非上場会社が資金調達や事業承継を進める際、選択肢のひとつとして挙がるのが第三者割当増資です。
しかし、いざこの言葉を耳にしても、「株主割当増資と何が違うのか」「株価はどうやって決まるのか」といった疑問を持つ方は少なくありません。
とくに、自社が非上場の少数株主という立場にある方にとっては、第三者割当増資によって自分の持株比率が薄まってしまうのではないかという不安を感じる場面もあるでしょう。
この記事では、第三者割当増資の基本的な仕組みから、非上場会社特有の手続きの流れ、株価の決め方、そして既存の少数株主に与える影響まで、順を追って整理していきます。
制度を正しく理解することは、経営者にとっても株主にとっても、今後の判断材料を得るための第一歩になります。
ぜひ最後まで目を通していただき、ご自身の状況と照らし合わせながら読み進めてみてください。
第三者割当増資の基礎知識

まずは、第三者割当増資という制度そのものの基本的な内容を確認していきます。
似たような言葉として株主割当増資や公募増資がありますが、それぞれの違いを理解しておくことで、後の章で説明する手続きや株価算定の話もスムーズに理解できるようになります。
第三者割当増資とは
第三者割当増資とは、既存の株主であるかどうかを問わず、会社が選んだ特定の第三者に対して新株を割り当て、資金を調達する方法です。
新株を発行する行為は、会社法上「募集株式の発行」と呼ばれ、資本金の増加をともなうことから、一般的に「増資」と呼ばれています。
割り当ての相手方は、取引先の企業であったり、金融機関であったり、あるいは経営者の親族や役員、従業員といった個人であったりと、状況によってさまざまです。
発行会社が引受人を自由に選定できるという点が、この増資方式の大きな特徴といえるでしょう。
たとえば、非上場の中小企業が後継者候補に対して新株を割り当てれば、その後継者の持株比率を高め、事業承継を段階的に進める手段として活用できる場合があります。
一方で、第三者割当増資は、既存株主以外に新株が発行されるため、既存株主の持株比率が低下するという側面もあわせ持っています。
この持株比率の低下、いわゆる「希薄化」については、後ほど別の章で詳しく取り上げます。
増資の種類と第三者割当増資の位置づけ
会社が新株を発行して資金を調達する方法は、大きく分けて「株主割当増資」「公募増資」「第三者割当増資」の3つに分類されます。
それぞれの違いを、以下の表で整理してみましょう。
| 増資の種類 | 割当先 | 主な利用場面 |
|---|---|---|
| 株主割当増資 | 既存株主全員(持株比率に応じて) | 中小企業やオーナー企業が支配権を維持しながら資金調達したい場合 |
| 公募増資 | 不特定多数の投資家 | 上場企業が大規模な資金調達を行う場合 |
| 第三者割当増資 | 特定の第三者 | 資本業務提携や事業承継など戦略的な目的がある場合 |
このように、同じ「増資」という言葉であっても、誰に新株を割り当てるかによって性質が大きく異なります。
株主割当増資との違い
株主割当増資は、既存株主に対して、その持株比率に応じて新株を割り当てる方法です。
既存株主全員に平等な引受の機会が与えられるため、持株比率が維持されやすいという特徴があります。
これに対して第三者割当増資は、既存株主以外の者にも新株が割り当てられる可能性があるため、株主割当増資のように持株比率が自動的に維持されるわけではありません。
中小企業のオーナーが経営支配権をできるだけ維持したいと考える場合には、株主割当増資のほうが選ばれやすい傾向がある一方、既存株主に十分な出資余力がない場合には、調達できる資金の規模が限定的になりやすいという課題もあります。
公募増資との違い
公募増資は、証券会社などを通じて、不特定多数の投資家から広く資金を集める方法です。
主に上場企業が、大規模な資金調達を行う際に利用する手法とされています。
公募増資では、発行会社が割当先を選ぶことができないため、戦略的なパートナーシップの構築を目的とした資金調達には不向きとされる場合が多いようです。
また、開示書類の作成コストや証券会社への手数料が高額になりやすく、非上場会社が採用するケースはほとんどありません。
一方で第三者割当増資は、出資意欲の高い特定の企業や個人を選んで引き受けてもらうことができるため、比較的短期間かつ簡便な手続きで実施できるという利点があります。
第三者割当増資と株式譲渡の違い
