非上場株式を相続した場合、相続税の計算にあたってまず直面するのが「株式の評価」という問題です。 上場株式であれば市場価格がそのまま評価額になりますが、非上場株式には取引相場がないため、一定のルールにしたがって評価額を算出する必要があります。 その評価方法のひとつが、本記事で解説する「純資産価額方式」です。
純資産価額方式は、会社の保有する資産と負債を時価に置き換え、仮に会社を解散した場合に株主へ返ってくる金額をもとに株式の価値を算定する方法です。 中小企業や同族会社のオーナーが亡くなった際に特に重要となる評価方式で、計算の考え方を正しく理解しておくことが、適正な相続税申告につながります。
本記事では、純資産価額方式の基本的な考え方から計算式の仕組み、資産・負債の科目別の取り扱い、評価時点や特定の評価会社への適用まで、一般的な制度として体系的に解説します。 なお、個別の評価額や税額の計算・申告については、必ず税理士にご相談ください。
純資産価額方式とは

純資産価額方式の基本的な考え方
純資産価額方式とは、評価会社の資産と負債を相続税評価額(時価)に置き換えて純資産を算出し、それをもとに1株当たりの評価額を求める方法です。 財産評価基本通達185条および186条の2に定められており、取引相場のない株式(非上場株式)の評価において広く用いられています。
この方式の根本にある考え方は、「もし課税時期(相続開始日など)に会社を解散・清算したとしたら、株主の手元にいくら返ってくるか」というものです。 会社を解散する際には、保有するすべての資産を売却して現金化し、借入金などの負債を返済したうえで、残った財産を株主に分配します。 この「株主に返ってくる金額」を株式の評価額の基礎とするのが、純資産価額方式の基本的な発想です。
帳簿上の数字(会計上の帳簿価額)ではなく、相続税法の定めにしたがって評価した時価を用いる点が重要です。 たとえば土地であれば路線価方式や倍率方式、建物であれば固定資産税評価額といった基準で時価を算出し、帳簿価額との差額(含み損益)を反映させます。 こうすることで、会社の実態に近い価値をもとに株式を評価できる仕組みになっています。
他の評価方式との位置づけ
非上場株式の評価方法には、純資産価額方式のほかにもいくつかの方式があります。 評価方式を正しく選択するためには、それぞれの方式の特徴と違いを理解しておくことが大切です。 ここでは、代表的な評価方式と純資産価額方式の位置づけを整理します。
類似業種比準価額方式との違い
類似業種比準価額方式は、評価会社と事業内容が類似する上場会社の株価を参考にしながら、評価会社の配当金額・利益金額・純資産価額(帳簿価額)の3つの要素を比較して株価を算定する方法です。 上場会社の株価を基準とするため、会社の収益力や規模が反映されやすい点が特徴です。
純資産価額方式との主な違いは以下の通りです。
| 比較項目 | 純資産価額方式 | 類似業種比準価額方式 |
|---|---|---|
| 評価の基準 | 会社の資産・負債の時価(清算価値) | 類似上場会社の株価 |
| 主な着眼点 | 貸借対照表(ストック) | 配当・利益・純資産(フロー+ストック) |
| 適用されやすい会社規模 | 小会社・中会社 | 大会社・中会社 |
| 評価額の傾向 | 含み益が大きい会社ほど高くなりやすい | 利益が少ない会社ほど低くなりやすい |
| 計算の基準日 | 原則として課税時期(仮決算) | 直前期末 |
一般的に、類似業種比準価額方式で計算した株価のほうが純資産価額方式より低くなるケースが多いとされています。 これは、類似業種比準価額方式が上場会社の株価を参考にするため、市場での評価が割安に反映されやすいためです。 相続税・贈与税の計算では評価額が低いほど税負担が小さくなるため、適用できる場面では類似業種比準価額方式のほうが有利になる場合があります。
会社規模に応じた評価方式の選択
財産評価基本通達では、評価会社を「従業員数」「総資産価額(帳簿価額)」「取引金額(売上高)」の3要素によって、大会社・中会社(大・中・小)・小会社の5段階に分類しています。 会社規模の区分に応じて、適用できる評価方式の組み合わせが異なります。
