「親が経営していた会社の株式を、相続放棄したい」。 「非上場株式を相続してしまったけれど、正直どう扱えばいいのかわからない」。 このように感じている方は、決して少なくありません。 非上場株式は、上場株式と違って市場価格が存在せず、売却先を見つけることも簡単ではないため、相続する側にとって「扱いに困る財産」になりやすいという特徴があります。 さらに、株式を相続放棄した場合には、名義や会社対応をめぐる独特のトラブルが起こることもあり、単純に「放棄すれば終わり」とはいかないケースも見られます。 本記事では、株式の相続放棄という制度の基本から、実際の手続きの流れ、メリット・デメリット、そして非上場株式ならではの注意点までを、体系的に解説していきます。 これから相続放棄をするかどうか検討している方はもちろん、すでに非上場株式を相続してしまい対応に悩んでいる方にも、判断の材料として役立てていただければ幸いです。 なお、本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案については、弁護士や税理士などの専門家にご相談いただくことをおすすめします。
株式の相続放棄はできる?基本の考え方

結論からお伝えすると、被相続人が経営していた会社の株式であっても、ほかの遺産と同様に相続放棄をすることができる場合があります。 株式だからといって、特別な手続きが必要になるわけではありません。 ただし、相続放棄には独特の性質があり、株式だけを選んで放棄するといったことはできない点に注意が必要です。 ここでは、株式の相続放棄を検討するうえで、まず押さえておきたい基本的な考え方を整理していきます。
被相続人の会社(株式)も相続放棄の対象になる場合がある
被相続人が会社を経営していた場合でも、相続の対象となるのは、原則として被相続人が保有していた会社の株式そのものであるとされています。 事業そのものを相続するというよりも、株式という「財産権」を相続するとイメージすると、わかりやすいかもしれません。 そのため、株式についても、預貯金や不動産といったほかの遺産と同じように、相続放棄の対象に含めることができる場合があります。 ここで気をつけたいのが、株式以外にも被相続人と会社との間に、貸し借りの関係が存在するケースです。 たとえば、被相続人が会社にお金を貸し付けていた場合や、逆に会社から借り入れをしていた場合には、これらの債権・債務も相続財産に含まれる可能性があります。 また、会社が金融機関から融資を受ける際に、被相続人が連帯保証人になっていたようなケースでは、その保証債務についても、相続の対象になり得ると考えられています。 つまり、株式単体だけを見るのではなく、被相続人と会社との間にある財産関係全体を確認することが、相続放棄を検討するうえでの出発点になります。
代表取締役などの地位は引き継がれない場合が多い
株式の相続について誤解されやすいポイントとして、「株式を相続すると、経営者としての地位も自動的に引き継ぐことになるのではないか」という不安があります。 しかし、相続によって承継されるのは、あくまで株主としての地位であり、代表取締役などの役員としての地位が当然に引き継がれるわけではないとされています。 役員の地位は、会社と個人との間の委任契約に基づくものであるため、被相続人の死亡によって、原則として終了すると考えられています。 そのため、株式を相続したからといって、いきなり経営を強制されるリスクは比較的低いといえるでしょう。 一方で、株式を保有する株主として、株主総会での議決権行使や、経営陣の選任といった場面に関与を求められる可能性は残ります。 経営に関心がなく、関わりたくないという事情がある場合には、この点も含めて相続放棄をするかどうかを検討する必要があるでしょう。
相続の対象になる財産・ならない財産
相続放棄を判断するうえでは、そもそもどのような財産が相続の対象になるのかを把握しておくことが欠かせません。 株式に関連する相続では、プラスの財産とマイナスの財産の両方が存在するケースが多く見られます。 以下の表に、代表的な財産の例を整理しました。
| 区分 | 財産の例 |
|---|---|
| プラスの財産 | 被相続人が保有していた株式、被相続人から会社への貸付金、被相続人が所有し会社に貸している不動産など |
| マイナスの財産 | 被相続人が会社から借り入れたお金、会社の借入に対する連帯保証債務など |
このように、株式そのものだけでなく、周辺にある債権・債務まで含めて確認することが、適切な判断につながります。