第三者割当増資は、資金調達の手段としてだけでなく、M&Aや事業承継の手段としても用いられることがあります。
このとき、しばしば比較の対象となるのが「株式譲渡」です。
株式譲渡とM&Aの現場では最もよく使われるスキームのひとつとされていますが、第三者割当増資とはいくつかの点で性質が異なります。
まず、対価を受け取る主体が異なります。
株式譲渡の場合、対価を受け取るのは株式を譲渡した株主自身ですが、第三者割当増資の場合は、対価を受け取るのは会社です。
既存株主個人には、直接的な金銭が入ってくるわけではありません。
次に、完全子会社化の可否についても違いがあります。
株式譲渡であれば、譲受側がすべての株式を取得し、対象会社を完全子会社化することも可能ですが、第三者割当増資の場合は既存株主の株式がそのまま残るため、この方法だけで完全子会社化を実現することはできないとされています。
さらに、第三者割当増資を行うと、発行済株式総数が増加することにより、既存株主の持株比率が相対的に低下します。
この「持株比率の希薄化」によって、既存株主が実質的な不利益を被る可能性がある点は、株式譲渡にはない第三者割当増資特有の論点といえるでしょう。
非上場会社が第三者割当増資を行う目的

非上場会社が第三者割当増資という手法を選ぶ背景には、単なる資金調達にとどまらない、さまざまな経営上の狙いが存在します。
ここでは、代表的な3つの目的について確認していきます。
資金調達手段としての活用
第三者割当増資のもっとも基本的な目的は、事業の成長に必要な資金を調達することです。
新規事業への投資や設備の増強、研究開発費用、あるいは日常的な運転資金の補充など、その用途はさまざまです。
とくに、銀行融資だけでは調達が難しい長期的な成長投資資金や、財務体質が弱い会社の資本増強に適した方法とされています。
新株発行によって調達した資金には、借入金のような返済義務がないという特徴があります。
そのため、財務基盤が強化され、その後の金融機関からの借入においても有利に働く可能性があるとされています。
また、M&Aを実施する際の買収資金として、第三者割当増資が活用されるケースも見られます。
資本業務提携による関係強化
第三者割当増資は、単なる資金調達を超えて、戦略的なパートナーとの関係を構築する手段としても活用されています。
たとえば、製造業を営む非上場会社が、販売網を持つ大手商社に対して第三者割当増資を実施すれば、資金調達とあわせて販路の拡大を期待できる場合があります。
技術系のスタートアップが、大手のIT企業に新株を割り当てるようなケースでは、資金の獲得に加えて、技術面での支援や人材交流が期待されることもあるでしょう。
このような資本業務提携においては、出資者が一定の議決権を取得することにより、経営への関与の度合いが高まる場合があります。
取締役の派遣や、定期的な経営会議への参加といった形で、出資者の持つノウハウや経営資源を活用できる点は、大きなメリットのひとつといえます。
金融機関からの出資を受けるケースでは、信用力の向上により、その後の取引条件が改善する可能性もあるとされています。
事業承継・M&Aの手段としての活用
後継者が不在の非上場会社にとって、第三者割当増資は事業承継やM&Aの準備段階としても有効な手段のひとつとされています。
たとえば、将来的な買収候補となる企業に対して段階的に新株を割り当て、少しずつ経営権を移転していくという方法があります。
このやり方であれば、一度にすべての株式を譲渡する場合と比べて、リスクを分散させながら承継を進められる可能性があります。
また、従業員や取引先に与える影響を、比較的小さく抑えられるという見方もできるでしょう。
複数の企業から出資を受けることで、将来の買収候補を複数確保し、より有利な条件で最終的な事業承継を実現しようとする戦略が取られる場合もあります。
資本関係を構築したのちに、一定期間の協業を経て、相互理解が深まった段階で完全買収へと移行するステップアップ方式も、近年注目されている手法のひとつです。
なお、事業承継やM&Aの具体的な進め方については、個々の会社の状況によって最適な選択肢が大きく異なるため、実行にあたっては専門家に相談することをおすすめします。
第三者割当増資のメリット・デメリット

第三者割当増資には、資金を調達する会社側と、出資を行う引受人側、そして既存株主のそれぞれの立場から見た場合に、異なるメリットとデメリットが存在します。
順を追って確認していきましょう。
