「非上場株式を持っているけれど、配当もなく、売ろうにも売り先が見つからない」。 そんな悩みを抱える少数株主は、決して少なくありません。 上場株式であれば市場で自由に売却できますが、非上場株式には市場そのものが存在しないため、換金の道が限られています。 そこで注目されるのが「株式買取請求権」という制度です。 この権利をうまく使えば、会社の一定の行為に反対することで、株式を公正な価格で会社に買い取ってもらう道が開ける場合があります。 一方で、この制度は要件や期限が細かく定められており、知らないまま放置していると、権利そのものを失ってしまう可能性もあります。 この記事では、株式買取請求権の基本的なしくみから、行使できる場面、手続きの流れ、価格の決め方、さらには交渉による任意売却まで、非上場株式の少数株主が知っておきたい情報を体系的に整理しました。 なお、本記事は一般的な制度説明を目的としたものであり、個別の事案については弁護士や税理士などの専門家にご相談いただくことをおすすめします。
株式買取請求権の基本を理解する

株式買取請求権とはどのような権利か
株式買取請求権とは、会社が一定の重要な行為をおこなう際に、それに反対する株主が、自己の保有する株式を「公正な価格」で買い取るよう会社に請求できる制度のことをいいます。 たとえば、会社が合併や事業譲渡といった、経営の根幹に関わる決定をおこなうとします。 このとき、その決定に賛成できない株主がいたとしても、株式会社は多数決の原理で動く組織であるため、反対した株主も決定には従わざるを得ません。 しかし、それでは反対株主の利益が一方的に害されてしまう可能性があります。 そこで会社法は、こうした場合に限り、株主が投下した資本を回収できるように、株式買取請求権という退出の手段を用意しているとされています。 イメージとしては、「この会社の方向性にはついていけないので、公正な価格で株を引き取ってほしい」と会社に申し出られる、いわば株主の非常口のような制度だと考えると分かりやすいでしょう。 なお、株式買取請求権という言葉は、根拠となる条文によって細かく性質が異なる場合があります。 反対株主の株式買取請求(会社法116条、469条、785条など)と、譲渡制限株式の譲渡承認が得られなかった場合の買取り(会社法140条前後)は、しくみとしては似ていますが、制度としては別物とされています。 この違いを混同したまま話を進めると、行使できる期限や手続きを誤ってしまうおそれがあるため、記事の中盤でそれぞれの制度を分けて詳しく解説していきます。
なぜ株主は原則として会社に買取りを請求できないのか
そもそも論として、株主には、原則として、自分の意思だけで会社に株式の買取りを求める権利はないとされています。 これは一見すると株主に不利な制度のように感じられるかもしれませんが、そこには合理的な理由があると考えられています。 株式会社という制度は、株主からの出資によって成り立つ資本団体です。 もし株主が自由に「株を買い取ってほしい」と請求でき、会社がそれに応じなければならないとすると、会社の財産的な基盤が大きく揺らいでしまう可能性があります。 会社の現金がどんどん株主への払い戻しに使われてしまえば、取引先や金融機関といった会社債権者が、思わぬ損害を被る可能性も出てきます。 そのため、会社法は、株主による買取請求を無制限には認めず、株主が著しく不利益を受けるおそれがある、特定の場面に限って例外的に認めるという設計を採用しているとされています。 具体的には、事業譲渡や合併といった組織再編、株式の併合、譲渡制限の導入など、株主にとって重大な影響を及ぼす行為がおこなわれる場面です。 これらの場面に該当しない限り、少数株主が「株を買い取ってほしい」と会社に求めても、会社には法的な買取義務は生じないとされています。 この原則を理解しておくことが、株式買取請求権を正しく活用するための最初の一歩といえるでしょう。
非上場株式で株式買取請求権が問題になりやすい理由
株式買取請求権は、上場株式・非上場株式のどちらにも適用され得る制度です。 しかし実務上、この権利が特に重要な意味を持つのは、非上場株式の場面だといわれています。 その理由は単純で、非上場株式には売買の相手を見つける市場が存在しないからです。 上場株式であれば、株主総会の決定に不満があっても、証券取引所で株式を売却し、現金化することができます。 ところが非上場会社の株式には、そうした売却の受け皿がありません。 さらに、多くの非上場会社、とくに中小企業や同族会社では、定款によって株式に譲渡制限が付されているケースがほとんどとされています。 譲渡制限が付いていると、株式を第三者に売りたいと思っても、会社の承認を得なければ譲渡できません。 このような状況の中で、相続によって非上場株式を取得した株主や、経営から退いた役員株主などが、「配当も得られず、経営にも関与できないのに、換金する手段もない」という八方ふさがりの状態に陥ることがあるといわれています。 株式買取請求権は、こうした非上場株式特有の閉塞感を打開するための、数少ない法律上の出口のひとつとして機能する場合があります。 ただし、この権利はあくまで一定の要件を満たした場合に限り行使できるものであり、単に株式を売りたいという理由だけでは行使できない点は、押さえておく必要があります。