プラスの財産の例
プラスの財産としては、まず被相続人が保有していた株式そのものの評価額が挙げられます。 これに加えて、被相続人が会社に対してお金を貸し付けていた場合の貸付金債権も、プラスの財産に該当すると考えられています。 また、被相続人個人が所有する不動産を、会社に賃貸していたようなケースでは、その不動産自体もプラスの財産として扱われる場合があります。 中小企業や同族会社では、経営者個人の資産と会社の資産が、密接に絡み合っていることが少なくありません。 そのため、株式だけでなく、これらの関連財産も含めて漏れなく把握しておくことが大切です。
マイナスの財産の例
マイナスの財産としては、被相続人が会社から個人的に借り入れていたお金が代表的な例として挙げられます。 そしてもう一つ、見落とされがちなのが、会社の借入金に対する連帯保証債務です。 中小企業のオーナー経営者は、金融機関から融資を受ける際に、会社の代表者個人が連帯保証人になっているケースが多いとされています。 この連帯保証債務は、外部からは把握しづらく、相続人自身も気づかないまま相続してしまう可能性がある点に注意が必要です。 そのため、株式の相続放棄を検討する際には、株式の価値だけでなく、こうした保証債務の有無まで含めて調査することが推奨されます。
非上場株式を相続することで起こりうる問題

株式の相続放棄を考えるきっかけとして多いのが、相続する株式が非上場株式であるという事情です。 上場株式であれば、証券取引所を通じて比較的容易に売却できますが、非上場株式にはそれとは異なる特有の難しさがあります。 ここでは、非上場株式を相続することで、どのような問題が起こり得るのかを見ていきましょう。
市場価格がわからず売却が難しい場合がある
非上場株式は、その名のとおり証券取引所に上場されていない株式を指します。 日本の株式会社の大多数は、実はこの非上場株式にあたるとされており、特に中小企業や同族会社では、経営者が自社の株式の大半、あるいはすべてを保有しているケースも珍しくありません。 非上場株式には、上場株式のような公開の取引市場が存在しないため、そもそも「時価」というものが明確に定まっていないという特徴があります。 株主総会での議決権行使など、経営に関わる権利は認められているものの、多くの投資家にとっては、経営への関与自体にメリットを感じにくいため、買い手がなかなか現れないという事情もあります。 その結果、いざ株式を売却しようとしても、買い取ってくれる相手を見つけること自体が難しいという状況に陥りやすいのです。 経営に関与する意思がなく、換金することも難しい株式を相続することは、相続人にとって大きな負担になり得ると考えられています。
多額の相続税が課される可能性がある
非上場株式は市場価格が存在しないため、相続税を計算する際には、専門的な評価方法によって株式の価額を算定する必要があるとされています。 この評価には、国税庁の財産評価基本通達に基づき、会社の規模に応じて類似業種比準方式(大会社を中心に採用)や純資産価額方式(小会社を中心に採用)、あるいはこれらの併用方式といった手法が用いられることが一般的です。 会社の業績や保有資産の状況によっては、この評価額が想像以上に高額になるケースも見られます。 評価額が高くなれば、それに応じて相続税の負担も重くなる可能性があるという点に、注意が必要です。 さらに見落とされがちなのが、株式を売却して現金化できた場合であっても、その売却益(譲渡所得)に対して所得税と住民税が課される場合があるという点です。 つまり、非上場株式を相続して売却まで至った場合には、相続税に加えて、譲渡益に対する所得税・住民税という二重の税負担が生じる可能性がある点も、あらかじめ理解しておきたいポイントといえるでしょう。 正確な税額の見通しについては、個別の状況によって大きく異なるため、税理士に相談しながら試算することをおすすめします。
特定の評価会社に該当する場合の評価方法
会社の資産の中に占める株式等の割合が高い会社は、「株式保有特定会社」に該当する場合があるとされています。 この判定は、会社規模に応じて設定された、株式等の保有割合の基準に基づいて行われるとされています。 株式保有特定会社に該当すると判定された場合、原則として、類似業種比準方式を用いることができなくなるとされています。 その代わりに、次の2つの方法のいずれかを選択して評価することになるとされています。
- 純資産価額方式によって評価する方法
- 「S1+S2方式」と呼ばれる、簡易的な評価方法を用いる方法