| 会社規模 | 適用される評価方式 |
|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準価額方式(純資産価額方式との選択も可) |
| 中会社(大・中・小) | 類似業種比準価額方式と純資産価額方式の併用方式(純資産価額方式との選択も可) |
| 小会社 | 純資産価額方式(類似業種比準価額方式との併用との選択も可) |
小会社は原則として純資産価額方式が適用されます。 中会社については、会社規模に応じたLの割合(0.50・0.60・0.75)にしたがい、類似業種比準価額方式と純資産価額方式を組み合わせた「併用方式」が使われます。 なお後述する特定の評価会社(土地保有特定会社・株式等保有特定会社など)に該当する場合は、会社規模にかかわらず原則として純資産価額方式が強制適用される場合があります。
純資産価額方式が用いられる主なケース
純資産価額方式が実務上よく登場するケースとしては、以下のような場面が挙げられます。
- 小会社に該当する評価会社の株式を相続・贈与する場合
- 土地や建物などの不動産を多く保有し、含み益が大きい会社の株式を評価する場合
- 株式等保有特定会社・土地保有特定会社などの特定の評価会社に該当する場合
- 開業後3年未満の会社や比準要素数が0の会社など、類似業種比準価額方式が使えない特定の評価会社に該当する場合
- 大会社・中会社であっても、納税者の選択により純資産価額方式を選ぶ場合
純資産価額方式は、会社の保有資産の実態を色濃く反映する評価方式であるため、不動産や有価証券など含み益の大きな資産を多く抱える会社では評価額が高くなりやすい傾向があります。 どの評価方式を適用するか、またどの方式が有利かについては、会社の規模・業種・資産構成によって大きく異なります。 具体的な判断は税理士にご相談ください。
純資産価額方式の計算式と仕組み

1株当たり純資産価額の計算式
純資産価額方式による1株当たりの評価額は、財産評価基本通達185条・186条の2に基づき、以下の算式で求めます。
1株当たりの純資産価額(相続税評価額)=(課税時期の相続税評価額による総資産 - 負債の合計額 - 評価差額に対する法人税等相当額)÷ 課税時期の発行済株式数
ここでいう「評価差額に対する法人税等相当額」は次の算式で求めます。
評価差額に対する法人税等相当額 =(相続税評価額による純資産価額 - 帳簿価額による純資産価額)× 38%(令和7年12月31日以前の相続・贈与は37%)
計算のステップを整理すると、以下のようになります。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① | 課税時期における各資産を相続税評価額(時価)に置き換えて合計する |
| ② | 課税時期における負債を法人税法上の帳簿価額で合計する |
| ③ | ①から②を差し引いて「相続税評価額による純資産価額」を求める |
| ④ | 帳簿価額ベースでも同様に純資産価額を求める |
| ⑤ | ③から④を差し引いた評価差額(含み益)に38%(令和7年12月31日以前は37%)を乗じて法人税等相当額を求める |
| ⑥ | ③から⑤を差し引いた金額を、課税時期の発行済株式数(自己株式控除後)で割る |
なお、発行済株式数は課税時期における実際の株式数(自己株式を控除したもの)を使用します。 類似業種比準価額方式で用いる「1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の発行済株式数」とは異なる点に注意が必要です。
「会社を解散した場合」という考え方で理解する
純資産価額方式の仕組みをより直感的に理解するために、「会社を解散した場合」のプロセスを順番に追ってみましょう。
まず、会社を解散する際には保有するすべての資産を売却し、現金を用意します。 このとき、帳簿上の金額(取得原価)ではなく、実際に売却できる金額(時価)で現金化することになります。 土地であれば路線価ベースの相続税評価額、建物であれば固定資産税評価額といった基準が目安になります。