法律にもとづき株式買取請求権が認められる場面

株式買取請求権が認められる場面は、会社法によって限定的に定められています。 以下の表で、代表的な場面と根拠条文の全体像を確認しておきましょう。
| 場面 | 主な根拠条文 |
|---|---|
| 事業譲渡等 | 会社法469条、470条 |
| 合併・会社分割・株式交換・株式移転・株式交付 | 会社法785条、797条、806条など |
| 株式の併合 | 会社法182条の4 |
| 譲渡制限・全部取得条項を付す定款変更 | 会社法116条 |
| 種類株主に損害を及ぼすおそれのある行為 | 会社法116条1項3号 |
| 単元未満株式の買取請求 | 会社法192条 |
それぞれの場面について、順番に見ていきます。
事業譲渡等がおこなわれる場合
会社が事業譲渡等をおこなう場合、これに反対する株主には株式買取請求権が認められているとされています。 ここでいう事業譲渡等とは、事業の全部の譲渡や、事業の重要な一部の譲渡、他の会社の事業全部の譲受けなど、会社の存立に関わる行為を指します。 事業譲渡等は、会社の事業そのものの土台を大きく変える行為であるといえます。 そのため、株主総会の多数決によって事業譲渡等が承認された場合であっても、これに反対した株主に対しては、保有株式を公正な価格で受け取って会社から退出する機会を保障する趣旨で、株式買取請求権が用意されているとされています。 なお、事業の全部譲渡と同時に会社の解散が決議された場合や、譲受会社にとって影響が軽微な「簡易の事業譲受け」に該当する場合には、例外的に株式買取請求権が認められないケースもあるとされています。 このように、事業譲渡等の場面における株式買取請求権には、いくつかの例外規定も存在するため、自社のケースが該当するかどうかは、条文や専門家の見解を確認しながら慎重に判断することが望ましいでしょう。
合併・会社分割などの組織再編がおこなわれる場合
合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式交付といった、いわゆる組織再編の場面でも、株式買取請求権が認められる場合があるとされています。 組織再編は、事業譲渡等と同じく、会社そのものに本質的な変更をもたらす行為です。 たとえば吸収合併では、消滅会社が存続会社に吸収され、法人格そのものがなくなってしまいます。 組織再編それ自体は株主総会の多数決でおこなうことができますが、その決定に反対する少数派の株主も、当然ながら存在し得ます。 そこで、組織再編に反対する株主に対しては、保有する株式を公正な価格で会社に買い取ってもらい、会社から退出する機会を確保・保障するために、株式買取請求権が認められているとされています。 もっとも、こうした組織再編の場面でも、株主が受け取る対価が「持分等」である場合や、会社の規模から見て影響が軽微な「簡易組織再編」に該当する場合には、例外的に株式買取請求権が認められないことがあるとされています。 組織再編は手続きが複雑になりやすいため、対象となる行為が本当に株式買取請求権の対象になるのかどうか、事前にしっかりと確認しておくことが重要だといえます。
株式の併合がおこなわれる場合
株式の併合とは、複数の株式をまとめて1株にするなど、株式の単位を大きくする手続きのことです。 株式併合は、投資単位を整理する目的でおこなわれることもありますが、近年では、いわゆるキャッシュ・アウト、つまり少数株主を締め出す目的でおこなわれるケースも見られるといわれています。 たとえば、それまで100株を1株とする株式併合をおこなうと、99株以下しか保有していない株主は、併合後には1株に満たない端数株主となってしまいます。 会社は、この端数となった株式について、株主に現金を交付して買い取ることができるとされており、結果として少数株主を会社から退出させることが可能になる場合があります。 このように、株式の併合は株主の地位に極めて大きな影響を及ぼす手続きであるため、株主を保護する目的で、株式併合に反対する株主には株式買取請求権が認められています(会社法182条の4)。 反対株主は、会社に対して、自分が保有している株式を公正な価格で買い取るよう請求できるとされています。 なお、この株式併合における買取請求権は、会社法116条にもとづく買取請求権とは根拠条文が異なるため、両者を混同しないよう注意が必要です。