発行会社側のメリット・デメリット
まず、資金調達を行う発行会社側の視点から見た、メリットとデメリットを整理します。
メリットとして挙げられるのは、資金繰りの安定化です。
銀行借入とは異なり返済義務がないため、調達した資金を長期的な成長投資に振り向けやすくなります。
自己資本比率が向上することで、財務体質が強化され、対外的な信用力が高まる場合もあるでしょう。
また、出資者を自社で選定できる点も利点のひとつです。
事業戦略に合致する企業や、必要なノウハウを持つパートナーを選ぶことで、単なる資金調達を超えた価値を得られる可能性があります。
手続きの面でも、公募増資と比較すると簡便に進められる場合が多く、証券会社への高額な手数料が発生しない点も魅力といえます。
一方で、デメリットとして注意すべきなのは、資本金の増加にともなう税負担の増加です。
資本金が一定額を超えると、法人住民税の均等割の税率区分が変わったり、登録免許税の負担が生じたりする可能性があります。
また、出資者との関係が悪化した場合には、経営方針をめぐる対立や、経営への介入といったリスクも想定しておく必要があるでしょう。
引受人側のメリット・デメリット
次に、出資を行う引受人側の視点から見てみましょう。
引受人にとってのメリットは、出資先企業との関係を強固に築ける点にあります。
一定の議決権を取得することで、経営への関与が可能となり、戦略的な協業を進めやすくなる場合があります。
また、完全買収と比較してリスクを分散できるという特徴もあります。
まずは少数株主として関係を構築し、将来的に持分を増やしていくという段階的な投資戦略を取ることも可能です。
出資先企業が成長し、株式価値が上昇すれば、投資に対するリターンを得られる可能性もあるでしょう。
一方で、デメリットとしては、資金効率の面で株式譲渡による買収に劣るという点が挙げられます。
新株発行という性質上、既存株主の持分がそのまま残るため、100%の議決権を取得することはできません。
さらに、出資先企業の業績が悪化した場合には、投資資金の回収が困難になるリスクも考慮しておく必要があります。
既存株主にとっての影響(持株比率の希薄化)
そして、忘れてはならないのが既存株主にとっての影響です。
第三者割当増資が実施されると、発行済株式総数が増加するため、既存株主の持株比率は相対的に低下します。
この現象は「希薄化」と呼ばれ、既存株主にとっては実質的な不利益となる場合があります。
とくに議決権比率の変化には注意が必要です。
一般的に、株主総会における普通決議には出席株主の議決権の過半数、特別決議には3分の2以上の賛成が必要とされていますが、希薄化によって自身の議決権比率がこれらの節目を下回ってしまうと、それまで持っていた影響力を失う可能性があります。
また、株式譲渡とは異なり、第三者割当増資では既存株主に直接的な対価が支払われるわけではありません。
新株発行によって会社に資金が入るだけであり、既存株主個人の手元に現金が入ってくるわけではないという点も、あわせて理解しておく必要があるでしょう。
非上場会社における第三者割当増資の手続きの流れ

ここからは、非上場会社が実際に第三者割当増資を実施する際の、具体的な手続きの流れを確認していきます。
会社法上、手続きの内容は「非公開会社」であるか「公開会社」であるかによって異なるため、まずはその違いから見ていきましょう。
非公開会社と公開会社の違い
会社法上、発行するすべての株式について譲渡制限が付けられている会社のことを「非公開会社」と呼びます。
非上場会社の多くは、定款において株式の譲渡について取締役会などの承認を要する旨を定めており、この非公開会社に該当することが一般的です。
一方、発行する株式の全部または一部に譲渡制限が付けられていない会社は「公開会社」と呼ばれ、これは上場・非上場とは異なる会社法上の区分になります。
非公開会社であるか公開会社であるかによって、募集事項を決定する機関が異なるという点が、手続きを理解するうえでの重要なポイントです。
募集事項の決定
第三者割当増資を実施するためには、まず「募集事項」と呼ばれる基本的な条件を決定する必要があります。
具体的には、以下のような事項を決めることになります。
- 募集株式の数(または上限数)
- 募集株式の払込金額、またはその算定方法
- 金銭以外の財産を出資の目的とする場合は、その旨および財産の内容と価額
- 払込期日、または払込期間
- 増加する資本金および資本準備金の額