純資産価額方式によって評価する方法は、会社を仮に清算した場合に、株主にいくら戻ってくるかという考え方に基づいて株式の価額を算定する方法とされています。 具体的には、課税時期において会社が保有する各資産を、財産評価基本通達の定めに従って評価し直したうえで、その評価額の合計額から負債の合計額を差し引きます。 さらに、相続税評価額による純資産価額と、帳簿価額による純資産価額との間に生じる評価差額に対する法人税額等相当額を控除し、最終的に発行済株式総数で割ることで、1株当たりの評価額が算出されるとされています。 株式保有特定会社に該当した場合、原則としてこの純資産価額方式がそのまま適用されることになりますが、会社の資産構成に占める株式等の割合が高いという特性上、通常の評価会社よりも評価額が高く算出されやすい傾向があるとされています。 これは、時価をベースに評価する純資産価額方式が、簿価をベースに評価する類似業種比準方式と比べて、一般的に評価額が高くなりやすいという特徴によるものと考えられています。 なお、株式を取得した相続人とその同族関係者の議決権割合の合計が一定の基準以下である場合には、通常の計算方法により算出した純資産価額に対して、一定の割合を乗じて評価額を軽減できる場合があるとされています。
S1+S2方式は、会社の財産を「株式等」と「それ以外の財産」に分けて、それぞれを別々に評価したうえで合算する、という考え方に基づく方法だとされています。 「S1」は株式等と受取配当金を除いた部分を原則的評価方式で評価した金額、「S2」は株式等の相続税評価額から一定の評価差額を控除した金額を指すとされています。 株式保有割合の高い持株会社などでは、この特定会社の判定に該当するケースが少なくないとされているため、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。
どちらの方式を選択すべきかは、会社の資産構成や株式等の保有割合によって異なるため、個別の判断については税理士に相談することをおすすめします。
譲渡制限付株式は自由に売却できないことがある
中小企業や同族会社の多くは、定款において株式に譲渡制限を設けているとされています。 譲渡制限株式とは、株式を第三者に譲渡する際に、会社の承認を必要とする株式のことをいいます。 これは、会社にとって好ましくない人物が、経営に関与してくることを防ぐための仕組みであると考えられています。 なお、相続のような一般承継の場合には、会社の承認がなくても株式を取得すること自体は可能とされていますが、その後に第三者へ譲渡しようとする場合には、あらためて会社の承認が必要になる場合があります。 また、会社の定款によっては、相続によって株式を取得した相続人に対し、会社側から株式を売り渡すよう請求できる仕組みが定められていることもあります。 この売渡請求は、一般的に以下のような条件のもとで行われるとされています。
- 対象の株式が譲渡制限株式であること
- 定款に相続人等への売渡請求ができる旨の定めがあること
- 会社に買い取るための十分な分配可能額があること
- 会社が相続の事実を知った日から、1年以内に請求が行われること
このように、非上場株式は自由な意思だけで売却できるとは限らないという制約を抱えているケースがあることも、理解しておく必要があるでしょう。
株式の相続放棄をするか判断するときのポイント

非上場株式が絡む相続では、感情的な判断だけでなく、財産状況を客観的に見極めることが特に重要になります。 ここでは、相続放棄をするかどうかを判断するうえで、確認しておきたい主なポイントを解説します。
相続放棄が向いているとされるケース
一般的に、次のような事情がある場合には、相続放棄が選択肢として検討されやすいとされています。
- マイナスの財産が、プラスの財産を明らかに上回っている場合
- 特定の相続人に、財産を集中させたいと考えている場合
- 会社経営や、ほかの相続人との関わりを避けたいと考えている場合
たとえば、被相続人が経営していた会社の業績が思わしくなく、多額の負債を抱えていたようなケースでは、株式を相続することでかえって負担が増えてしまう可能性もあります。 また、相続放棄の手続きは、相続人がそれぞれ単独で進められるとされているため、「ほかの相続人と話し合いを重ねたくない」という事情から選ばれることもあるようです。 ただし、これらはあくまで一般的な傾向であり、実際に相続放棄が適しているかどうかは、個別の財産状況によって異なります。 判断に迷う場合には、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