株式に譲渡制限や全部取得条項が付される場合
会社が、それまで自由に譲渡できた株式に対して、新たに譲渡制限を設ける定款変更をおこなう場合があります。 株式に譲渡制限が課されると、その株式を譲渡するためには、会社の承認が必要になります。 承認が得られなければ譲渡はできませんし、仮に承認が得られたとしても、手続きには一定の時間がかかることになります。 その結果として、株主は投下した資本を思うように回収できなくなる可能性が高まるとされています。 そこで、株主に投下資本回収の機会を保障し、株主の利益を保護するために、譲渡制限を課すことに反対する株主には、株式買取請求権が認められています(会社法116条1項1号)。 また、全部取得条項とは、株主総会の決議によって、会社がある種類の株式の全部を取得できるようにする定めのことです。 全部取得条項が付された株式は、キャッシュ・アウトの手段として活用されることがあるといわれています。 この全部取得条項を付す定款変更に反対する株主にも、同様に株式買取請求権が認められています(会社法116条1項2号)。 なお、中小企業の多くは、会社設立の当初から、原始定款において譲渡制限がすでに課されているケースが一般的とされています。 そのため、実務上、この116条にもとづく買取請求権が新たに行使される場面は、それほど多くないとされています。
種類株主に損害をおよぼすおそれのある行為がおこなわれる場合
会社が複数の種類の株式を発行している場合、ある種類の株式を保有する株主(種類株主)に損害を及ぼすおそれのある行為をおこなう際には、原則として種類株主総会の決議が必要になります。 しかし、定款の定めによって、この種類株主総会の決議を省略できる場合があります(会社法322条2項)。 この省略が定款で認められているにもかかわらず、実際に種類株主に損害を及ぼすおそれのある行為がおこなわれるときは、当該種類株主に対して株式買取請求権が認められています(会社法116条1項3号)。 対象となる行為には、株式の併合や分割、株式の無償割当て、単元株式数についての定款変更、株主割当てによる募集株式や新株予約権の発行などが挙げられます。 この場面は、実務上、やや専門的な判断を要することが多い分野とされています。 自社の株式に該当する行為があるかどうか迷った場合には、弁護士などの専門家に個別に確認することをおすすめします。
単元未満株主による買取請求
単元株とは、一定数の株式をひとまとまりとし、その単位に満たない株式しか持たない株主(単元未満株主)に対しては、限定された権利のみを認める制度のことです。 たとえば、100株を1単元とする会社であれば、100株以上を保有する株主は完全な株主としての権利を持ちますが、99株以下しか保有していない株主は、議決権をはじめとする多くの権利が制限されてしまいます。 単元未満株主は、株主総会の議決権を行使できず、招集通知も送付されないため、経営にほとんど関与できない立場に置かれるとされています。 その一方で、権利が制限されているがゆえに、株式の買い手も見つかりにくく、投下資本の回収が難しくなるという問題が生じるといわれています。 そこで、単元未満株主を保護するために、単元未満株主は、いつでも会社に対して、自分が保有する単元未満株式の買取りを請求できるとされています(会社法192条)。 この単元未満株式の買取請求は、これまで解説してきた反対株主の買取請求権(会社法116条など)とは異なる制度である点に注意が必要です。 反対株主の買取請求権が、会社の特定の行為に反対することを条件としているのに対し、単元未満株式の買取請求は、反対の意思表示をしなくても、いつでも行使できるという特徴があるとされています。
反対株主として株式買取請求権を行使する手続きの流れ

株式買取請求権は、要件を満たしただけで自動的に発生するものではないとされています。 決められた手順を踏んで、はじめて行使することができる権利です。 ここでは、反対株主として株式買取請求権を行使するための、具体的な流れを見ていきましょう。
反対株主になるための条件
株式買取請求権を行使するには、まず「反対株主」としての要件を満たす必要があるとされています。 反対株主になるための条件は、会社法116条2項などに定められており、大きく分けて2つのステップから成り立っています。
株主総会前に反対の通知をする
