「会社に株式の譲渡を申し出たのに、承認してもらえなかった」。 中小企業や同族会社の株主のなかには、こうした経験をお持ちの方が少なくありません。 譲渡制限株式は、株式の自由な売買が制限されているため、いざ売却しようとしても思うように進まないケースが多く見られます。 そんなときに知っておきたいのが、買取請求という制度です。 この制度を使えば、会社が譲渡を承認しなかった場合でも、会社や指定買取人に対して株式を買い取るよう請求できる場合があります。
とはいえ、買取請求には細かい手続きや期限があり、売買価格の決定方法も複雑です。 何も知らないまま手続きを進めてしまうと、思わぬところで権利を失ってしまう可能性もあります。 本記事では、譲渡制限株式の基本的な仕組みから、買取請求の流れ、売買価格の決定方法、さらには裁判例まで、幅広く解説していきます。 非上場株式や同族会社の株式を保有していて、売却や現金化を検討している方は、ぜひ最後までご覧ください。
なお、本記事は一般的な制度の説明を目的としたものであり、個別の事案における法的判断や税務上の結論を示すものではありません。 実際のお手続きにあたっては、弁護士や税理士などの専門家にご相談いただくことをおすすめします。
譲渡制限株式とは

譲渡制限株式について理解するには、まずその法律上の定義と、なぜこの仕組みが設けられているのかという背景を知ることが大切です。 ここでは、会社法上の定義と、中小企業で広く採用されている理由について解説します。
譲渡制限株式の定義(会社法2条17号)
譲渡制限株式とは、株式を譲渡する際に、あらかじめ会社の承認を得ることが必要とされている株式のことです。 この定義は、会社法2条17号に定められています。 条文では、株式会社が発行する株式の内容として、譲渡による当該株式の取得について会社の承認を要する旨を定めている場合における、当該株式のことを指すとされています。
もう少しかみ砕いていうと、通常の株式であれば、株主は自分の意思で自由に第三者へ売却することができるとされています。 しかし、譲渡制限株式の場合は、そう簡単にはいきません。 株主が第三者に株式を譲渡しようとするときには、あらかじめ会社に対して譲渡承認請求を行い、会社側の承認を得る必要があるとされています。
なお、譲渡制限株式を取得した側、つまり株式を譲り受けようとする人も、同様に会社への承認請求を行うことができるとされています。 これは会社法137条に基づく手続きです。 承認請求のプロセスについては、後の見出しで詳しく解説していきます。
譲渡制限株式が用いられる理由(同族会社・中小企業での活用)
なぜ、多くの中小企業や同族会社は、あえて譲渡制限株式という仕組みを採用しているのでしょうか。 その理由の一つに、株主構成のコントロールがあると考えられています。
株式が誰の手に渡るかわからない状態が続くと、経営者にとって好ましくない人物や競合他社が株主として入り込んでくる可能性があります。 特に、家族経営や少人数で運営されている会社にとっては、これは大きなリスクです。 議決権を持つ株主が増えすぎたり、経営方針と異なる考えを持つ株主が現れたりすると、経営の安定性が損なわれるおそれがあるとされています。
このようなリスクを避けるために、多くの中小企業では、株式の譲渡に会社の承認を必要とする仕組みを設けていると言われています。 実際、日本国内の非上場会社の多くは、定款に譲渡制限の定めを置いていると言われています。 以下に、譲渡制限株式が用いられる主な理由をまとめました。
| 理由 | 内容 |
|---|---|
| 経営権の安定化 | 好ましくない第三者への株式流出を防ぐ |
| 株主構成の把握 | 誰が株主であるかを会社側が常に把握できる |
| 事業承継対策 | 後継者以外への株式分散を防止する |
| 敵対的買収の防止 | 会社の同意なく株式を取得されるリスクを軽減する |
このように、譲渡制限株式は、会社の経営基盤を守るための重要な仕組みとして機能していると考えられます。 一方で、株主の立場からすると、自由に株式を売却できないという不便さがあることも事実です。 そこで用意されているのが、次の見出しで解説する「買取請求」という救済手段です。
譲渡制限株式を譲渡する際の3つの選択肢

譲渡制限株式を保有する株主が、その株式を売却しようとする場合、3つの道筋が用意されていると整理することができます。 株式の売却を希望する株主にとって、どの選択肢があり得るのかを理解しておくことは非常に重要です。 ここでは、それぞれの選択肢について詳しく見ていきましょう。
①当初意図した譲渡先への譲渡(会社が承認した場合)
まず1つ目の選択肢は、株主が当初から売却したいと考えていた相手、つまり当初意図した譲渡先への譲渡です。 株主が会社に対して譲渡承認請求を行い、会社側がこれを承認した場合には、株主は希望どおりの相手に株式を譲渡できるとされています。