次に、銀行への借入金や未払金などの負債を返済します。 お金を借りたまま会社を解散することはできないため、まず債権者への返済が優先されます。
そのうえで、資産の売却によって帳簿価額を上回る利益(含み益)が生じた場合には、その利益に対して法人税等が課されます。 会社が解散・清算する過程であっても、売却益には法人税等が課税されるため、この税負担分を差し引く必要があります。 これが「評価差額に対する法人税等相当額(38%または37%控除)」の考え方です。
最終的に、資産の売却代金から負債の返済額と法人税等の納税額を差し引いた残りが、株主に分配される金額となります。 この「株主に最終的に返ってくる金額」が、純資産価額方式による株式の評価額の基礎になります。
具体的な数値例で確認してみましょう(あくまで一般的な計算例であり、実際の評価額は個別の状況によって異なります)。
- 相続税評価額による総資産:8,000万円
- 帳簿価額による総資産:6,000万円
- 負債の合計額:2,000万円
- 相続税評価額による純資産価額:6,000万円(8,000万円 - 2,000万円)
- 帳簿価額による純資産価額:4,000万円(6,000万円 - 2,000万円)
- 評価差額:2,000万円(6,000万円 - 4,000万円)
- 法人税等相当額:760万円(2,000万円 × 38%)
- 控除後純資産価額:5,240万円(6,000万円 - 760万円)
- 発行済株式数:1,000株
- 1株当たり純資産価額:52,400円(5,240万円 ÷ 1,000株)
評価差額に対する法人税等相当額(38%控除・37%控除)とは
評価差額に対する法人税等相当額とは、相続税評価額による純資産価額と帳簿価額による純資産価額の差額(含み益)に一定の税率を乗じた金額のことです。 実務では「38%控除」または「37%控除」と呼ばれることがあり、純資産価額方式の計算において非常に重要な要素となります。
控除が認められている理由(二重課税の調整)
この控除が設けられている理由は、相続税と法人税の二重課税を調整するためです。
個人が相続により非上場株式を取得した場合、その株式には相続税が課されます。 一方で、株主が会社の資産を実際に手にするためには、会社を解散・清算しなければなりません。 清算の過程で含み益が実現した場合には、その清算所得に対して法人税等が課されます。
つまり、含み益の部分には「相続税(株式への課税)」と「法人税等(清算所得への課税)」という二重の課税が生じる可能性があります。 この不合理な二重課税を避けるために、純資産価額方式では含み益に対する法人税等相当額をあらかじめ差し引いて評価することが認められています。
また、個人事業主が事業用資産を直接所有している場合と、法人が所有している場合とのバランスを図る意味合いもあります。 法人を通じて間接的に資産を保有している場合、清算時に法人税等が差し引かれる分だけ、個人直接保有と比べて実質的な取り分が少なくなります。 この差異を考慮して均衡を図ることが、38%(または37%)控除の趣旨です。
令和8年4月1日以後の相続・贈与における税率の変更
法人税等相当額の控除率は、法人税率等の改正に伴い変更されてきました。 適用時期ごとの控除率は以下の通りです。
| 適用時期 | 控除率 |
|---|---|
| 平成28年3月31日以前の相続・贈与 | 38% |
| 平成28年4月1日以後~令和7年12月31日以前の相続・贈与 | 37% |
| 令和8年4月1日以後の相続・贈与(現行) | 38% |
令和8年4月1日以後に発生した相続または贈与については、控除率が38%となっています。 平成28年度税制改正で38%から37%に引き下げられた後、令和8年度税制改正により再び38%に戻った形です。 課税時期がどの時点にあたるかによって適用率が異なるため、評価を行う際は最新の財産評価基本通達を確認することが重要です。 正確な控除率の適用については、税理士にご確認ください。