まず、株主総会(種類株主総会を含みます)に先立って、当該総会の決議事項に反対する旨を、会社に対して通知する必要があるとされています。 この事前通知の手続きが法定されている理由は、あまりに多くの株式買取請求権が一度に行使されると、会社から現金が大量に流出し、会社の財政基盤が危うくなるおそれがあるためといわれています。 事前に通知をおこなうことで、会社側としても、どの程度の買取請求が見込まれるかを、ある程度予測できるようになるという意味合いがあります。 なお、そもそも議決権を行使することができない株主については、この事前の反対通知は不要とされています。
株主総会で反対の議決権を行使する
事前の通知に続いて、実際に開催された株主総会において、当該議案に反対の議決権を行使することが必要とされています。 議決権行使書が郵送されてきた場合には、実務上、反対の欄に丸をつけたうえでコピーを保管し、書留などの記録が残る方法で会社に返送するといった対応がとられることがあるといわれています。 このように、口頭やその場の意思表示だけでなく、書面などの形に残る形で反対の意思を明確にしておくことが、後々のトラブルを避けるうえでも重要になってきます。 なお、株主総会の決議自体が不要とされている場合には、この議決権行使の要件も不要となる場合があります。
株式買取請求権を行使できる期間
反対株主としての要件を満たしたあと、実際に株式買取請求権を行使できる期間には、明確な期限が設けられているとされています。 具体的には、対象となる行為の効力が発生する日(効力発生日)の20日前の日から、効力発生日の前日までの間に、株式買取請求をおこなう必要があるとされています。 このとき、買取請求の対象となる株式の数(種類株式発行会社の場合は、種類と種類ごとの数)を明らかにする必要があります。 また、株券発行会社の場合には、あわせて株券の提出も求められることになります。 この期間はけっして長いものではないため、期限をうっかり見過ごしてしまうと、株式買取請求権そのものが行使できなくなってしまうという重大なリスクがあるといわれています。 会社側から組織再編などの通知や公告があった場合には、その日付を必ず確認し、期限から逆算してスケジュールを組み立てることが大切だといえるでしょう。
ひとたび行使すると原則として撤回できない点への注意
株式買取請求は、いったん行使すると、原則として会社の承諾を得なければ撤回できないとされています。 このルールが設けられている理由は、株式買取請求権を行使したあとで株価が上昇した場合に、株主が請求を撤回して株式を保有し続ける、といった投機的な行動を防止するためだといわれています。 つまり、株式買取請求は「とりあえず行使しておいて、様子を見る」といった軽い気持ちでできるものではなく、慎重な判断のもとで行使すべき手続きだといえます。 ただし、例外的に、買取価格についての協議が整わないまま、一定の期間内に裁判所への価格決定の申立てがおこなわれなかった場合には、株主はいつでも請求を撤回できるとされているケースもあります。 実務では、この撤回の可否についての判断が複雑になりやすいため、行使前の段階で専門家に相談し、行使後の見通しを立てておくことが望ましいでしょう。
買取価格はどのように決まるのか

株式買取請求権を行使した株主にとって、もっとも気になるのは、やはり買取価格がいくらになるのかという点でしょう。 ここでは、価格が決まる流れと、非上場株式の評価に使われる代表的な手法について解説していきます。
まずは株主と会社の協議で決める
株式買取請求権を行使したあとの買取価格は、原則として、株主と会社との間の協議によって決定することとされています(会社法117条1項など)。 「公正な価格」という言葉が条文上使われていますが、この公正な価格が具体的に何円になるのかについては、法律上一義的に定まっているわけではないとされています。 そのため、株主としてはできるだけ高い価格での買取りを希望する一方で、会社側としてはできるだけ低い価格で買い取りたいと考えることが多く、この協議の場面で意見が対立しやすい傾向があるといわれています。 協議の場では、非上場株式の評価方法や、直近の決算内容、類似する業種の状況などが、話し合いの材料として用いられることが一般的とされています。
協議がととのわない場合は裁判所が価格を決定する
株主と会社との協議で価格が決まらない場合には、株主または会社のいずれからでも、裁判所に対して価格決定の申立てをおこなうことができるとされています(会社法117条2項など)。 裁判所が関与する手続きに進むことで、株主としては、公的な機関による客観的な判断を受ける機会を得られるというメリットがあるといわれています。 株主総会で決議された価格に納得がいかない株主にとって、この裁判所による価格決定の手続きは、投下資本を適正に回収するための、有効な手段のひとつになり得るとされています。 ただし、裁判所による価格決定には、鑑定などの専門的な手続きが必要になることが多く、時間や費用がかかる点にも留意しておく必要があります。
