額 ・評価会社の1株当たり純資産価額 ÷ 類似業種の1株当たり純資産価額
このうち、配当金額は、直前期末以前2年間の配当金額の合計額の2分の1に相当する金額を基準に計算するとされています。 特別配当や記念配当など、継続することが見込めない配当は、原則として除いて計算するとされている点にも注意が必要です。
利益金額については、法人税の課税所得金額をベースに、非経常的な利益を除いて計算するとされ、直前期のみの金額か、直前期と直前々期の平均額か、いずれか有利な方を選べる仕組みになっているとされています。
純資産価額は、帳簿価額をベースにした金額であり、後述する「純資産価額方式」で使う相続税評価額ベースの金額とは、性質が異なる点にも留意が必要です。
なお、しんしゃく率は、会社規模に応じて数値が設定されており、大会社ほどしんしゃく率が高く、評価額が上場会社の水準に近づきやすい傾向があるとされています。 この数値は通達で定められているため、実際の計算にあたっては最新の通達内容を確認することをおすすめします。
1株あたりの資本金等が50円以外の場合の修正
類似業種比準方式の計算式は、評価会社の1株当たりの資本金等の額が50円であることを前提に組み立てられているとされています。 しかし、実際には、資本金等の額が50円以外の会社も数多く存在します。
そこで、資本金等の額が50円以外である場合には、いったん50円換算で株数を計算し直したうえで比準価額を算出し、その後あらためて実際の1株当たり資本金等の額に応じた修正を行うという手順が必要になるとされています。 この修正を見落としてしまうと、評価額が実態とかけ離れてしまう可能性があるため、実務上とくに注意が必要なポイントの1つです。
純資産価額方式
純資産価額方式の計算の考え方
純資産価額方式とは、会社が保有する資産と負債を、課税時期の時点で相続税評価額に評価し直し、その差額をベースに1株当たりの評価額を算出する方法だとされています。 いわば、「会社を今、解散させたとしたら、株主にいくら残るか」という発想に近い評価方法だといえるでしょう。
具体的には、次のような流れで計算されるとされています。
- 課税時期における各資産を、相続税評価額で評価し直す
- その合計額から、負債の合計額を差し引く
- さらに、評価差額に対する法人税額等相当額を差し引く
- 最終的な金額を、発行済株式数で割る
帳簿上の資産・負債をそのまま使うのではなく、土地や有価証券などを、課税時期時点の時価に近い金額へ評価し直すという点が、この方式の特徴だとされています。 とくに、含み益の大きい不動産を保有している会社では、帳簿価額と相続税評価額との差が大きくなり、評価額に与える影響も大きくなる傾向があるとされています。
評価差額に対する法人税額等相当額の控除
純資産価額方式では、相続税評価額による純資産価額から、帳簿価額による純資産価額を差し引いた「評価差額」に対して、一定の割合を乗じた金額を、法人税額等相当額として控除する仕組みがあるとされています。
これは、会社を清算した場合に発生しうる法人税等の負担を、あらかじめ評価額に織り込むという考え方に基づくものとされています。 この控除割合は、法人税率の改正にあわせて、これまでも見直しが行われてきた経緯があります。
この割合は時期によって変動してきた経緯があるため、実際の計算にあたっては、国税庁の最新の公表資料などで確認することをおすすめします。 古い情報のまま計算してしまうと、評価額に誤差が生じるおそれがあるため、注意が必要なポイントです。
議決権割合50%以下の場合の80%評価
純資産価額方式には、もう1つ押さえておきたいルールがあるとされています。 それは、株式の取得者とその同族関係者が持つ議決権の合計数が、評価会社の議決権総数の50%以下である場合に、通常の計算方法で算出した1株当たりの純資産価額に、100分の80を乗じて評価するという取り扱いです。
これは、支配力の弱い株主が取得した株式について、支配権のある株主が取得した場合よりも、評価額を抑える趣旨によるものだと考えられています。 同族株主グループの中にいても、議決権割合次第では、この80%評価の対象になる場合があるとされているため、自社の議決権構成をあらかじめ確認しておくとよいでしょう。
配当還元方式
配当還元方式の計算の考え方と算式
配当還元方式は、経営への関与が薄い少数株主が取得した株式について適用される場合がある、特例的な評価方式です。 その株式から得られる年間の配当金額を基準にして、評価額を算出するという考え方に基づいています。