このケースでは、売却価格についても大きな特徴があります。 会社の承認を得た通常の譲渡の場合、売却額は契約自由の原則にもとづき、当事者間で自由に決めることができるとされています。 つまり、会社や裁判所が介入することなく、株主と譲受人が話し合って価格を決めれば良いということです。
もっとも、実務上は「会社が承認さえしてくれれば、それで解決する」という単純な話ではありません。 中小企業のオーナー経営者にとっては、見知らぬ第三者に株式が渡ることへの警戒感が強く、承認が下りないケースも少なくないと言われています。 その場合に検討することになるのが、次の②と③の選択肢です。
②会社が指定する買取人への売却
2つ目の選択肢は、会社が指定する買取人への売却です。 会社が譲渡を承認しない旨を決定した場合、株主は会社または指定買取人に対して株式を買い取るよう請求できる場合があるとされています(会社法138条1項ハ、2項ハ)。
指定買取人は、会社があらかじめ選定した第三者であり、あらかじめ定款に定めておくこともできますし、その都度、株主総会や取締役会の決議によって指定することも可能とされています。 指定買取人が決まった場合、その買取人が対象株式を買い取ることになります。
この選択肢のポイントは、売却価格の決め方にあります。 売買価格は、まず株主と指定買取人との協議によって定めることが原則とされています。 しかし、協議が調わない場合には、裁判所に対して売買価格決定の申立てを行うことで、裁判所に価格を決定してもらう道が用意されているとされています。 この点については、後述の「売買価格の決定」の見出しで詳しく解説します。
③会社自身への売却(自己株式取得)
3つ目の選択肢は、会社自身が株式を買い取るケースです。 これは、いわゆる自己株式の取得にあたるとされています(会社法155条2号)。
会社が自ら株式を買い取る場合には、株主総会の特別決議による承認が必要とされています。 このとき注意したい点として、譲渡制限株式を譲渡しようとしている株主本人は、この株主総会において、原則として議決権を行使することができないとされています(会社法140条3項)。 ただし、これはあくまで原則であり、譲渡等承認請求者以外の株主の全部が議決権を行使できない場合には、この限りではないとされています。
売却価格の決定方法については、②の指定買取人が買い取る場合と基本的に同じ枠組みが採用されているとされています。 協議による決定が原則ですが、まとまらなければ裁判所への申立てという流れになる場合があります。 また、会社が買い取る場合には、後述する財源規制という独自のルールが適用される点にも注意が必要です。
以下の表で、3つの選択肢を比較してみましょう。
| 選択肢 | 買主 | 売却価格の決め方 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ①当初の譲渡先 | 株主が希望する第三者 | 当事者間で自由に決定 | 会社の承認が前提 |
| ②指定買取人 | 会社が指定した者 | 協議、まとまらなければ裁判所へ | 財源規制の対象外とされる |
| ③会社自身 | 会社(自己株式) | 協議、まとまらなければ裁判所へ | 財源規制の対象とされる |
このように、譲渡制限株式の売却方法は一つではなく、状況に応じて複数の道が用意されていると考えられます。 どの選択肢が現実的かは、会社との関係性や株式の評価額など、個別の事情によって変わってくる可能性があります。 判断に迷う場合には、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
譲渡承認請求から不承認決定までの流れ

株式を売却したいと考えたとき、株主がまず行うべき手続きが譲渡承認請求です。 ここでは、請求の方法から、会社側が承認・不承認を決定するまでの流れを解説します。
譲渡承認請求の方法(会社法136条・137条)
譲渡制限株式を譲渡しようとする株主は、会社に対して、譲渡承認請求を行うことができるとされています。 これは会社法136条に定められた手続きです。
また、すでに株式を取得した人、つまり譲渡を受けた側の株式取得者も、同様に会社に対して承認請求を行うことができるとされています。 こちらは会社法137条1項にもとづく請求です。 実務上は、株主本人が譲渡承認請求書を作成し、会社に提出するというかたちで進められることが一般的とされています。
請求の際には、以下のような事項を明らかにする必要があるとされています。
- 譲渡しようとする株式の種類と数
- 譲渡先となる者の氏名または名称
- 会社が承認しない場合に、会社または指定買取人による買取りを請求するかどうか