非上場株式の評価によく用いられる手法
非上場株式には、上場株式のような市場価格が存在しません。 そのため、株式の評価にあたっては、いくつかの計算手法が組み合わせて用いられることが一般的とされています。 代表的な評価手法を、以下の表にまとめました。
| 評価手法 | 特徴 |
|---|---|
| 純資産価額方式 | 会社の純資産を基準に評価する方法 |
| 配当還元方式 | 将来の配当額を基準に評価する方法 |
| DCF方式 | 将来のキャッシュフローを基準に評価する方法 |
| 収益還元方式 | 将来の利益を基準に評価する方法 |
| 類似会社比準方式 | 類似する上場会社の指標を基準に評価する方法 |
それぞれの手法について、もう少し詳しく見ていきましょう。
純資産価額方式
純資産価額方式とは、会社が保有している資産から負債を差し引いた純資産額をもとに、1株あたりの価値を算出する評価方法とされています。 この方式は、会社の決算書に記載された数字をベースに計算できるため、比較的シンプルで分かりやすいという特徴があります。 一方で、会社の将来的な収益力が反映されにくいという側面もあるとされているため、単独で用いられるというよりは、他の評価方式とあわせて参考にされることが多いといわれています。 なお、純資産価額方式には、帳簿上の価額を用いる方法と、時価に引き直して評価する方法とがあり、後者のほうがより実態に近い評価になるとされる傾向があるといわれています。
配当還元方式
配当還元方式とは、株主が将来受け取ることが見込まれる配当額を予測し、その配当額を一定の割引率で割り引くことで、株式の価値を評価する方法とされています。 この方式は、少数株主のように、会社の経営に関与せず、配当のみを期待する立場の株主を評価する際に用いられることがある手法とされています。 ただし、非上場の中小企業の中には、そもそも配当をほとんどおこなっていない会社も少なくありません。 そのような場合、配当還元方式による評価額は、実際の株式の価値と比べて低くなってしまう可能性がある点には、注意が必要だといえるでしょう。
DCF方式・収益還元方式・類似会社比準方式
DCF方式(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー方式)は、会社が将来生み出すと見込まれるキャッシュフローを予測し、投資のリスクを反映させた割引率で現在の価値に割り引くことで、会社の価値を算出する方法とされています。 DCF方式は、裁判例においても実際に用いられている評価手法のひとつとされており、理論的にすぐれた手法として位置づけられることがあるといわれています。 収益還元方式は、1株あたりの会社の利益を、一定の資本還元率で割ることによって株式の価値を評価する方法とされています。 類似会社比準方式は、評価対象の会社と業種や事業内容が似ている上場会社の株価指標をもとに、倍率をあてはめて評価する方法とされています。 実務上は、これらの手法のうちいずれかひとつだけを用いるのではなく、複数の手法を組み合わせて評価する裁判例も見られるとされています。 どの評価手法を採用するのが適切かについては、会社の状況や争いの性質によって異なるため、一般論として断定することは難しく、専門家の意見を踏まえながら判断することが望ましいとされています。
ディスカウントをめぐる考えかた
非上場株式の評価では、ディスカウント(評価額の減額)の考え方が問題になることがあります。 ここで重要なのは、株式買取請求権の場面と、譲渡承認が得られなかった場合の売買価格決定の場面とでは、裁判所の取り扱いが異なるとされている点です。 この違いを理解しておくことが、非上場株式の評価を考えるうえでの大切なポイントになります。
反対株主の株式買取請求の場面での取り扱い
組織再編などに反対する株主が、会社法785条などにもとづいて株式買取請求権を行使する場面では、非流動性ディスカウント、つまり非上場株式には市場性がないことを理由とする減価について、慎重な判断が示されている場合があるとされています。 過去の最高裁の判断(最高裁平成27年3月26日決定)では、収益還元法によって株式の買取価格を決定する場合に、非流動性ディスカウントを行うことはできないとされたケースがあると報告されています。 この背景には、株式買取請求権の趣旨が「反対株主に公正な価格での買取りを保障すること」にあるという考え方が関係しているとされています。 つまり、この場面では、単に非上場株式であることを理由に、機械的に価格を割り引くことは認められにくい傾向があるとされています。
譲渡承認が得られず売買価格が決まる場面での取り扱い