これらの募集事項を、どの機関が決定するのかは、非公開会社と公開会社とで異なります。
非公開会社の場合(株主総会の特別決議)
非公開会社においては、募集事項の決定には原則として株主総会の特別決議が必要とされています。
特別決議とは、議決権の過半数を有する株主が出席したうえで、その議決権の3分の2以上の賛成をもって成立する決議のことです。
定款に定めを置くことで、募集事項の決定を取締役、または取締役会設置会社であれば取締役会に委任することも認められていますが、実務上、非上場の中小企業ではオーナー経営者自身が主要株主であることも多く、株主総会での決議を経て進められる場合が多いようです。
公開会社の場合(原則、取締役会決議)
一方、公開会社においては、募集事項の決定は原則として取締役会の決議によって行うことができるとされています。
これは、公開会社では株式の流通性が高く、既存株主の利益への配慮が非公開会社ほど強く求められないと考えられているためです。
ただし、払込金額が引受人にとって「特に有利な金額」である場合、いわゆる有利発行に該当するときは、公開会社であっても取締役会決議だけでは足りず、株主総会の特別決議が必要になるとされています。
有利発行についての詳しい判断基準は、後ほど別の章で解説します。
また、公開会社が新株発行を行う際には、違法な発行を差し止める機会を株主に与えるという趣旨から、払込期日(または払込期間の初日)の2週間前までに、株主に対して募集事項を通知、または公告する必要があるとされています。
申込みと割当ての決定
募集事項が決定したら、次に、引受けを希望する者に対して通知を行います。
引受けを希望する者は、氏名または名称、住所、引受けを希望する株式数などを記載した申込書を、会社に提出することになります。
会社は、申込みを受けた後、取締役会(または株主総会)において、申込者の中から誰にどれだけの株式を割り当てるのかを決定します。
割当てが決定すると、その内容が申込者に対して通知され、割当てを受けた者は正式に株式の引受人としての地位を得ることになります。
総数引受契約による手続きの簡略化
もっとも、実際に第三者割当増資を行う場面では、あらかじめ引受人が決まっているケースが大半です。
このような場合、前述した申込みと割当ての手続きを個別に行うのは煩雑であるため、「総数引受契約」を利用することで手続きを簡略化できるとされています。
総数引受契約とは、募集株式の全部を、特定の引受人が一括して引き受けることを内容とする契約です。
対象となる株式が譲渡制限株式である場合、これは非上場会社では通常このケースに該当しますが、契約を締結するにあたって株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)の承認決議が必要とされています。
その一方で、この承認を得ることにより、申込みと割当ての個別手続きは不要になります。
多くの非上場会社における第三者割当増資では、この総数引受契約の方式が採用されているとされています。
払込みと変更登記
割当てが決定した後、引受人は指定された払込期日(または払込期間中)までに、出資金を会社の指定口座に払い込みます。
金銭による出資の場合は銀行振込によって、現物出資の場合は現物資産の引き渡しによって出資が実行されるのが一般的です。
払込みを怠った場合、その引受人は自動的に株主となる権利を失うとされているため、期日の管理には注意が必要です。
払込みが完了すると、引受人はその時点で株主としての権利を取得します。
その後、会社は資本金の増加などについて、変更登記の手続きを行わなければなりません。
登記申請書には、株主総会議事録や取締役会議事録、払込みがあったことを証する書面などを添付するのが一般的です。
変更登記の申請期限については、会社法上、登記事項に変更が生じたときから2週間以内に手続きを行う必要があるとされています。
登記を怠った場合、代表者に対して過料の制裁が科される可能性があるとされているため、期限を意識したスケジュール管理が重要になります。
第三者割当増資における株価(発行価額)の決め方

第三者割当増資を実施するうえで、もっとも重要な決定事項のひとつが「株価」、すなわち1株あたりの払込金額をどのように定めるかという点です。
非上場会社の場合、市場で取引されている株価というものが存在しないため、専門的な評価手法を用いて株式の価値を算定する必要があります。
株価算定における3つのアプローチ