評価差額がマイナスとなる場合(純資産価額が0円になる場合)
純資産価額方式で計算した結果、相続税評価額による純資産価額が帳簿価額による純資産価額を下回るケース、すなわち評価差額がマイナス(含み損)になる場合は、法人税等相当額の控除は行わず、0円として取り扱います。
さらに、相続税評価額による純資産価額そのものがマイナスになる場合、つまり時価で評価した資産の合計が負債の合計を下回る「債務超過」の状態になる場合があります。 この場合、1株当たりの純資産価額は0円として評価します。 マイナスの評価額を株式に付することはないため、債務超過の会社の株式の相続税評価額は0円となります。
資産の科目別・評価上の取り扱い

相続税評価額(時価)と帳簿価額の両方を用いる理由
純資産価額方式の計算では、資産について「相続税評価額(時価)」と「帳簿価額」の両方を使います。 相続税評価額は評価差額(含み益)の算出に、帳簿価額は法人税等相当額の計算ベースとなる純資産の把握に、それぞれ必要になるためです。
ここで注意が必要なのは、帳簿価額として使うのは「会計上の帳簿価額」ではなく、「法人税法上の帳簿価額」という点です。 会計上の帳簿価額と法人税法上の帳簿価額は、税務否認や税務調整の結果として差異が生じる場合があります。 法人税法上の帳簿価額を確認するためには、法人税申告書の別表五(一)に記載された税務上の否認金額等を参照する必要があります。
相続税評価額については、財産評価基本通達の定めにしたがって各資産を評価します。 評価会社の資産は、原則として個人の事業用資産と同じ方法で評価しますが、一部に特別な取り扱いが設けられています。
土地・建物の評価方法
原則は相続税評価額(路線価方式・固定資産税評価額)
評価会社が保有する土地は、原則として路線価方式または倍率方式によって相続税評価額を求めます。 路線価が設定されている地域では路線価方式を用い、路線価のない地域では倍率方式を使うことになります。
建物については、原則として固定資産税評価額をそのまま相続税評価額として使用します。 帳簿上は取得原価から減価償却累計額を差し引いた帳簿価額で計上されていますが、評価上は固定資産税評価額に置き換える点が重要です。
これらの評価替えにより、帳簿価額と相続税評価額の間に差額(評価差額)が生じた場合、その含み益の部分が法人税等相当額の計算対象となります。
課税時期前3年以内に取得した不動産の取り扱い
課税時期(相続開始日など)の3年以内に評価会社が取得した土地および建物については、原則の相続税評価額(路線価・固定資産税評価額)ではなく、「通常の取引価額(時価)」によって評価します。
これは、取得直後であれば実際の取引価額が把握できる状況にあるため、その金額をもって評価するほうが適正だという考え方に基づいています。 なお、課税時期前3年以内に取得した借地権も同様の取り扱いを受ける場合があります。
| 取得時期 | 評価方法 |
|---|---|
| 課税時期前3年超に取得した土地 | 路線価方式または倍率方式 |
| 課税時期前3年以内に取得した土地 | 通常の取引価額(時価) |
| 課税時期前3年超に取得した建物 | 固定資産税評価額 |
| 課税時期前3年以内に取得した建物 | 通常の取引価額(時価) |
取得時期の判定は課税時期を基準として行います。 取得した不動産が3年以内かどうかの確認は、契約書や登記情報などで行うことになります。
建設仮勘定・借地権の評価
建設仮勘定とは、建物の建設中に支払った工事代金等を一時的に計上する勘定科目です。 課税時期において建設中の家屋がある場合、その家屋の「費用現価」に70%を乗じた金額を相続税評価額とします。 費用現価とは、課税時期までに投下されたすべての費用の合計額です。
借地権については、路線価をもとに「自用地評価額 × 借地権割合」で相続税評価額を求めます。 帳簿価額については、無償で取得した借地権の場合は0円として記載することになります。 なお、土地の所有者である被相続人が同族関係者である同族会社に土地を相当の地代で貸し付けている場合は、自用地評価額の20%相当額を相続税評価額として計上する取り扱いがあります。