一方で、株式の譲渡承認請求に対して会社が承認をせず、会社法144条2項にもとづいて売買価格が決定される場面では、事情がやや異なるとされています。 近時の最高裁の判断(最高裁令和5年5月24日決定)では、DCF方式によって算定された評価額から、非流動性ディスカウントを行うことができるとされたケースが報告されています。 この場面は、株式買取請求権とは異なる制度にもとづく手続きであるため、同じ「非上場株式の評価」というテーマであっても、場面によって結論が異なる場合があるという点に注意が必要です。 なお、この分野は判例の蓄積が続いている、比較的新しい論点でもあるとされています。 今後、この取り扱いが変化していく可能性も否定できないため、実際に評価額が問題となる場合には、最新の裁判例をふまえた専門家の助言を受けることを強くおすすめします。
法律の手続きによらず交渉で売却する方法

ここまで解説してきた法律上の株式買取請求権によらずとも、株主と会社との交渉によって、株式を任意に売却するという方法もあるとされています。 実務上は、こちらの方法が用いられる場面も多いといわれています。
交渉による任意売却とはなにか
交渉による任意売却とは、法律上の株式買取請求権の要件にとらわれることなく、株主と会社(または株主同士)が話し合いによって株式の売買条件を決める方法のことです。 裁判のように公になる手続きではないため、外部からは実態が見えにくい面がありますが、実務上はこのような任意売却がおこなわれることも多いとされています。 たとえば、M&Aの手法として株式譲渡が用いられる場合や、経営の閉鎖性を重視する中小企業において、役員兼株主同士の対立が生じた際に、株式を買い取ってもらうことで関係を清算するといった場面が挙げられます。 また、相続によって非上場株式を取得したものの、配当も得られず、経営に関わる意欲もない株主が、会社に対して任意売却を持ちかけるケースもあるといわれています。 当事者双方に、株式を購入・売却する法的な義務があるわけではないため、交渉がまとまらない可能性があるという点は、あらかじめ理解しておく必要があります。
交渉で売却するメリット
交渉による任意売却には、法律上の手続きにはない独自のメリットがあるとされています。 以下、代表的な2つのメリットを見ていきましょう。
時間や費用をおさえられる
法律上の株式買取請求権を行使する場合、事前の通知や議決権行使、期限内の請求、裁判所への申立てなど、多くの法定手続きを踏む必要があります。 これらの手続きには、当然ながら一定の時間と専門的な知識、そして費用がかかります。 これに対して、交渉による任意売却であれば、法定の手続きは不要ですし、裁判所の関与も必要ありません。 そのため、当事者間で合意さえ成立すれば、比較的短期間で株式を現金化できる場合があるという点は、メリットのひとつだといえるでしょう。
売却する相手を自分で選べる
法律上の株式買取請求権では、売却の相手方はあらかじめ会社(または指定買取人)に限定されています。 これに対して、任意交渉による売却では、買取価格などの条件だけでなく、誰に売却するかも比較的自由に決められる場合があるという特徴があります。 非上場株式は市場に上場していないため、売却の相手方は会社になりがちですが、国内外には非上場会社の株式を専門的に扱う投資家や事業者も存在するとされています。 こうしたプライベートエクイティ(PE)と呼ばれる投資家や事業者を見つけることができれば、会社以外への売却によって、より高い水準での現金化が期待できる場合もあるといわれています。
交渉で売却するデメリットと注意点
交渉による任意売却には、メリットがある一方で、注意すべき点も存在するとされています。 まず、任意売却の買取価格は、当事者間の交渉、つまり自由な意思によって決まります。 良くも悪くも、買取価格は当事者の合意次第であるため、専門知識や交渉力に差がある場合には、一方に不利な条件で株式が譲渡されてしまうリスクがあるとされています。 法律上の株式買取請求権であれば、価格に納得がいかない場合に裁判所へ価格決定を申し立てられますが、任意売却においては、そうした裁判所による公的な判断を仰ぐ仕組みがありません。 そのため、交渉を有利に進めるためには、株式の適正な価値を裏付ける資料をあらかじめ準備しておくことや、専門知識を持つ弁護士などに交渉を委任することが、現実的な対応策になるとされています。
会社以外の買い手を探すという選択肢