特に3点目は重要なポイントです。 買取りの請求をあわせて行っておかないと、会社が単に譲渡を承認しないだけで手続きが終わってしまう可能性があるとされています。 株式を確実に現金化したいと考えている株主は、承認請求のタイミングで、買取請求もあわせて行っておく必要があると考えられます。
承認・不承認の決定機関(株主総会・取締役会)
譲渡承認請求を受けた会社は、これを承認するかどうかを決定しなければならないとされています。 この決定を行う機関は、会社の機関設計によって異なります。
取締役会を設置していない会社の場合は、原則として株主総会の決議によって決定するとされています。 一方、取締役会設置会社の場合は、取締役会の決議によって決定するのが原則とされています。 ただし、定款に別段の定めがある場合には、その定めが優先されます。
ここで注意したいのが、特別利害関係人の取り扱いです。 譲渡制限株式を譲り渡そうとしている株主自身は、この承認・不承認を決める株主総会において、特別利害関係人にあたると解されています。 同様に、取締役会での決議においても、譲渡当事者である取締役は特別利害関係人となり、議決に加わることができないとされています(会社法369条2項)。
このような仕組みが設けられているのは、利害関係のある当事者が自ら意思決定に関与することを避けるためと考えられています。 公平な判断を確保するための重要なルールといえるでしょう。
不承認通知の期限(請求から2週間以内)
会社が譲渡を承認するかどうかを決定した場合、その内容を譲渡等承認請求者に対して通知しなければならないとされています。 この通知の期限は、原則として請求の日から2週間以内とされています(会社法139条2項、145条1号)。
ただし、定款でこれより短い期間を定めている場合には、その期間が適用されます。 実務上は、株主総会や取締役会の招集にも一定の時間を要するため、2週間という期間は決して長くないと感じられる方も多いかもしれません。
特に注意が必要なのが、この期間内に通知がされなかった場合の取り扱いです。 会社法上、期間内に通知がなければ、譲渡等を承認する旨の決定をしたものとみなされるとされています(会社法145条1号)。 つまり、会社側が通知を怠ってしまうと、意図せず譲渡を承認したことになる可能性があるということです。
さらに、代表取締役や代表執行役が通知を怠ったり、不正な通知をしたりした場合には、過料に処せられる可能性があるとされています(会社法976条2号)。 会社側としても、期限管理には細心の注意を払う必要があるといえるでしょう。
譲渡制限株式の買取請求の手続きの流れ
会社が譲渡を承認しない旨を決定した場合、いよいよ買取請求の手続きが本格的に動き出します。 ここでは、買取請求権の基本的な考え方から、実際の手続きの流れまで、順を追って解説していきます。
買取請求権とは(会社法138条・140条)
買取請求権とは、会社が譲渡を承認しなかった場合に、株主が会社または指定買取人に対して、株式を買い取るよう請求できる権利のことをいうとされています。 この権利は、会社法138条1項ハ、2項ハに根拠を持っています。
買取請求権が認められている背景には、投下資本の回収を株主に保障するという考え方があると言われています。 譲渡制限株式は自由に売買できないぶん、株主が「もう保有し続けたくない」と考えたときに、換金する手段が失われてしまう懸念があります。 そこで、会社側が譲渡を認めない代わりに、会社または指定買取人が責任をもって買い取るという仕組みが用意されているとされています。
会社が譲渡等の承認をしない旨を決定したときは、会社または指定買取人が、当該株式を買い取らなければならないとされています(会社法140条1項)。 つまり、会社側にも、一定の義務が課されている場合があるということです。 ただし、この買取義務が発生するのは、株主が承認請求の際に、買取りの請求もあわせて行っている場合に限られるとされている点には注意が必要です。
会社または指定買取人による買取通知
譲渡を承認しない旨の決定がされたあと、次に行われるのが買取通知の手続きです。 誰が買い取るかによって、通知の期限や手続きが異なるとされています。
会社が買い取る場合(不承認通知から40日以内・株主総会特別決議)
会社自身が対象株式を買い取る場合には、まず株主総会の特別決議によって、以下の事項を決定する必要があるとされています。
- 対象株式を買い取る旨
- 会社が買い取る対象株式の数(種類株式発行会社の場合は種類ごとの数)
そのうえで、会社は、譲渡等承認請求者に対し、不承認決定の通知の日から40日以内に、これらの事項を通知しなければならないとされています(会社法141条1項、145条2号)。 定款でこれより短い期間を定めている場合は、その期間が適用されます。