プラスとマイナスの財産を調査する
相続放棄をするかどうかを判断するうえで、欠かせないのが相続財産の調査です。 株式の評価額だけでなく、預貯金、不動産、借入金など、被相続人が有していたすべての財産を洗い出す作業が必要になります。 特に非上場株式が絡む相続では、株式そのものの評価だけでなく、会社との間にある貸付金や保証債務まで確認する必要がある点が、通常の相続よりも複雑になりやすい要因といえるでしょう。 財産調査には一定の時間がかかることも多いため、後述する3ヵ月という期限を意識しながら、早め早めに着手することが望ましいとされています。
非上場株式は評価額の把握が難しい
非上場株式は市場価格が存在しないため、相続人自身がその価値を正確に把握することは、簡単ではないとされています。 評価額を求めるためには、専門的な会計知識や、会社の財務資料を踏まえた分析が必要になる場合が多く、個人で対応するには限界があるケースも少なくありません。 「株式の価値がプラスなのか、マイナスなのかすらわからない」という状態のまま、期限が近づいてしまうことも起こり得ます。 このような場合には、税理士や公認会計士といった専門家に評価を依頼することが、適切な判断につながる一つの方法として考えられます。
連帯保証債務の有無を確認する
株式の相続放棄を検討する際に、見落とされがちなのが、被相続人が負っていたかもしれない連帯保証債務の存在です。 中小企業のオーナー経営者は、会社が金融機関から融資を受ける際に、個人として保証人になっているケースが多く見られます。 この保証債務は、契約書などの資料が見つからなければ、相続人が把握することが難しい性質のものです。 そのため、被相続人が取引していたと思われる金融機関に対して、直接確認を取るなどの調査が必要になる場合があります。 連帯保証債務の存在に気づかないまま相続放棄の判断をしてしまうと、後になって想定外の負担が発覚するリスクも考えられるため、慎重な調査を心がけることが大切です。
株式を相続放棄する際の大まかな流れ|5ステップ

株式を含めた財産の相続放棄をする場合、基本的には次のような流れで手続きを進めていくことになります。 ここでは、一般的な相続放棄の5つのステップを、順を追って解説します。
1.相続放棄をするかどうかを決める
最初のステップは、そもそも相続放棄をするかどうかを決めることです。 先ほど解説したとおり、プラスとマイナスの財産を調査し、非上場株式であれば評価額の把握や連帯保証債務の確認を行ったうえで、総合的に判断する必要があります。 この段階での判断が、その後の手続き全体を左右する重要な分かれ道になります。 迷いがある場合には、独断で決めてしまう前に、弁護士や税理士といった専門家に相談することをおすすめします。
2.必要書類を準備する
相続放棄をすると決めた場合には、家庭裁判所に提出するための書類を準備する必要があります。 相続放棄の審理は、基本的に書類に基づいて行われるとされているため、漏れのない準備が求められます。
主な必要書類
一般的に、相続放棄の申述にあたっては、次のような書類が必要になるとされています。
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票、または戸籍附票
- 相続放棄をする方の戸籍謄本
- 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
- そのほか、自身が相続人であることを証明するための戸籍謄本類
これらの書類は、市区町村役場での取得に時間がかかることもあるため、早めに準備を進めておくことが望ましいでしょう。
相続順位ごとに必要な戸籍謄本類
相続放棄をする人が、被相続人とどのような続柄にあるかによって、追加で必要となる戸籍謄本類は異なるとされています。 以下の表に、相続順位ごとの主な必要書類を整理しました。
| 相続人の立場 | 主に必要とされる戸籍謄本類 |
|---|---|
| 第1順位相続人の代襲相続人(孫やひ孫など) | 本来の相続人の死亡の記載がある戸籍謄本類 |
| 第2順位相続人(親や祖父母など) | 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本類、死亡した子がいる場合はその子の戸籍謄本類など |
| 第3順位相続人(兄弟姉妹など) | 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本類、親や祖父母の死亡がわかる戸籍謄本類など |