非上場株式の価値を算定する方法には、代表的なものとして「コスト・アプローチ」「インカム・アプローチ」「マーケット・アプローチ」の3つがあるとされています。
それぞれ視点が異なるため、実務上は複数の手法を組み合わせて算定することも少なくありません。
コスト・アプローチ(簿価純資産法・時価純資産法)
コスト・アプローチとは、企業の純資産を基準として株価を算定する方法です。
純資産を基準とすることから、ネットアセット・アプローチと呼ばれることもあります。
代表的な手法として、以下の2つがあります。
| 手法 | 内容 |
|---|---|
| 簿価純資産法 | 貸借対照表上の資産・負債を、帳簿価額のまま用いて純資産額を算定する方法 |
| 時価純資産法 | 貸借対照表上の資産・負債を時価で評価し直したうえで、純資産額を算定する方法 |
コスト・アプローチは、会計記帳が適切に行われており、時価の情報が入手しやすい状況であれば、客観性に優れた手法とされています。
一方で、ある一時点の純資産に基づいて評価を行う性質上、のれんや無形資産といった、将来の超過収益力やブランド価値が、株価に十分反映されにくいという短所もあるとされています。
インカム・アプローチ(DCF法・配当還元法・収益還元法)
インカム・アプローチとは、企業が将来において獲得すると見込まれるキャッシュフローや利益を基準として、株価を算定する方法です。
代表的な手法として、以下の3つが挙げられます。
- DCF法:将来のフリーキャッシュフローを、加重平均資本コストで現在価値に割り引いて事業価値を算定し、そこから株主価値および株価を算出する方法
- 配当還元法:株主が将来受け取ると見込まれる配当金の予想額をもとに、株主価値を算定する方法
- 収益還元法:将来の会計上の利益を一定の割引率で割り引くことで企業価値を算定し、株主価値および株価を算出する方法
インカム・アプローチは、企業の純資産価値だけでなく、のれんや無形資産、知的財産といった、貸借対照表には表れにくい価値を反映できる点で優れているとされています。
一方で、将来のキャッシュフローや利益の予測、そしてそれを現在価値に割り引くための割引率の設定には、一定の主観が入り込みやすいという課題も指摘されています。
そのため、事業計画の作成にあたっては、恣意性が入らないよう客観的な根拠に基づいて行うことが望ましいとされています。
マーケット・アプローチ(類似会社比較法など)
マーケット・アプローチとは、評価対象の企業と類似する上場企業の市場価格や、財務情報などを基準として株価を算定する方法です。
代表的な手法には、以下のようなものがあります。
- 市場株価法:株式市場に上場している企業自身の株価を基準に算定する方法
- 類似会社比較法:類似する上場企業の財務指標をもとに、比較倍率を算定して株価を推定する方法
- 類似業種比準方式:国税庁が定める財産評価基本通達に規定された方法で、類似業種の税務上の利益や純資産をもとに株価を算定する方法
マーケット・アプローチは、市場における取引環境を反映できるという点で、一定の客観性があるとされています。
しかし、非上場会社の場合、そもそも自社の市場株価というものが存在しないため、市場株価法をそのまま採用することはできません。
また、評価対象の企業と成長ステージが大きく異なる類似企業しか見つからない場合や、そもそも比較対象となる類似企業自体が存在しない場合には、この手法の精度が低下する可能性があるとされています。
非上場会社に適した株価算定の考え方
ここまで見てきたとおり、株価の算定方法にはそれぞれ長所と短所があり、3つの方法のうち、常にどれか1つが唯一絶対に正しいというわけではありません。
個々の会社が置かれている状況を踏まえたうえで、最も適切と考えられる方法を選択する必要があるとされています。
実務上は、複数の手法によって算定した株価の中央値や平均値を採用したり、算定結果の最低値から最高値までのレンジを示したりすることもあるようです。
非上場会社の場合、株式市場で公開される価格が存在しないため、マーケット・アプローチにおける市場株価法は、原則として採用できません。
また、将来のキャッシュフローや、資産・負債の時価に関する情報を容易に入手できないケースも多いため、コスト・アプローチの簿価純資産法や、インカム・アプローチの収益還元法が、比較的採用しやすい手法と考えられる場合があります。