この株主総会決議は、特別決議であることが求められるとされています。 具体的には、議決権を行使できる株主の議決権の過半数(定款で3分の1以上と定めた場合はその割合以上)を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上(定款でこれを上回る割合を定めた場合はその割合)にあたる多数で決議される必要があるとされています(会社法309条2項1号)。 かなり厳格な決議要件が課されていると考えられます。
なお、この40日の期間内に通知がされなかった場合にも、譲渡を承認したものとみなされてしまう可能性があるとされています。 会社側は、決議のスケジュールも含めて、慎重に手続きを進める必要があるでしょう。
指定買取人が買い取る場合(不承認通知から10日以内)
一方、指定買取人が株式を買い取る場合には、より短い期限が設定されているとされています。
指定買取人は、指定を受けたときは、以下の事項を、譲渡等承認請求者に対して、不承認決定の通知の日から10日以内に通知しなければならないとされています(会社法142条1項、145条2号)。
- 指定買取人として指定を受けた旨
- 指定買取人が買い取る対象株式の数
指定買取人の指定手続きについては、取締役会設置会社では取締役会の決議で足りるとされる一方、取締役会を設置していない会社では、株主総会の特別決議によって指定する必要があるとされています。 このように、会社が買い取る場合の40日に比べて、指定買取人が買い取る場合の10日はかなり短い期間です。 指定買取人をあらかじめ定款で定めておくことで、この期限に対応しやすくなるというメリットがあると言われています。 実務上、事業承継対策の一環として、あらかじめ後継者などを指定買取人として定款に定めておく会社も見られるようです。
以下に、それぞれの期限をまとめておきます。
| 買主 | 通知期限 | 決議要件 |
|---|---|---|
| 会社 | 不承認通知の日から40日以内 | 株主総会特別決議 |
| 指定買取人 | 不承認通知の日から10日以内 | 株主総会特別決議(取締役会非設置会社)または取締役会決議(取締役会設置会社) |
供託と供託証明書の交付
買取通知を行う際、会社または指定買取人には、もう一つ重要な義務があるとされています。 それが、供託の手続きです。
会社または指定買取人は、買取通知を行おうとするときは、1株当たりの純資産額に対象株式の数を乗じて得た額を、会社の本店所在地を管轄する供託所に供託しなければならないとされています。 そして、その供託を証する書面、つまり供託証明書を、譲渡等承認請求者に対して、通知の期限内に交付しなければならないとされています。
この供託の目的は、買取りの意思表示を担保し、代金の支払いを確保することにあるとされています。 供託の基準となる純資産額は、会社法施行規則25条にもとづき、資本金や資本準備金、利益準備金などの合計額から自己株式等の帳簿価額を差し引いた帳簿上の金額をもとに算定されるとされています。 時価ではなく簿価にもとづくため、実際の株式価値とは異なる金額になる可能性があるとされている点には留意が必要です。
なお、対象株式が株券発行会社の株式である場合には、供託証明書の交付を受けた譲渡等承認請求者は、交付を受けた日から1週間以内に、対象株式に係る株券を供託しなければならないとされています。 この期間内に株券の供託をしなかった場合、会社や指定買取人は、対象株式の売買契約を解除できる場合があるとされていますので、注意が必要です。
売買価格の決定
買取請求の手続きにおいて、株主にとって最も関心が高いのが売買価格の決定方法ではないでしょうか。 ここでは、価格決定までの3つの段階について解説します。
当事者間の協議
売買価格は、まず当事者間の協議によって定めることが原則とされています(会社法144条1項)。 つまり、会社または指定買取人と、譲渡等承認請求者との間で話し合い、双方が納得できる価格を決めるということです。
しかし、譲渡制限株式は非上場株式であり、市場価格が存在しません。 そのため、「適正な価格がいくらなのか」自体が争点になりやすいという特徴があると言われています。 株式価値の算定方法には複数のアプローチがあり、どの方法を用いるかによって金額が大きく変わってくる可能性があります(評価方法については後述します)。
協議が円滑に進むケースもありますが、当事者双方の主張する金額に大きな開きが生じ、話し合いだけでは解決しない場合も少なくないとされています。 そのような場合に用意されているのが、次の裁判所への申立てという手段です。
裁判所への売買価格決定申立て(買取通知から20日以内)