営業権の評価が生じる場合
評価会社の帳簿に営業権が計上されていない場合でも、財産評価基本通達の定めにしたがって計算した結果、営業権の相続税評価額が生じる場合には、その金額を資産に計上します。 このとき、帳簿価額欄には0円を記載します。
営業権の評価額は、以下の算式で求めます。
超過利益金額 × 営業権の持続年数(原則10年)に応じる基準年利率による複利年金現価率
超過利益金額は次の算式で算出します。
超過利益金額 = 平均利益金額 × 0.5 - 標準企業者報酬額 - 総資産価額 × 0.05
超過利益金額がゼロ以下の場合は、営業権の評価額もゼロとなります。 営業権は見落としやすい資産のひとつであるため、計算の際は必ず確認が必要です。
前払費用・繰延資産・繰延税金資産の取り扱い
前払費用・繰延資産・繰延税金資産については、帳簿価額には計上されていても、純資産価額方式の計算上は財産的価値がないものとして相続税評価額をゼロとして取り扱います。
これらの資産は、会計上は将来の費用・収益に対応するものとして資産計上されていますが、会社を解散した際に換金できる価値を持たないと考えられるためです。
| 科目 | 相続税評価額 |
|---|---|
| 前払費用 | 0円(財産性なし) |
| 繰延資産 | 0円(財産性なし) |
| 繰延税金資産 | 0円(財産性なし) |
帳簿価額には計上されているにもかかわらず相続税評価額がゼロになるため、評価差額の計算においてマイナスの要因として働きます。 会計上の数字をそのまま流用しないよう、科目ごとの取り扱いを丁寧に確認することが大切です。
評価会社が他の非上場株式を保有している場合の注意点
評価会社が他の非上場会社の株式(取引相場のない株式)・出資・転換社債等を保有している場合、それらの評価においては評価差額に対する法人税等相当額(38%または37%控除)を適用しません。
この取り扱いの根拠は財産評価基本通達186条の3に定められており、法人税等相当額の控除は評価対象会社(親会社)の段階で1回だけ適用されるものです。 その評価会社が保有する子会社株式の評価においてさらに控除することは、二重控除になるためです。
同族会社のオーナーが複数の非上場会社を保有し、会社同士が株式を持ち合っているケースでは特に注意が必要です。 保有する子会社株式の評価計算式は以下のようになります。
1株当たり純資産価額(子会社株式)=(課税時期の総資産(相続税評価額)- 課税時期の負債)÷ 課税時期の発行済株式数 ※評価差額に対する法人税等相当額は控除しない
負債の科目別・評価上の取り扱い

負債は法人税法上の帳簿価額で計算する
純資産価額方式の計算において、負債は法人税法上の帳簿価額を用います。 資産と同様に、会計上の帳簿価額ではなく法人税法上の帳簿価額を使用する点に注意が必要です。
具体的には、法人税申告書の別表等を参照し、税務上の調整を加えた帳簿価額を確認します。 会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額が一致しない場合は、必ず税務上の数字を使用します。
計上できる負債・できない負債の区別
純資産価額方式における負債の計上にあたっては、「計上できるもの」と「計上できないもの」を正確に区別することが重要です。
確定している債務(未納公租公課・未払利息等)は計上する
課税時期において債務が確定しているものは、帳簿に計上されていない場合でも負債として計上します。 計上すべき主な債務の例は以下の通りです。
- 未納公租公課(未払の法人税・消費税・固定資産税など)
- 未払利息
- 未払費用(確定しているもの)
- 課税時期後に支払う予定の確定した退職金・弔慰金(相続税の課税価格に算入されたもの)
これらは帳簿に計上されていなくても、課税時期において債務として確定している以上、負債に含める必要があります。 「帳簿にないから計上しなくてよい」という判断は誤りで、債務の確定状況を個別に確認することが求められます。
引当金(貸倒引当金・退職給付引当金等)は計上しない