自分がどの立場にあたるのかによって、収集すべき書類の範囲が変わってくるため、事前に確認しておくことが大切です。
3.家庭裁判所へ相続放棄の申述をする
必要書類が揃ったら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、申述書類を提出します。 ここでいう「最後の住所地」とは、被相続人の住民票の除票や戸籍附票の最後に記載されている住所を指すとされています。 管轄の家庭裁判所がどこになるかは、裁判所のウェブサイトなどで確認することができます。
4.届いた照会書に記入して返送する
申述が受け付けられると、一般的な目安として、10日程度で家庭裁判所から照会書が届くケースが多いとされていますが、これは裁判所や個別の事案によって前後します。 この照会書は、申述人が本当に自分の意思で相続放棄をしようとしているか、また、単純承認とみなされるような行為をしていないかを確認するために送付されるものです。 記入内容によっては、相続放棄が認められない可能性も出てくるため、どのように答えればよいかわからない場合には、専門家に相談することをおすすめします。 記入が終わったら、期限内に家庭裁判所へ返送します。
5.相続放棄申述受理通知書を受け取る
照会書の内容に問題がないと家庭裁判所が判断すると、相続放棄が認められ、一般的な目安として10日ほどで相続放棄申述受理通知書が届くとされていますが、こちらも案件ごとに前後する場合があります。 この通知書は、相続放棄をしたことを証明する大切な書類であるため、大切に保管しておく必要があります。 万が一紛失してしまった場合には、家庭裁判所に申請することで、「相続放棄申述受理証明書」を発行してもらえる場合があります。 債権者や金融機関から証明を求められることもあるため、必要に応じて取得しておくとよいでしょう。
株式を相続放棄するメリット・デメリット

相続放棄を検討するうえでは、そのメリットとデメリットの両方を把握しておくことが欠かせません。 ここでは、株式を相続放棄した場合に考えられる主なメリットとデメリットを整理します。
メリット|会社の面倒事や負債を引き継がずに済む場合がある
相続放棄をする主なメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
- 遺産分割協議に参加する必要がなくなる場合がある
- 会社の経営に関する面倒事に巻き込まれにくくなる
- 被相続人個人の負債を、相続せずに済む可能性がある
相続放棄が認められると、その相続人は最初から相続人ではなかったものとみなされるとされています。 そのため、遺産分割協議に参加する必要がなくなり、それに伴う相続人同士のトラブルに巻き込まれる心配も少なくなると考えられます。 また、経営に関わりたくないという事情がある場合には、株式を含めた財産を放棄することで、会社の面倒事から距離を置きやすくなる場合があります。 さらに、被相続人に借金などの負債があった場合、相続放棄をすることで、その負債を引き継がずに済む可能性があるという点も、大きなメリットといえるでしょう。
デメリット|プラスの財産も受け取れず撤回もできない
一方で、相続放棄には次のようなデメリットも存在するとされています。
- マイナスの財産だけでなく、プラスの財産も受け取れなくなる
- 一度家庭裁判所に受理されると、撤回することができない
- ほかの親族に、事情によっては負担をかける可能性がある
相続放棄は、マイナスの財産だけを選んで放棄する制度ではなく、プラスの財産についても相続する権利を失うことになるとされています。 そのため、あとから想定外の資産が見つかったとしても、原則として相続することはできません。 また、相続放棄は民法919条により、一度受理されると撤回できないと定められています。 慎重な検討をせずに手続きを進めてしまうと、後悔につながる可能性もあるため、注意が必要です。 さらに、自分が相続放棄をすることで、次の順位の相続人に相続権が移ることになります。 次順位の方に、あらかじめ事情を伝えておくことが、親族間のトラブルを避けるうえで望ましいとされています。
株式を相続放棄する場合の注意点

相続放棄には、期限や行動面でのルールが存在します。 ここでは、株式を相続放棄する際に、特に気をつけておきたい注意点を解説します。
相続放棄には3ヵ月の期限がある