当事者間の協議が調わない場合、株式会社若しくは指定買取人、または譲渡等承認請求者は、裁判所に対して売買価格決定の申立てを行うことができるとされています(会社法144条2項、7項)。
この申立てには期限があり、会社または指定買取人による買取りの通知があった日から20日以内に行う必要があるとされています。 20日という期間は決して長いものではなく、申立てのタイミングを逃さないことが重要と考えられます。
裁判所は、売買価格の決定にあたり、譲渡等承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならないとされています(会社法144条3項)。 実務では、裁判所が選任した鑑定人による株価鑑定が実施される場合があるとされています。 鑑定にあたっては、後述するインカム・アプローチやマーケット・アプローチなど、複数の評価方法が用いられる場合があります。
なお、裁判所に申立てがされ、裁判所が売買価格を決定した場合には、その申立てにより裁判所が定めた額をもって、対象株式の売買価格とするとされています(会社法144条4項)。 供託していた金額との差額精算についても、この時点で整理されることになると考えられます。
申立てをしなかった場合(1株当たり純資産額が売買価格に)
もし、当事者間の協議もまとまらず、かつ20日以内に裁判所への申立ても行われなかった場合には、どうなるのでしょうか。
この場合、会社法144条5項の定めにより、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額が、そのまま売買価格になるとされています。 つまり、供託した際の基準となった金額が、そのまま最終的な売買価格として確定してしまう可能性があるということです。
この点は、譲渡等承認請求者、つまり株式を売却しようとする株主にとって、特に注意が必要なポイントです。 先述のとおり、供託の基準となる純資産額は、あくまで帳簿上の金額(簿価)にもとづくものであり、必ずしも株式の実際の価値を反映しているとは限らないとされています。 株式の実質的な価値がそれよりも高いと考えられる場合には、期限内に適切な手続きを取らないと、本来得られるはずだった売却代金を得られなくなる可能性があるといえるでしょう。
以下に、売買価格決定の流れをまとめます。
| 段階 | 内容 | 期限 |
|---|---|---|
| 1 | 当事者間の協議 | 特に定めなし |
| 2 | 裁判所への申立て | 買取通知から20日以内 |
| 3 | 申立てがない場合 | 1株当たり純資産額が売買価格になるとされる |
会社が買い取る場合の財源規制

会社自身が譲渡制限株式を買い取る場合には、②や③の選択肢で触れたとおり、財源規制という独自のルールが適用されるとされています。 ここでは、この財源規制の内容と、違反した場合のリスクについて解説します。
分配可能額を超える買取りの制限(会社法461条)
会社が株式を買い取る行為は、会社法上、自己株式の取得にあたるとされています(会社法155条2号)。 自己株式の取得は、会社の財産が外部に流出することを意味するため、債権者保護の観点から一定の規制が設けられていると言われています。
具体的には、対象株式の買取りによって株主に交付する金銭等の総額は、分配可能額を超えることができないとされています(会社法461条1項1号)。 分配可能額とは、簡単にいえば、会社が株主に対して剰余金の配当などを行うことができる金額の上限のことです。 会社の財務状況によっては、この分配可能額が十分でなく、株式の適正価格での買取りが難しくなるケースも考えられます。
なお、この財源規制は、あくまで会社自身が買い取る場合に適用されるものであり、②の指定買取人が買い取る場合には適用されないとされています。 そのため、会社の財務状況によっては、あえて指定買取人を活用するという判断がされる場合もあると言われています。
財源規制に違反した場合のリスク(会社法462条)
もし、分配可能額を超えて株式の買取りが行われてしまった場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。
会社法462条1項の定めによれば、この規制に違反した場合、譲渡等承認請求者、取得行為を行った会社の業務執行者、株主総会や取締役会での議案提案者などが、会社に対して連帯して、交付を受けた金銭の帳簿価額に相当する金銭の支払義務を負う場合があるとされています。
つまり、財源規制に違反した買取りが行われると、株式を売却した株主自身も、支払義務を負うリスクがあるとされているということです。 株主としては「会社が買い取ってくれるなら安心」と考えがちですが、会社の財務状況によっては、思わぬ形で責任を問われる可能性もゼロではないと言われています。