非上場株式の売却を検討する際には、いきなり会社に対して買取りを求めるのではなく、会社以外の第三者の買い手を探すという選択肢も有効だとされています。 会社側は、買取りを拒否したり、非常識な低い価格でしか買い取ろうとしなかったりすることがあるといわれています。 また、株式の買取りを希望する具体的な買い手が存在しない段階では、会社としても、買取りに応じる必要性を真剣に検討しないケースがあるといわれています。 そのため、株式を適正な価格で買い取ってくれる第三者の買い手をあらかじめ見つけておくことは、その後の交渉を有利に進めるうえでも、重要な準備のひとつになるとされています。 ただし、非上場会社の株式には譲渡制限が付いていることがほとんどであるため、買い手が見つかったとしても、会社の承認を得るための手続きが別途必要になる点は忘れてはいけません。
非上場株式を有利に売却するためのポイント

ここまで解説してきた制度や手続きをふまえて、非上場株式をできるだけ有利な条件で売却するために、押さえておきたいポイントを整理します。
株式の適正な価値を把握しておく
非上場株式の売却交渉において、もっとも土台となるのは、自分が保有する株式の適正な価値を把握しておくことだといわれています。 会社側から提示される買取価格が、必ずしも株式の実態を反映しているとは限りません。 先ほど紹介した純資産価額方式やDCF方式など、複数の評価手法を組み合わせて、おおよその評価額の目安をあらかじめ持っておくことで、交渉の場で根拠のある主張をしやすくなる場合があります。 評価額の算定には専門的な知識が必要になる場面も多いため、公認会計士や税理士といった専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
会社側に第三者への売却も検討していることを示す
会社との交渉においては、その株式を実際に買おうとする第三者が存在することを、会社側に認識させることが重要なポイントになるとされています。 会社としては、交渉が決裂した場合に、株式が第三者に譲渡されてしまったり、裁判所での価格決定の手続きに発展したりする可能性を意識せざるを得なくなります。 その結果として、会社が適切な価格での買取りに応じやすくなるという傾向が、一般的な交渉の場面では見られるといわれています。 もちろん、こうした交渉の進め方や結果は個別の状況によって大きく異なるため、断定的な結論を出すことはできません。 自社の状況に応じた進め方については、非上場株式の交渉に精通した専門家に相談しながら検討することが望ましいでしょう。
譲渡承認請求とあわせて買取先の指定を請求する
非上場株式を第三者へ譲渡しようとする場合には、まず会社に対して譲渡承認請求をおこなう必要があります(会社法136条、137条)。 このとき、会社が譲渡を承認しない場合に備えて、会社または会社が指定する指定買取人が株式を買い取ることをあわせて請求できるとされています(会社法138条)。 この請求をおこなっておくことで、仮に会社が譲渡を承認しなかった場合でも、会社側に株式の買取義務が発生するとされています(会社法140条)。 会社が承認するかどうかの通知は、請求の日から2週間以内におこなわれるとされ、この期間内に通知がなければ、譲渡を承認したものとみなされる扱いになる場合があります。 また、会社が譲渡を承認しない場合には、その通知から40日以内に、会社自身または指定買取人による買取りの通知がおこなわれる必要があるとされています。 このように、譲渡承認請求から買取りに至るまでの一連の手続きには、複数の法定期限が連続して存在するため、期限の管理を誤らないよう注意深く進める必要があります。
税務リスクにも配慮する
非上場株式の売却を検討する際には、税務面でのリスクにも配慮しておくことが大切だといわれています。 たとえば、会社が譲渡制限株式を買い取る場合、税務上は自己株式の取得として扱われ、みなし配当課税の対象になる場合があるとされています。 一方で、株式併合に反対する株主の買取請求や、単元未満株式の買取請求など、手続きの根拠となる会社法上の規定によっては、みなし配当の対象から除かれる取扱いがあるとされているため、「株式買取請求権を行使すれば必ずみなし配当になる」とは限らない点にも留意が必要です。 また、買取価格が株式の時価と比べて著しく低い金額に設定された場合には、購入する側に贈与税の負担が生じる可能性があるとの指摘もあります。 このように、株式の売買価格は、法律上の適正性だけでなく、税務上の観点からも慎重に検討する必要がある論点です。 非上場株式の売却にあたっては、弁護士だけでなく、税理士などの専門家にもあわせて相談することで、思わぬ税務リスクを回避しやすくなるといえるでしょう。
株式買取請求や非上場株式の売却でよくある質問

ここでは、株式買取請求権や非上場株式の売却について、よく寄せられる質問に回答していきます。
少数株主に会社への買取請求権はありますか