配当還元方式の計算式は、次のようになるとされています。
(年間配当金額 ÷ 10%)×(1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円)
ここでいう年間配当金額は、直前期末以前2年間の配当金額の平均額をもとに計算し、特別配当などは除くとされています。 また、その年間配当金額が2円50銭未満となる場合や、無配の場合には、2円50銭として計算するという下限が設けられているとされている点にも注意が必要です。
還元率の「10%」は、通達が制定された昭和39年当時の金利水準などを参考に設定された数値だとされています。 後述する通り、この10%という水準が現代の経済状況に合っていないのではないか、という指摘が近年強まっており、2026年の有識者会議でも重要な論点の1つとして取り上げられています。
原則的評価額を超える場合の取扱い
配当還元方式には、もう1つ重要なルールがあるとされています。 それは、配当還元方式で計算した評価額が、原則的評価方式で計算した金額を上回る場合には、原則的評価方式による金額を評価額とするという取り扱いです。
これは、簡便的な計算方法である配当還元方式が、本来の評価方法よりも高い評価額を導き出してしまうという、逆転現象を防ぐための規定だと考えられます。 無配当の会社であっても、資産価値が大きい場合には、こうした逆転が起こりうるとされているため、両方の方式で計算したうえで、比較検討することが望ましいとされています。
3方式による評価額の違いと特徴
ここまで見てきた3つの評価方式には、それぞれ異なる特徴があるとされています。 特徴を比較すると、次のように整理できます。
| 評価方式 | 評価の基準 | 評価額の傾向 |
|---|---|---|
| 類似業種比準方式 | 類似する上場会社の株価 | 純資産価額方式より低くなる傾向があるとされる |
| 純資産価額方式 | 会社の純資産(相続税評価額ベース) | 含み益のある資産を持つ会社ほど高くなりやすいとされる |
| 配当還元方式 | 配当金額 | もっとも低い評価額となる傾向があるとされる |
実際には、同じ会社の株式であっても、適用される評価方式によって、評価額に大きな差が生じるケースがあるとされています。 国税庁の分析においても、評価方式の違いによって評価額に大きなかい離が生じている実態が確認された、との報告があります。
この評価額の差は、事業承継対策を検討するうえでも、無視できないポイントだといえるでしょう。 どの評価方式が適用されるかによって、必要となる納税資金の見通しも変わってくる可能性があるため、早い段階から自社の株式がどの方式で評価されるのか、把握しておくことをおすすめします。
特定の評価会社に該当する場合の評価方法

株式保有特定会社(純資産価額方式・S1+S2方式)
会社の資産の中に占める株式等の割合が高い会社は、「株式保有特定会社」に該当する場合があるとされています。 この判定は、会社規模に応じて設定された、株式等の保有割合の基準に基づいて行われるとされています。
株式保有特定会社に該当すると判定された場合、原則として、類似業種比準方式を用いることができなくなるとされています。 その代わりに、次の2つの方法のいずれかを選択して評価することになるとされています。
・純資産価額方式によって評価する方法
・「S1+S2方式」と呼ばれる、簡易的な評価方法を用いる方法
S1+S2方式は、会社の財産を「株式等」と「それ以外の財産」に分けて、それぞれを別々に評価したうえで合算する、という考え方に基づく方法だとされています。 「S1」は株式等と受取配当金を除いた部分を原則的評価方式で評価した金額、「S2」は株式等の相続税評価額から一定の評価差額を控除した金額を指すとされています。 株式保有割合の高い持株会社などでは、この特定会社の判定に該当するケースが少なくないとされているため、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。
土地保有特定会社
会社の総資産に占める土地等の割合が高い会社は、「土地保有特定会社」に該当する場合があるとされています。 こちらも、会社規模に応じて、土地等の保有割合の基準が設定されているとされています。