一方で、各種引当金については、財産評価基本通達186条の定めにより、債務として確定していないため負債として計上しません。
| 科目 | 負債計上の可否 |
|---|---|
| 貸倒引当金 | 計上しない(債務未確定) |
| 退職給与引当金 | 計上しない(債務未確定) |
| 賞与引当金 | 計上しない(債務未確定) |
| 納税引当金 | 計上しない(債務未確定) |
| 未払法人税等(確定申告分) | 計上する(債務確定) |
| 未払利息 | 計上する(債務確定) |
引当金は会計上の見積計上であり、課税時期において確定した債務ではないため、純資産価額方式の負債計算からは除外します。 この点は実務上の誤りが生じやすいポイントのひとつです。
帳簿外の負債にも注意が必要な場合
課税時期において確定している債務は、帳簿に計上されているかどうかにかかわらず負債として計上する必要があります。 帳簿外の負債を見落とすと純資産価額が過大に計算されてしまうため、注意が必要です。
見落としやすい帳簿外の負債の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 課税時期後に支払期限が到来する公租公課のうち、課税時期に債務が確定しているもの
- 決算後から課税時期までの間に発生した未払費用
- 被相続人の死亡退職金・弔慰金のうち、相続税の課税価格に算入されたもの
これらを漏れなく把握するためには、決算書や申告書だけでなく、契約書や支払通知書などの関連書類も確認する必要があります。
評価時点と使用する株式数について

原則は課税時期(相続開始日・贈与日)での仮決算
純資産価額方式の評価時点は、原則として課税時期です。 相続の場合は相続開始日(被相続人が亡くなった日)、贈与の場合は贈与があった日が課税時期となります。
原則として、評価会社は課税時期において仮決算を行い、その時点の資産・負債の金額をもとに株式を評価します。 これは、課税時期における会社の実態をできる限り正確に反映させるためです。
仮決算では、課税時期現在の各資産・負債の状況を確定させ、それぞれを相続税評価額または帳簿価額に置き換えて計算を行います。
直前期末・直後期末の数値が認められる場合
課税時期において仮決算を行うことが原則ですが、課税時期の前後において会社の状況に著しい変化がないと認められる場合には、直前期末または直後期末の資産・負債の数値を使用することが認められています。
実務上は、仮決算のコストや手間を考慮し、直前期末の数値を用いて評価するケースも多く見られます。
| 評価基準日 | 使用できる条件 |
|---|---|
| 課税時期(原則) | 常に使用可能 |
| 直前期末 | 課税時期との間に著しい変化がない場合 |
| 直後期末 | 課税時期との間に著しい変化がない場合 |
なお、類似業種比準価額方式は必ず直前期末の数値を使用しなければならないのに対し、純資産価額方式は上記の通り直後期末の数値も使用できる場合があります。 この評価時点の違いも、両評価方式の重要な相違点のひとつです。
発行済株式数は実際の株式数を使用する(類似業種比準価額との違い)
1株当たりの純資産価額を算出する際の分母となる発行済株式数は、課税時期における実際の発行済株式数を使用します。 自己株式を保有している場合は、発行済株式数から自己株式数を控除した数を使用します。
この点は類似業種比準価額方式と大きく異なります。 類似業種比準価額方式では「1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の発行済株式数(50円換算株式数)」を用いますが、純資産価額方式では実際の発行済株式数を使うため、混同しないよう注意が必要です。
| 評価方式 | 使用する株式数 |
|---|---|
| 純資産価額方式 | 課税時期の実際の発行済株式数(自己株式控除後) |
| 類似業種比準価額方式 | 直前期末の資本金等の額 ÷ 50円(50円換算株式数) |
議決権割合による評価額の調整(80%評価)