また、株式売買価格決定の申立て事件において、取得財源の規制に違反すると見込まれる金額が裁判所によって示された場合には、譲渡等承認請求者が売買契約を解除できる場合があると解されています。 この場合、契約を解除することで、結果的に会社が譲渡を承認したものとみなされ、財源規制違反そのものを回避できる可能性があるとされています。 いずれにしても、こうした財源規制に関わる判断は専門性が高く、弁護士など専門家への相談が不可欠な領域といえるでしょう。
譲渡制限株式の売買価格(株価)の評価方法

譲渡制限株式は非上場株式であるため、市場価格が存在しません。 そのため、売買価格を決めるにあたっては、専門的な評価方法を用いて株式の価値を算定する必要があるとされています。 ここでは、代表的な3つのアプローチについて解説します。
インカム・アプローチ(DCF法・配当還元方式・利益還元方式)
インカム・アプローチは、会社が将来的に生み出すと期待される収益やキャッシュフローにもとづいて、株式の価値を評価する方法です。 将来の収益獲得能力を評価に反映させる点で、理論的には優れた算定方法の一つとされています。
代表的な手法として、以下の3つが挙げられます。
- DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法):将来のフリーキャッシュフローの予測値を、加重平均資本コストで割り引いて現在価値を算出する方法で、実務上広く用いられている手法の一つとされています。
- 配当還元方式:株主が実際に受け取る配当金にもとづいて株主価値を評価する方法です。ただし、配当をほとんど行っていない企業や、成長投資を優先している企業では、株式価値が過小評価される場合があるとされています。
- 利益還元方式:会計上の純利益を一定の割引率で割り引いて株主価値を算定する方法で、収益還元法と呼ばれることもあるとされています。
インカム・アプローチは、会社の将来性や個別事情を反映しやすい反面、予測にもとづく評価であるため不確実性が伴うという側面もあると言われています。 特にDCF法は、将来のキャッシュフロー予測や割引率の設定によって、算出される金額が大きく変わる可能性がある点に注意が必要です。
マーケット・アプローチ(類似会社比較法など)
マーケット・アプローチは、実際に市場で取引されている類似企業の株価や、M&A事例などを参考にして、対象会社の株式価値を評価する方法です。
代表的な手法には、以下のようなものがあります。
- 市場株価平均法
- 類似会社比較法(類似上場会社法)
- 類似取引比較法
このうち、類似上場会社法は、対象会社と事業内容や規模が類似する上場企業の市場株価と比較して評価を行う方法であり、実務上広く用いられている手法の一つとされています。
マーケット・アプローチのメリットは、実際の市場取引環境を反映させることができる点にあるとされています。 一方で、完全に類似した上場企業を見つけることは容易ではなく、業種によっては比較対象となる企業自体が少ないという課題もあります。 そのため、対象会社固有の事情や強みを十分に反映しきれない場合があるとされている点は、デメリットとして押さえておく必要があるでしょう。
アセット・アプローチ(簿価純資産法・時価純資産法)
アセット・アプローチは、会社が保有する資産から負債を差し引いた純資産額にもとづいて、株式価値を評価する方法です。 将来性ではなく、現時点での会社の資産状況を基準とする点が特徴とされています。
代表的な手法として、以下の2つが挙げられます。
- 簿価純資産法:貸借対照表上の会計上の数値をそのまま使って、1株あたりの純資産額を算出する方法です。客観性に優れる一方、時価と簿価が大きく乖離している場合には、実態を正しく反映できない場合があるとされています。
- 時価純資産法(修正簿価純資産法):貸借対照表の資産や負債を時価で評価し直したうえで、純資産額を算出する方法です。ただし、すべての資産・負債を時価評価することは実務上困難であるとされており、不動産など主要な資産の含み損益のみを時価評価するかたちが一般的とされています。
アセット・アプローチは、客観性が高く、比較的堅実な評価方法とされる一方で、企業のブランド力やノウハウ、将来の成長性といった無形の価値を反映しにくいという限界もあると言われています。 そのため、実務上は、これら3つのアプローチを単独で用いるのではなく、複数を組み合わせて評価するケースも多く見られるとされています。
以下に、3つのアプローチの特徴を整理しました。
| アプローチ | 評価の視点 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| インカム・アプローチ | 将来の収益力 | 個別性を反映しやすい | 予測にもとづくため不確実性がある |