土地保有特定会社に該当すると判定された場合には、類似業種比準方式を用いることができず、純資産価額方式によって評価することになるとされています。 不動産賃貸業を営む会社や、遊休地を多く保有している会社などでは、この判定に該当しやすい傾向があるとされています。
なお、この判定にあたっては、課税時期前に、合理的な理由なく資産構成を変動させ、土地保有特定会社の判定を免れようとしたと認められる場合には、その変動がなかったものとして判定するという規定も設けられているとされています。 意図的な会社規模の操作によって判定を回避しようとする行為は、通達上、防止される仕組みになっていると考えられます。
開業後3年未満の会社・比準要素数の少ない会社
このほかにも、特別な評価方法が適用される場合があるとされています。 代表的なものが、「開業後3年未満の会社」と「比準要素数1の会社」です。
開業後3年未満の会社については、大会社・中会社・小会社のいずれに該当するかにかかわらず、すべて純資産価額方式で評価するとされています。 これは、設立から間もない会社は、業績や配当実績が安定しておらず、類似業種比準方式に必要な比較材料が乏しいと考えられるためです。 なお、ここでいう「開業後」は、会社の設立時期ではなく、実際に事業を開始した時期を指すとされている点にも注意が必要です。
比準要素数1の会社とは、直前期末を基準として類似業種比準方式の3つの要素(配当金額・利益金額・純資産価額)を計算した場合に、そのうち2つの要素がゼロとなり、かつ、直前々期末を基準として同様に計算した場合にも2つ以上の要素がゼロとなる会社を指すとされています。 このような会社についても、原則として純資産価額方式(または一定の併用計算)によって評価することになるとされています。
いずれのケースも、通常の会社規模判定だけでは捉えきれない、会社の実態に応じた例外的な取り扱いだと考えられます。 自社がこうした特定の評価会社に該当するかどうかは、判定が複雑になりやすいため、専門家に確認することをおすすめします。
【2026年最新】取引相場のない株式の評価見直しの動向

見直しの背景|会計検査院の指摘と有識者会議の設置
取引相場のない株式の評価をめぐっては、いま大きな転換点を迎えつつあるとされています。 その発端となったのが、会計検査院による指摘です。
令和6年11月、会計検査院は「令和5年度決算検査報告」の中で、取引相場のない株式の評価のあり方について、検討を行っていくことが望ましいとする指摘を行ったとされています。 検査院は、異なる規模区分の評価会社が発行した株式を取得した者の間で、評価方式によって評価額に大きな差が生じており、公平性の観点から課題があると指摘したとされています。
この指摘を受けて、国税庁は2026年4月20日、「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第1回会合を開催したとされています。 座長には、慶應義塾大学大学院法務研究科の佐藤英明教授が就任したとされ、学識経験者に加えて、日本税理士会連合会や日本商工会議所、M&A関連団体などの実務家も委員として参加しているとされています。 昭和39年の通達制定以来、60年以上を経て、評価制度のあり方そのものが議論の俎上に載せられた、節目の出来事だといえるでしょう。
有識者会議で検討されている主な論点
有識者会議では、複数の論点が並行して議論されているとされています。 ここでは、とくに重要とされる3つの論点を取り上げて解説していきます。
類似業種比準方式の見直し(比準要素・しんしゃく率)
類似業種比準方式については、比準要素の1つである「配当金額」が、十分に機能していないのではないかという指摘があるとされています。 国税庁の分析では、対象となった会社のうち、8割を超える会社が、評価直前の2期において配当を行っていなかったというデータが示されたとされています。
また、過去の通達改正によって、しんしゃく率や会社規模の区分が段階的に見直されてきた結果、類似業種比準価額と純資産価額とのかい離が拡大してきたとの分析もあるとされています。 こうした状況を踏まえ、比準要素のウエイト配分や、しんしゃく率のあり方が、今後の主要な論点になるのではないかと考えられています。
議論の展開次第では、類似業種比準方式そのものの見直しにまで踏み込む可能性も、否定はできないとされています。 ただし、有識者会議は始まったばかりであり、具体的な改正内容が固まっているわけではない点には留意が必要です。
純資産価額方式における引当金の取扱い