いずれの手法を用いるにせよ、算定の客観性を担保するために、公認会計士や税理士といった外部の専門家に依頼することが望ましいとされています。
とくに、次章で説明する有利発行に該当する可能性がある場合や、大規模な増資を実施する場合には、第三者による評価が重要な意味を持つことになります。
有利発行に該当する場合の規制と留意点

第三者割当増資を実施する際に、実務上とくに慎重な判断が求められるのが「有利発行」に該当するかどうかという論点です。
ここでは、有利発行の基本的な考え方と、判断基準、必要な手続きについて確認していきます。
有利発行とは
有利発行とは、募集株式を引き受ける者にとって「特に有利な金額」で新株が発行されることをいいます。
第三者割当増資においては、発行会社が払込金額を自由に決められる面がある一方で、この払込金額があまりに時価より低く設定されてしまうと、既存株主が実質的に不利益を被ることになります。
そこで会社法は、払込金額が募集株式を引き受ける者にとって特に有利な金額である場合には、取締役が、その理由を株主総会において説明しなければならないと定めています。
この説明を怠った場合、事後的に取締役の責任が問われる可能性があるとされているため、有利発行に該当するか否かの判定は、実務上とても重要な意味を持ちます。
非上場会社における「特に有利な金額」の判断基準
「特に有利な金額」に該当するかどうかの判断基準については、対象となる株式が上場株式であるか、非上場株式であるかによって考え方が異なるとされています。
上場株式の場合、一般に「公正な発行価額」とは、新株発行によって企図された資金調達の目的が達成される限度で、旧株主にとってもっとも有利な価額をいうとされています(東京高裁昭和46年1月28日判決)。
この判例が示した基準は、必ずしも数値として明確なものではありませんが、実務上は、日本証券業協会が定める「第三者割当増資等の取扱いに関する指針」なども踏まえ、時価から1割程度低い金額までは「特に有利な金額」に該当しないと考えられる場合が多いとされています。
もっとも、この「1割基準」は、対象株式が上場されていて、客観的な時価が存在することを前提とした基準です。
非上場会社の場合には、そもそも客観的な市場価格が存在しないため、この1割基準をそのまま当てはめることはできないとされている点に、注意が必要です。
この点について、非上場会社における有利発行の判断基準を示した最高裁判決(平成27年2月19日判決)があります。
この判決では、非上場会社が株主以外の者に新株を発行するにあたり、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたといえる場合には、その発行価額は、特別の事情のない限り「特に有利な金額」には当たらないと判断されています。
この判決を踏まえると、非上場株式の発行にあたっては、公認会計士などの信頼できる専門家に株価算定を依頼し、客観的な資料に基づいて合理的な算定方法により払込金額を決定していれば、会社側の判断が尊重されやすい可能性があると考えられます。
ただし、これはあくまで一般的な傾向であり、個別の事案ごとに裁判所の判断は異なる場合があります。
有利発行に該当するかどうかの最終的な判断については、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
有利発行に該当した場合に必要な手続き
有利発行に該当する場合、非公開会社・公開会社を問わず、株主総会の特別決議によって、有利発行を必要とする理由を説明したうえで募集事項を決定する必要があるとされています。
公開会社であっても、通常であれば取締役会決議で足りる募集事項の決定について、有利発行に該当する場合は株主総会の特別決議が必要となる点は、押さえておくべき重要なポイントです。
必要な説明を怠ったまま新株発行を行った場合、取締役の任務懈怠責任が問われ、公正な価額と実際の発行価額との差額について、損害賠償を求められる可能性があるとされています。
そのため、有利発行に該当する可能性がある第三者割当増資を検討する際には、あらかじめ専門家による株価算定を行い、算定の根拠となった資料を適切に保管しておくことが望ましいでしょう。
第三者割当増資が既存の少数株主に与える影響
ここまでは、主に発行会社や引受人の視点から第三者割当増資を見てきましたが、この章では、既存の少数株主という立場から見た影響について整理していきます。