相続放棄の申述には、民法915条により、原則として3ヵ月という期限が定められています。 この3ヵ月は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算されるとされており、必ずしも被相続人の死亡日そのものが起点になるわけではありません。 たとえば、疎遠だった親族の死亡を後から知ったようなケースでは、その事実を知った時点から3ヵ月がカウントされる場合があります。 この期間のことを「熟慮期間」と呼び、期間内に相続放棄や限定承認の手続きをしなかった場合には、単純承認をしたものとみなされるとされています。 どうしても期限内に判断ができない事情がある場合には、家庭裁判所に対して期間の伸長を申し立てることで、延長が認められる可能性もあります。 ただし、伸長が認められるには、財産調査に時間がかかっているといった正当な理由が必要とされており、「忙しくて手続きができなかった」といった理由だけでは認められにくいとされています。
相続財産を処分すると相続放棄できなくなる場合がある
相続放棄を検討している間は、相続財産に手をつけないよう注意が必要です。 民法921条により、相続財産を処分するなど一定の行為をした場合には、単純承認をしたものとみなされるとされており、その後の相続放棄ができなくなってしまう可能性があります。 単純承認とみなされ得る行為の例としては、次のようなものが挙げられます。
- 相続財産を売却した
- 相続財産を廃棄した
- 被相続人の借金を、相続財産から返済した
株式についても同様で、たとえば相続放棄を検討している段階で、勝手に株主総会での議決権を行使してしまうと、財産を「処分」したとみなされるリスクがあると考えられています(実際に、被相続人が保有していた株式の議決権を行使して取締役を選任した行為が、相続財産の処分にあたると判断された裁判例もあります)。 相続放棄をするかどうか迷っている間は、こうした行為を控えることが望ましいでしょう。
相続放棄後も一定の財産管理責任が残る場合がある
相続放棄をすれば、すべての責任から完全に解放されると考えている方もいるかもしれませんが、実はそうとは限りません。 民法940条により、相続放棄をした時点で相続財産を現に占有していた場合には、次の相続人や相続財産清算人に財産を引き渡すまでの間、一定の管理責任を負うとされています。 たとえば、被相続人と同居していた相続人が株券や関連書類を保管していたようなケースでは、放棄後もそれらを適切に保存しておく義務が生じる場合があります。 一方で、遠方に住んでいて財産の管理に一切関わっていなかった相続人については、この管理責任を負わない場合があるとされています。 自分が該当するかどうか判断に迷う場合には、専門家に確認することをおすすめします。
葬儀費用の取り扱いには注意が必要
相続放棄を予定している場合、相続財産から支出をすることに、慎重になる方も多いようです。 特に多いのが、葬儀費用を被相続人の預金から支払ってよいのかという疑問です。 一般的に、葬儀費用の支払いが、社会通念上相当な範囲内であれば、単純承認には該当しないとされています。 葬儀を執り行うこと自体は社会的に必要な行為であり、その費用負担についても一定の裁量が認められると考えられているためです。 ただし、その金額が社会通念に照らして著しく高額である場合には、単純承認とみなされる可能性があるとされているため、注意が必要です。 不安がある場合には、相続財産からの支出はいったん控え、いったん自分の財産から立て替えたうえで、領収書を保管しておき、後日専門家に相談する方法が無難とされています。
非上場株式ならではの落とし穴|相続放棄後も関与を求められる場合がある

ここまで、相続放棄全般に関する注意点を解説してきましたが、非上場株式には、さらに独特の落とし穴が存在する場合があるとされています。 「相続放棄をすれば、株式に関して一切関係がなくなる」と考えるのは、少し危険かもしれません。 非上場株式は、流動性や名義の問題から、放棄した後にも関与を求められる場面があるとされています。 ここでは、実務上よく指摘される非上場株式特有のトラブルパターンを紹介します。
株主名簿の書き換えが済んでいないと会社側の対応に影響する場合がある
相続によって株式を取得した場合、法律上は、相続の開始と同時に相続人が株主としての地位を承継すると考えられています。 一方で、会社が保有している株主名簿の名義書き換えが済んでいない場合には、会社側の記録上は、亡くなった被相続人の名義のままになっているケースがあります。 このため、相続放棄をして株主ではなくなったにもかかわらず、会社の名簿上の整理が追いついておらず、株主総会の招集通知や、配当金の支払い案内などが届いてしまう場合があるとされています。 これはあくまで会社側の名簿管理上の問題であり、放棄した株主としての地位そのものが復活するわけではありませんが、実務上は煩わしい対応を求められる場合があるという点で、知っておく価値のある落とし穴といえるでしょう。