適用条件:取得者とその同族関係者の議決権割合が50%以下の場合
純資産価額方式によって算定した1株当たりの純資産価額は、一定の条件を満たす場合に80%相当額に減額して評価することができます。
この80%評価が適用される条件は、「株式の取得者とその同族関係者が有する議決権の合計数が、評価会社の議決権総数の50%以下である場合」です。
株式の取得者が単独で少数株主であっても、同族関係者(配偶者・直系血族・生計を一にする親族などの一定の関係者)の議決権を合算した結果50%以下となる場合に適用されます。 議決権の合計が50%以下の株主グループは、会社の経営に対する影響力が限定的であるため、その実質的な価値を考慮して評価額を調整する趣旨です。
計算式は以下の通りです。
調整後の1株当たり純資産価額 = 純資産価額方式で算出した1株当たり評価額 × 80%
50%ちょうどを含む点への注意
80%評価の適用条件である「50%以下」については、50%ちょうどの場合も含まれます。 「50%未満」ではなく「50%以下」であるため、議決権割合がちょうど50%であっても80%評価の対象となります。
この点は実務上の判断で誤りが生じやすいポイントです。 議決権割合の計算は、取得者本人だけでなく同族関係者の議決権も合計して判定する必要があります。 誰が同族関係者にあたるかの判定も含め、正確な適用判断は税理士にご確認ください。
純資産価額方式が原則適用される特定の評価会社

一般の評価会社では、会社規模に応じて類似業種比準価額方式や併用方式が選択できます。 しかし、特定の要件に該当する「特定の評価会社」については、会社規模にかかわらず原則として純資産価額方式が適用されます。 以下では、代表的な特定の評価会社の類型を解説します。
開業後3年未満の会社
課税時期において開業後3年未満の会社は、原則として純資産価額方式により株式を評価します。
開業後3年未満の会社は、まだ通常の経済活動が安定していない段階にあり、類似業種比準価額方式の計算に必要な合理的な比準要素(配当・利益・純資産)の数値を適正に把握できないためです。
ここでいう「開業」とは、評価会社がその目的とする事業活動を開始して収益が生じる状態になったことを指します。 法人登記後3年未満ではなく、実際の事業開始から3年未満である点に注意が必要です。 なお、開業前・休業中・清算中の会社は「開業後3年未満の会社」とは区別されます。
株式取得者とその同族関係者の議決権割合の合計が50%以下の場合は、純資産価額方式で算出した評価額の80%に相当する金額で評価する取り扱いがあります。
比準要素数が0または1の会社
類似業種比準価額方式では、「1株当たりの配当金額(B)」「1株当たりの利益金額(C)」「1株当たりの純資産価額(D)」の3つの比準要素を使用します。 財産評価基本通達189条(1)の定めにより、直前期末の比準要素のうちいずれか2つがゼロであり、かつ直前々期末を基準に計算した場合もいずれか2つ以上がゼロである会社を「比準要素数1の会社」、3つすべてがゼロの会社(開業後3年未満の会社等に含まれる)を「比準要素数0の会社」といいます。
| 分類 | 内容 | 評価方法 |
|---|---|---|
| 比準要素数0の会社 | B・C・Dの3要素すべてがゼロ | 純資産価額方式のみ |
| 比準要素数1の会社 | B・C・Dのうち直前期末で2要素・直前々期末で2要素以上がゼロ | 純資産価額方式(または純資産価額方式と類似業種比準価額方式の折衷) |
比準要素数0の会社は類似業種比準価額方式を使えないため、純資産価額方式による評価が原則となります。 比準要素数1の会社については、純資産価額方式、またはその25%と類似業種比準価額方式の75%を組み合わせた方法で評価する取り扱いがあります。
土地保有特定会社・株式等保有特定会社
保有する資産のうち特定の資産が一定の割合を超える会社は、「特定の評価会社」として原則的に純資産価額方式が適用されます。
土地保有特定会社は、課税時期における相続税評価額による総資産価額に占める土地等の割合が、会社規模等に応じた一定の割合以上の会社です。 不動産を大量に保有する資産管理会社などがこれに該当することがあります。