第三者割当増資を検討している会社の株式を保有している方にとっては、とくに関心の高いテーマになるはずです。
持株比率・議決権比率の希薄化
第三者割当増資が実施されると、発行済株式総数が増加するため、既存株主の持株比率は相対的に低下します。
これはすでに触れたとおり、「希薄化」と呼ばれる現象です。
とくに少数株主にとって重要なのは、この希薄化によって、それまで有していた議決権比率が一定の節目を下回ってしまう可能性があるという点です。
株主総会の決議には、主に以下の2種類があります。
| 決議の種類 | 必要となる賛成の目安 | 主な決議事項の例 |
|---|---|---|
| 普通決議 | 出席株主の議決権の過半数 | 取締役の選任、剰余金の配当など |
| 特別決議 | 出席株主の議決権の3分の2以上 | 定款変更、募集株式の発行(非公開会社)など |
自身の議決権比率が、これらの決議に対して一定の影響力を持てる水準(たとえば3分の1超であれば特別決議を単独で阻止できる可能性があるなど)にあった場合、希薄化によってその水準を下回ってしまうと、それまで持っていた発言力を失う可能性があるという点は、少数株主として理解しておくべき重要なポイントといえます。
また、株式譲渡とは異なり、第三者割当増資では既存株主に直接的な金銭が支払われるわけではありません。
会社に資金が入るだけであり、既存株主個人の資産が直接増えるわけではないという点も、あわせて押さえておく必要があるでしょう。
なお、資本金が増加することにともなって、法人住民税の均等割などの税負担が増加する可能性がある点も、間接的に既存株主に影響を及ぼす要素のひとつとされています。
少数株主が検討し得る対応・選択肢
自身が保有する非上場株式について、会社が第三者割当増資を計画していることを知った場合、少数株主としてどのような対応を検討できるのでしょうか。
会社法上、株主には、違法な新株発行を差し止めるための制度や、株式の価値について専門家の評価を求める仕組みなど、株主の利益を保護するための各種の制度が設けられている場合があります。
たとえば、著しく不公正な方法によって株式が発行される場合や、法令・定款に違反する発行が行われようとしている場合には、一定の要件のもとで差止めを請求できる制度があるとされています。
また、そもそも自身が保有している非上場株式に、どの程度の経済的価値があるのかを把握しておくことも、今後の判断材料として重要です。
非上場株式は、上場株式と異なり日々の取引価格が存在しないため、自分の持株の価値を実感しにくいという特徴があります。
専門家による株式価値の算定を受けることで、現在の持株がどの程度の価値を持つのかを客観的に把握できる場合があります。
このように、第三者割当増資に関連して自身の持株の取り扱いに不安を感じている場合には、早い段階で弁護士や税理士といった専門家に相談し、自身の置かれている状況を整理することをおすすめします。
なお、具体的な対応方法は、会社の状況や株主それぞれの事情によって大きく異なるため、この記事の内容はあくまで一般的な制度の紹介にとどまる点にご留意ください。
個別の状況における適切な対応については、必ず専門家にご確認ください。
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まとめ
この記事では、非上場会社における第三者割当増資について、基礎知識から手続きの流れ、株価の決め方、そして既存の少数株主への影響まで、幅広く解説してきました。
第三者割当増資は、資金調達だけでなく、資本業務提携や事業承継の手段としても活用される、非上場会社にとって身近な制度です。
一方で、非公開会社と公開会社とで手続きが異なる点や、株価算定の方法が複数存在する点、そして有利発行に該当する場合の特別な手続きなど、実務上は専門的な判断が求められる場面が少なくありません。
また、既存株主、とくに少数株主の立場からすると、第三者割当増資によって持株比率が希薄化し、これまで持っていた議決権上の影響力が変化する可能性があるという点は、見過ごせないポイントといえるでしょう。
自身が保有する非上場株式の価値や、今後の対応について不安を感じている場合には、専門家に相談しながら、状況を整理していくことが大切です。
制度の全体像を正しく理解したうえで、ご自身にとって最善の選択肢を検討していただければ幸いです。

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