相続放棄したのに会社から連絡が来るケース
実務上のトラブル事例として紹介されることが多いのが、相続放棄をしたにもかかわらず、会社から連絡が来続けるケースです。 株主名簿の更新がなされないまま、会社から定期的に通知が届き、相続人としては「放棄したはずなのに、なぜ連絡が来るのか」と困惑してしまう状況です。 会社側としても、株主が誰であるかを正確に把握できないことで、経営上の意思決定に支障をきたす可能性があります。 このような場合には、相続放棄をした事実を会社に伝えたうえで、名義の整理に協力する形で対応することが、望ましい進め方の一つとされています。
次順位の相続人が音信不通で手続きが滞るケース
相続放棄をすると、相続権は次の順位の相続人へと移っていくとされています。 しかし、次順位にあたる相続人が、疎遠になっていたり、行方がわからなかったりするケースでは、手続き自体が滞ってしまう場合があるという問題が起こり得ます。 会社としても、名義書き換えの相手が確定できないため、株式の譲渡や増資といった手続きに支障が出ることがあるようです。 このような事態を避けるためには、相続放棄をする前に、できる限り次順位の相続人へ事情を伝えておくことが望ましいと考えられます。
債務超過会社の株式が宙に浮くケース
被相続人が経営していた会社が、実質的に債務超過の状態にあった場合、相続人全員が株式の相続を望まず、順に相続放棄をしていくケースも見られます。 この場合、最終的には誰も株式を引き受けない状態になり、株式が「宙に浮いた」まま、時間だけが経過してしまうことがあるとされています。 会社側にとっても、株主が確定しないことで、清算手続きなどが難航する要因になり得ます。 こうした事態が想定される場合には、早い段階で専門家に相談し、対応の方針を検討しておくことが望ましいでしょう。
相続人が誰もいない場合、相続財産清算人が選任され最終的に国庫へ帰属する場合がある
相続人全員が相続放棄をした結果、法律上、相続人が誰もいない状態になることがあります。 このような場合には、被相続人の債権者や特別縁故者といった利害関係者の申立てにより、家庭裁判所が相続財産清算人を選任する制度が用意されています。 なお、この制度は2023年4月1日に施行された改正民法により、従来「相続財産管理人」と呼ばれていたものが、「相続財産清算人」という名称に変更されたものです。 相続財産清算人は、相続財産の管理や処分を行い、債権者や受遺者への弁済、特別縁故者への財産分与といった手続きを進める役割を担うとされています。 これらの手続きを経てもなお財産が残った場合には、最終的に国庫に帰属するという流れになります。 株式についても、この一連の流れの中で処理されることになるため、相続人全員が放棄を選択した場合には、こうした手続きが必要になる可能性があることを理解しておくとよいでしょう。
株式を相続したくない場合の相続放棄以外の選択肢

株式を手放したいと考えたとき、必ずしも相続放棄だけが選択肢というわけではありません。 相続放棄には「すべての財産を放棄しなければならない」という制約があるため、状況によっては、ほかの方法のほうが適している場合もあります。
会社や第三者に株式を買い取ってもらう(会社への売渡請求の仕組み)
株式のみを手放したいと考える場合、まず検討されるのが、会社や第三者に株式を買い取ってもらう方法です。 先ほど触れたとおり、会社の定款に定めがあれば、相続によって株式を取得した相続人に対して、会社側から売渡請求を行う仕組みが存在します。 一方で、相続人側から会社に対して、株式の買い取りを打診することも可能とされています。 会社にとって好ましい相続人であれば、そのまま株式を保有し続けてもらいたいと考える場合もあるため、必ずしも買い取りに応じてもらえるとは限りませんが、相談してみる価値はあるでしょう。 また、会社以外の第三者や、M&Aを専門に扱う仲介業者などに相談し、買い手を探すという方法も選択肢の一つとして考えられます。
生前に株式を整理しておく