株式等保有特定会社は、財産評価基本通達189条(2)の定めにより、課税時期における相続税評価額による総資産価額に占める株式・出資・新株予約権付社債の合計額の割合が50%以上の会社です。 持株会社や投資会社などがこれに該当する場合があります。
| 分類 | 判定基準 | 適用される評価方法 |
|---|---|---|
| 土地保有特定会社 | 総資産に占める土地等の割合が一定以上 | 原則として純資産価額方式 |
| 株式等保有特定会社 | 総資産に占める株式等の割合が50%以上 | 原則として純資産価額方式(S1+S2方式との選択も可) |
いずれの特定の評価会社に該当するかは、会社の資産構成を細かく確認したうえで判定する必要があります。 自社が特定の評価会社に該当するかどうかの判断は、税理士にご相談ください。
純資産価額方式による評価でお困りの方は少数株Laboへ

非上場株式の相続税評価は、株式会社繁栄 少数株Laboへご相談ください。
本記事で解説した純資産価額方式は、資産・負債の科目別の取り扱いや評価時点の判断、法人税等相当額の控除率など、正確に計算するためには専門的な知識が欠かせません。 株式会社繁栄が運営する少数株Laboでは、非上場株式の評価・譲渡・売却に関するご相談を承っています。
こんなお悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください。
- 相続した非上場株式をどう評価すればよいかわからない
- 純資産価額方式で計算した評価額が正しいか確認したい
- 小会社・特定の評価会社に該当するかどうか判断できない
- 評価額が高くなりそうで、相続税の負担が心配
- 非上場株式を相続したが、売却または処分の方法を探している
少数株Laboでは、無料相談を受け付けています。 「まず評価の仕組みを教えてほしい」という段階からでも、お気軽にお問い合わせください。 豊富な解決実績を持つ専門スタッフが、あなたの状況に合った最適な方法を一緒に考えます。
まとめ|純資産価額方式の要点と税理士への相談について
本記事では、非上場株式の相続税評価における「純資産価額方式」について、基本的な考え方から計算式・資産負債の科目別取り扱い・評価時点・特定の評価会社まで、一般的な制度として幅広く解説しました。
最後に、純資産価額方式の重要なポイントを整理します。
| 項目 | 要点 |
|---|---|
| 基本的な考え方 | 課税時期に会社を解散した場合に株主へ返ってくる金額をもとに評価 |
| 計算式 | (相続税評価額による純資産 - 法人税等相当額)÷ 発行済株式数 |
| 法人税等相当額 | 評価差額(含み益)× 38%(令和7年12月31日以前の相続・贈与は37%) |
| 資産の評価 | 財産評価基本通達に基づく相続税評価額(時価)を使用 |
| 負債の計上 | 確定した債務のみ計上・引当金は計上しない |
| 評価時点 | 原則として課税時期(仮決算)・著しい変化がなければ直前期末も可 |
| 発行済株式数 | 課税時期の実際の株式数(自己株式控除後) |
| 80%評価 | 取得者と同族関係者の議決権割合が50%以下の場合に適用 |
| 特定の評価会社 | 開業後3年未満・比準要素数0または1・土地保有・株式等保有特定会社は原則適用 |
純資産価額方式は、会社の保有資産の実態を反映する評価方式であるため、不動産や有価証券の含み益が大きい会社では評価額が高くなりやすい傾向があります。 また、令和8年4月1日以後の相続・贈与では法人税等相当額の控除率が38%となっているため、課税時期の確認も重要です。
非上場株式の評価は、相続税申告の中でも特に複雑な領域のひとつです。 計算方法の誤りや見落としが、税額に大きな影響を与える可能性があります。 実際の評価や相続税申告については、非上場株式の評価に精通した税理士にご相談されることをお勧めします。

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