少数株主に、会社に対する株式買取請求権が認められるかどうかは、状況によって異なるとされています。 原則として、株主には、会社の特定の行為に反対する場合などの例外的な場面を除いて、会社に対して株式の買取りを求める請求権はないとされています。 一方で、事業譲渡や組織再編、株式の併合、譲渡制限の導入といった一定の行為がおこなわれる場面では、反対株主として株式買取請求権を行使できる場合があるとされています。 また、単元未満株式を保有している場合には、反対の意思表示をしなくても、いつでも買取りを請求できる制度が用意されています。 自分のケースが株式買取請求権の対象になるかどうかについては、対象となる会社の行為の内容や、株式の保有状況などを踏まえて、専門家に個別に確認することをおすすめします。
会社に株式を買い取る義務はありますか
原則として、会社には、株主からの株式買取請求に無条件で応じる法的な義務はないとされています。 そのため、少数株主が会社に対してやみくもに買取りを求めても、拒否されたり、低い価格しか提示されなかったりするケースがあるといわれています。 ただし、株式買取請求権の要件を満たす場合や、譲渡承認請求に対して会社が承認をしなかった場合には、例外的に会社側に買取義務が発生するとされています。 このように、「会社に買取義務があるかどうか」は、置かれている状況によって結論が変わり得るポイントです。 会社が買取りに応じてくれないとお悩みの場合には、自分のケースがどの制度に該当するのかを、まず整理することが解決の第一歩になるでしょう。
買取価格が低すぎる場合はどうすればよいですか
会社から提示された買取価格が、実際の株式の価値と比べて低いと感じる場合には、まずその算定根拠を確認することが大切だとされています。 会社側が具体的な算定方法や根拠資料を開示しない場合や、説明が抽象的なままである場合には、追加の説明や資料の提示を求めることで、論点を具体化させることが有効だといわれています。 また、会社がディスカウントを主張している場合には、どのような根拠にもとづく減額なのかを、名称だけで判断せず、評価方法とあわせて確認する必要があります。 それでも協議が整わない場合には、株式買取請求権にもとづく場合であれば裁判所への価格決定の申立て、任意売却の交渉であれば専門家を交えた交渉の継続など、複数の選択肢が考えられます。 いずれの場合も、非上場株式の評価は専門性の高い分野であるため、公認会計士や弁護士など、専門家の助言を受けながら対応を検討することをおすすめします。
非上場株式の相続・売却は株式会社繁栄 少数株Laboへご相談ください
非上場株式や少数株式に関する株式買取請求権の行使、譲渡承認手続き、価格交渉は、上場株式とは異なり、専門的な知識と豊富な経験が求められる分野です。 株式会社繁栄が運営する少数株Laboでは、非上場株式の譲渡・売却に関するご相談を承っています。 こんなお悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください。
- 会社に株式の買取りを申し出たが、拒否されてしまった
- 譲渡承認請求をしたのに、会社から承認が得られなかった
- 会社から提示された買取価格が、明らかに低いと感じる
- 株式買取請求権を行使したいが、期限や手続きが複雑でわからない
- 非上場株式の評価額を、専門家の視点で確認してほしい
少数株Laboでは、無料相談を受け付けています。 「まず話を聞いてほしい」という段階からでも、お気軽にお問い合わせください。 ご相談者様の状況に合わせて、対応方法をご提案いたします。

まとめ|非上場株式の売却は専門家への相談を検討しましょう
ここまで、株式買取請求権の基本的なしくみから、行使できる場面、手続きの流れ、価格の決め方、そして交渉による任意売却まで、幅広く解説してきました。 非上場株式は、市場での売却ができないという特有の事情から、少数株主が現金化に苦労しやすい資産だといえます。 しかし、株式買取請求権という法律上の制度や、会社との交渉による任意売却など、いくつかの選択肢が用意されていることも、あわせて確認できたのではないでしょうか。 一方で、株式買取請求権には細かな要件や期限があり、また、非上場株式の評価には専門的な知識が求められる場面も少なくありません。 制度を正しく理解しないまま行動してしまうと、行使できたはずの権利を逃してしまうおそれもあります。 非上場株式の売却や、株式買取請求権の行使をご検討されている場合には、早い段階で弁護士や税理士、公認会計士といった専門家に相談することを強くおすすめします。 この記事が、非上場株式の売却という難しいテーマに向き合う皆さまにとって、少しでも道しるべとなれば幸いです。

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