純資産価額方式についても、検討事項として取り上げられているとされています。 とくに注目されているのが、引当金の取扱いです。
現行の通達では、退職給与引当金などの引当金は、原則として負債に含めないという取り扱いになっているとされています。 しかし、有識者会議の資料では、継続企業であることを前提に、退職給付債務や資産除去債務など、将来のキャッシュアウトが見込まれる項目について、実務に即した取扱いを検討する旨が示されているとされています。
仮に、こうした引当金の負債計上が認められる方向で見直しが進めば、純資産価額は現行よりも引き下げられる可能性があると考えられています。 どこまでの項目を負債として認めるかは、今後の議論の展開を見守る必要があるでしょう。
配当還元方式の還元率(10%)の見直し
配当還元方式についても、大きな論点が浮上しているとされています。 それが、還元率10%の妥当性です。
この10%という数値は、通達が制定された昭和39年当時の金利水準を参考に設定されたものだとされています。 その後、長期にわたって金利水準が低下してきたにもかかわらず、還元率は見直されてこなかったとされ、現代の低金利環境のもとでは、評価額が相対的に低くなりすぎているのではないかという指摘が強まっています。
仮に還元率が引き下げられれば、少数株主が相続や贈与によって取得する株式の評価額は、現行よりも高くなる可能性があるとされています。 配当還元方式は、少数株主の相続税負担を左右しうる重要な計算方法であるだけに、この論点の行方は、多くの関係者から注目されているといえるでしょう。
評価額圧縮スキームへの対応と総則6項
有識者会議が設置された背景には、評価方式間のかい離を利用した、評価額圧縮スキームへの対応という側面もあるとされています。
国税庁が公表した資料では、具体例として、グループ法人税制の寄附修正を利用して子会社株式の帳簿価額を減額修正する手法や、無議決権株式を利用して配当還元方式の適用対象を作出する手法などが紹介されているとされています。 こうしたスキームに対しては、これまで財産評価基本通達の「総則6項」に基づく、個別の課税処分によって対応せざるを得ない状況が続いてきたとされています。
総則6項とは、通達の定める評価方法によって計算することが著しく不適当と認められる場合に、国税庁長官の指示を受けて、別の方法で評価するという規定です。 「伝家の宝刀」とも呼ばれる規定であり、最高裁令和4年4月19日判決においても、この総則6項の適用が争われ、課税庁の処分が適法と判断された事例があるとされています。
有識者会議では、こうした個別対応に頼るのではなく、通達本文のルールとして明文化することで、納税者の予見可能性を高めつつ、恣意的な評価額の圧縮を防止する方向性が模索されているとされています。 今後、通達改正が実現すれば、これまで総則6項で対応してきた事案の一部が、通達の本文ルールに組み込まれる可能性もあるでしょう。
改正の適用時期の見通しと事業承継への影響
現時点では、有識者会議による議論の内容が、そのまま通達改正につながるかどうかは、確定していません。 一部の報道では、議論の内容を令和9年度税制改正大綱に盛り込み、パブリックコメントなどの手続きを経て、早ければ令和10年分から適用されるというスケジュール観が示されているとされています。
もっとも、これはあくまで見通しの1つであり、議論の進捗によっては、スケジュールが変動する可能性も十分にあるといえます。 今回の見直しは、相続税率の引き上げや基礎控除の縮小を目的としたものではなく、あくまで評価制度の公平性・適正性を高めることを目的としたものだとされている点も、押さえておきたいポイントです。
とはいえ、仮に類似業種比準価額が引き上げられる方向で見直しが行われた場合、大会社や中会社を中心に、自社株式の評価額が上昇するケースが出てくる可能性があると指摘されています。 すでに事業承継対策を進めている企業であっても、承継スケジュールや納税資金計画を、あらためて見直す必要が生じる場合もあるでしょう。
事業承継を検討している経営者の方は、今後の有識者会議の動向を継続的にチェックしながら、現行ルールのもとでできる対策を、早めに点検しておくことをおすすめします。 制度改正の議論は今後も続いていくと見込まれるため、最新情報を随時確認する姿勢が重要になってきます。
取引相場のない株式の評価に関するよくある質問

自分で評価額を計算することはできる?