| マーケット・アプローチ | 市場の取引実績 | 客観性・時価への近さ | 類似企業の選定が難しい |
| アセット・アプローチ | 現在の純資産 | 客観性が高い | 無形資産や将来性を反映しにくい |
なお、実際の評価額は会社ごとの財務内容や事業内容によって大きく異なるため、正確な評価は税理士や公認会計士などの専門家にご確認いただくことをおすすめします。
売買価格の決定に関する裁判例

売買価格の決定については、これまでにいくつかの裁判例が積み重ねられていると言われています。 ここでは、特に押さえておきたい裁判例を紹介します。 以下の内容はあくまで一般的な傾向の紹介であり、個別の事案における結論を保証するものではありませんので、実際の判断は弁護士にご確認ください。
非流動性ディスカウントに関する最高裁決定(会社法144条2項)
近年、実務上注目されているのが、非流動性ディスカウントの可否に関する最高裁決定です。 非流動性ディスカウントとは、対象となる株式に市場性がないことを理由に、評価額から一定の減価を行う考え方のことをいうとされています。
最高裁令和5年5月24日第三小法廷決定では、会社法144条2項にもとづく譲渡制限株式の売買価格の決定において、収益還元法などを用いて株式価格を算定する場合に、非流動性ディスカウントを行うことができると判断されたとされています。
この判断が注目される理由の一つに、別の場面における従来の最高裁判例との違いがあると考えられています。 組織再編にともなう株式買取請求(会社法785条1項など)の場面については、平成27年の最高裁決定において、非流動性ディスカウントを行うことができないと判示されていたとされています。 これに対し、令和5年の最高裁決定は、会社法144条2項にもとづく譲渡制限株式の売買価格決定については、平成27年決定の射程が及ばず、非流動性ディスカウントを行うことができる場合があると整理したとされています。
なぜ、同じ「非上場株式の価格決定」でありながら、このように結論が分かれるのでしょうか。 その背景には、制度の趣旨の違いがあると考えられています。 組織再編にともなう買取請求は、反対株主に公正な対価を保障するための制度であるのに対し、譲渡制限株式の売買価格決定は、あくまで譲渡が制限されている株式について、任意の譲渡と同様の条件での投下資本回収を保障する制度である、という整理がされている場合があるとされています。
株主の立場からすると、非流動性ディスカウントが適用されることで、評価額が想定より低くなる可能性があるという点は、実務上、重要な意味を持つと考えられます。 ご自身が保有する株式について、こうした判断がどのように影響するかは、事案の個別事情によって大きく異なる可能性があるため、弁護士や公認会計士など専門家への相談をおすすめします。
配当還元方式の適用が制限された裁判例
売買価格の決定にあたり、配当還元方式に重きを置くことの是非が争点となった裁判例も存在するとされています。
ある裁判例では、株式会社自身が指定買取人として株式を取得する事案において、配当還元方式・純資産方式・収益方式を一定の割合で組み合わせた併用方式が採用されました。 この際、株式会社側は、配当還元方式により重きを置くべきであると主張しましたが、裁判所は、自己株式を取得する会社は、その株式について将来配当を受け取る立場にはならないという点を踏まえ、配当還元方式に重きを置くことはできないと判断したとされています。
この裁判例からは、「誰が株式を取得するのか」によって、適切な評価方法が変わり得るという考え方を読み取ることができます。 一般株主同士の取引を想定した配当還元方式の考え方が、必ずしもすべての場面に当てはまるわけではないという点は、押さえておきたいポイントです。
純資産方式が不適当とされた裁判例
一方で、純資産方式(アセット・アプローチ)を採用することが不相当とされた裁判例も存在するとされています。
ある裁判例では、創業から間もないベンチャー企業について、含み益のある不動産などの資産をほとんど保有していない一方、成長力が高く、売上が順調に推移している事業の進展状況が認められました。 このような会社について、裁判所は、純資産方式を採用すると株式価値を過小に評価するおそれがあるとして、純資産方式の採用(併用を含む)は相当ではなく、収益還元方式によって評価するのが相当であると判断したとされています。
この裁判例は、成長段階にあるベンチャー企業や、有形資産よりも将来の収益力に価値の源泉がある会社にとって、示唆に富む内容といえるでしょう。 評価方法の選択は、会社の事業内容や成長ステージによって、柔軟に判断される場合があると考えられます。