相続が発生してから対応を考えるのではなく、被相続人が存命のうちに、株式を整理しておく方法も有効とされています。 たとえば、株式を売却しておく、会社に買い取ってもらう、あるいは従業員持株会などに移転しておくといった対応が考えられます。 生前に整理を済ませておくことで、相続発生後に相続人が頭を悩ませる場面を減らせる可能性があります。 経営者自身が、将来の相続を見据えて早めに対策を検討しておくことは、相続人にとっても大きな安心材料になるといえるでしょう。
遺言書で承継先を指定しておく
もう一つの方法として、遺言書によって、株式の承継先をあらかじめ指定しておくことが挙げられます。 「この株式は、後継者である長男に相続させる」といった形で遺言書に明記しておけば、相続開始後の手続きがスムーズに進みやすくなるとされています。 承継先が明確になっていれば、株式が誰にも引き受けられずに宙に浮いてしまうリスクや、相続放棄によって思わぬ相手に株式が渡ってしまうリスクを、低減できる可能性があります。 経営の安定性を重視する場合には、遺言書の活用も含めて、早い段階から専門家と相談しながら準備を進めることが望ましいでしょう。
株式の相続放棄に関するよくある質問

最後に、株式の相続放棄に関して、特によく寄せられる質問とその考え方を紹介します。
相続人全員が相続放棄した場合、会社はどうなる?
通常であれば、株式を相続した人が後継となる代表取締役を選任することになりますが、相続人全員が相続放棄をしてしまうと、後継者を選任できる人がいなくなるとされています。 この場合、会社は事実上、休眠状態に近い状況になってしまう可能性があります。 廃業の手続きを進める人もいなくなるため、そのまま長期間放置され、最後の登記から12年が経過した段階で、法務局によって解散登記がされる「みなし解散」に至るケースもあるとされています。
相続した会社だけを放棄することはできる?
結論として、特定の遺産のみを選んで相続放棄することはできないとされています。 相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産も含めて、すべての遺産を一括して放棄する制度だからです。 どうしても取得したい財産があるものの、会社の株式だけは手放したいという場合には、いったん相続したうえで、前述した売渡請求や第三者への売却といった方法によって、株式のみを処分することを検討する必要があるでしょう。
被相続人が個人事業をしていた場合は?
被相続人が株式会社ではなく、個人事業を営んでいた場合には、事業用の財産も個人の財産と同様に、すべて相続の対象になるとされています。 この場合であっても、相続放棄をするために特別な手続きが必要になるわけではなく、通常どおりの相続放棄の申述を行うことになります。
相続放棄後に株主総会へ参加する必要はある?
相続放棄をした人は、遺産に含まれていた株式について、議決権を行使する立場ではなくなるとされています。 もし、放棄後に議決権を行使してしまうと、相続財産を「処分」した、あるいは自分のものとする意思表示をしたとみなされ、単純承認をしたと判断されるリスクがあると考えられています。 相続放棄をした場合には、株主総会への参加や議決権行使は控え、必要な手続きについては、次順位の相続人や相続財産清算人に委ねる形が望ましいとされています。
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まとめ|株式の相続放棄は非上場株式特有のリスクまで見据えて判断を
ここまで、株式の相続放棄について、基本的な考え方から手続きの流れ、メリット・デメリット、そして非上場株式ならではの落とし穴まで解説してきました。 株式の相続放棄自体は、それほど複雑な手続きではないとされていますが、放棄すればすべての財産についての相続権を失うことになり、後から撤回することもできません。 特に非上場株式が関わる相続では、評価額の把握が難しいこと、譲渡制限による制約があること、そして放棄後にも株主名簿の整理や次順位相続人とのやり取りといった独特のトラブルが起こり得ることを、あらかじめ理解しておくことが大切です。 後悔のない選択をするためにも、相続放棄をするべきかどうか、あるいは売渡請求や生前整理といったほかの選択肢を検討すべきかを、財産状況を丁寧に調査したうえで判断することをおすすめします。 判断に迷う点や、連帯保証債務、非上場株式の評価額といった専門的な調査が必要な場面では、一人で抱え込まず、専門家に早めに相談することが、後悔のない相続につながる第一歩になるでしょう。

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