取引相場のない株式の評価額を、自分で計算すること自体は可能とされています。 財産評価基本通達や、国税庁が公表している「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」といった様式を使えば、一定の手順に沿って計算を進めることができるとされています。
ただし、実際の計算にあたっては、株主区分の判定、会社規模の判定、特定の評価会社への該当性の判定など、専門的な判断を要する場面が数多く登場するとされています。 判定を誤ると、評価額が実態とずれてしまい、後の税務調査で指摘を受ける可能性もあるとされています。
とくに、保有資産の種類が多い会社や、グループ会社間で株式を持ち合っている会社などは、計算が複雑になりやすい傾向があるとされています。 自分で計算を試みる場合であっても、最終的な確認は、税理士などの専門家に依頼することをおすすめします。
評価額はどのくらいの頻度で変わる?
取引相場のない株式の評価額は、決算のたびに変動する場合が多いと考えられています。 類似業種比準方式で使う配当・利益・純資産の各要素は、直前期末の決算数値をもとに計算されるとされているため、業績の変化が評価額に反映されやすい仕組みになっているといえます。
また、類似業種の平均株価も、毎月国税庁から公表される数値であるため、市場全体の動向によって評価額が変動する可能性もあるとされています。 純資産価額方式についても、保有する土地や有価証券の評価額が変われば、それにあわせて評価額も変動していくと考えられます。
さらに、今回取り上げた2026年の有識者会議による見直しが実現すれば、通達そのものが改正され、計算方法自体が変わる可能性もあるとされています。 このように、評価額は固定的なものではなく、複数の要因によって、年々変化しうるものだと理解しておくとよいでしょう。
評価が高くなりやすいのはどんな会社?
一般的に、次のような特徴を持つ会社は、評価額が高くなりやすい傾向があるとされています。
・業績が好調で、利益金額や純資産が大きい会社 ・不動産や有価証券など、含み益の大きい資産を保有している会社 ・従業員数が多く、大会社に区分される会社 ・配当を継続的に行っており、配当実績のある会社
とくに、含み益の大きい不動産を保有している会社では、純資産価額方式による評価額が高くなりやすい傾向があるとされています。 また、大会社に区分される会社は、類似業種比準方式の適用割合が高くなるため、上場会社の株価動向の影響を受けやすくなる点にも注意が必要です。
反対に、無配当で、資産規模も小さく、従業員数の少ない会社であれば、評価額が抑えられる傾向があるとされています。 ただし、これらはあくまで一般的な傾向であり、個別の会社の状況によって、評価額は異なることを踏まえておく必要があります。
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まとめ|取引相場のない株式の評価は専門家への相談を
ここまで、取引相場のない株式の評価について、株主区分の判定から会社規模の判定、3つの評価方式の考え方、そして2026年の最新動向まで、幅広く解説してきました。
取引相場のない株式は、市場価格が存在しない分、評価のプロセスが複雑になりがちだとされています。 株主区分・会社規模・特定の評価会社への該当性といった、いくつものステップを踏んで、評価額が算出される仕組みになっています。
さらに、2026年には、この評価制度そのものを見直そうという議論が本格的に始まっています。 類似業種比準方式のあり方、純資産価額方式における引当金の取扱い、配当還元方式の還元率など、複数の論点が並行して検討されているとされ、今後の動向次第では、評価額の水準が変わる可能性も指摘されています。
こうした状況を踏まえると、自社株式の評価や事業承継対策は、できるだけ早い段階から取り組んでおくことが望ましいと考えられます。 評価方式や判定基準は専門性が高く、実際の計算には細かい留意点が数多く存在します。
本記事の内容は、あくまで一般的な情報提供を目的としたものです。 個別のケースにおける具体的な評価額の算出や、税務・法務上の判断については、税理士や弁護士といった専門家に相談することを強くおすすめします。 最新の制度動向にも目を配りながら、余裕を持った準備を進めていきましょう。

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