なお、上記2つの裁判例の詳細(裁判所名・年月日等)については、公開に際して判例データベース等で最終確認のうえご参照ください。
以下に、紹介した裁判例のポイントを整理します。
| 裁判例の論点 | 判断の傾向 |
|---|---|
| 非流動性ディスカウントの可否(最高裁令和5年) | 会社法144条2項の場面では認められる場合があるとされる |
| 配当還元方式への偏重の是非 | 自己株式取得の場面では偏重できない場合があるとされる |
| 純資産方式の適否 | 成長企業では収益還元方式が相当とされる場合がある |
譲渡制限株式の買取請求における注意点

最後に、実際に買取請求の手続きを検討するにあたって、押さえておきたい注意点を整理します。
手続きの期限管理の重要性
これまで見てきたとおり、譲渡制限株式の買取請求には、さまざまな期限が設定されているとされています。
| 手続き | 期限 |
|---|---|
| 不承認通知 | 請求から2週間以内 |
| 会社による買取通知 | 不承認通知から40日以内 |
| 指定買取人による買取通知 | 不承認通知から10日以内 |
| 裁判所への売買価格決定申立て | 買取通知から20日以内 |
これらの期限は、いずれも株主・会社双方にとって重要な意味を持つ期間と考えられます。 特に、会社側が期限内に通知を怠った場合には、譲渡を承認したものとみなされてしまう可能性があるとされています。 一方、株主側も、裁判所への申立て期限である20日を過ぎてしまうと、簿価にもとづく低い評価額で売買価格が確定してしまう可能性があるとされています。
このように、双方にとって期限管理が重要な意味を持つ制度であるため、手続きを進める際には、スケジュールを綿密に管理することが欠かせないと考えられます。 特に、株式評価には一定の時間がかかることも多いため、早め早めの準備が重要になってくるといえるでしょう。
他の株主への影響・情報管理
買取請求の手続きを進めるうえで、意外と見落とされがちなのが、他の株主への影響です。
会社が株式を買い取る場合には、株主総会での特別決議が必要とされています。 そのため、株主総会の議題として、買取りの事実が明らかになり、他の株主にも情報が伝わる可能性があるという点には注意が必要です。
これにより、他の株主のあいだで「自分たちも株式を売却したい」という機運が高まり、さらなる買取請求が連鎖的に発生するケースも実務上は見られると言われています。 会社側としては、こうした事態を見越して、あらかじめ指定買取人を定款で定めておくなど、手続きをスムーズに進めるための事前対策を検討しておくことが望ましいでしょう。
一方、株式を売却したい株主の立場からすると、こうした会社側の事情や、他の株主との関係性についても、あらかじめ理解しておくことが、円滑な交渉につながる場合があります。 いずれの立場であっても、譲渡制限株式をめぐる問題は、法的な専門知識と、会社の実情を踏まえた総合的な判断が求められる領域です。 少しでも不安がある場合には、早い段階で弁護士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
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まとめ
本記事では、譲渡制限株式の買取請求について、その基本的な仕組みから、手続きの流れ、売買価格の決定方法、そして関連する裁判例まで、幅広く解説してきました。
譲渡制限株式は、会社の経営基盤を守るために有用な仕組みである一方、株主にとっては「思うように売却できない」という不便さを抱える制度でもあると考えられます。 そうした株主の立場を保護するために設けられているのが、買取請求という仕組みです。
ただし、買取請求の手続きには、2週間、40日、10日、20日といった、さまざまな期限が設定されているとされています。 これらの期限を一つでも見落としてしまうと、想定していた結果を得られなくなる可能性があるため、慎重な手続き管理が欠かせません。 また、売買価格の決定方法についても、インカム・アプローチやマーケット・アプローチ、アセット・アプローチなど複数の評価方法があり、さらに近年の最高裁決定によって非流動性ディスカウントの考え方にも変化が見られるとされています。
譲渡制限株式の売却や評価をめぐる問題は、法律・税務の両面にわたる専門的な知識が求められる領域です。 「会社が承認してくれない」「買取価格に納得できない」といったお悩みをお持ちの方は、一人で抱え込まず、早めに専門家へ相談することをおすすめします。 正確な評価額や手続きの見通しについては、弁護士や税理士などの専門家にご確認いただくことをおすすめします。

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